農園便り

昨日コーヒーを出荷してシーズンを終えたと思ったら、油断大敵。やめて~。

CBB(Coffee berry borer:スペイン語名ブロッカ)という害虫がコナで猛威を振るっている。

CBBは春に雨が降ると活動を活発化してコーヒーを襲う。エルニーニョのおかげで、今年のコナは深刻な干ばつで11月末以降、雨が降らなかった。もし、まとまった雨が降ったらCBBが一斉に活動を始めて大変なことになるので、最初の大きな雨の後はCBBの対抗処置をしなければならないと心配していた。

昨日、コーヒーを出荷して、やっとシーズンが終了したと寿司屋で祝った。私が酔っ払ってはしゃいでいる間に、いきなり3か月ぶりに、うちの畑でまとまった雨が降った。

よって、今日からCBB対策をしなければならず、オフシーズンのないまま、今日から新シーズンが始まってしまった。

今年は全然、休息できなかった。農業とはこんなものだ。とほほ。

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2016/03/17   yamagishicoffee

コーヒーを日本へ出荷した(空輸)

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今日、コーヒーを出荷した。
山岸コーヒーでは年に一度、一年分のコーヒーを日本へ出荷する。
1月末に収穫が終了し、2月に倉庫でコーヒーを寝かせて、3月に精製所でパーチメントの皮を割ってシルバースキンを取り除き生豆にする。それをサイズ別に選別し、比重選別機で比重の軽い豆、虫食い豆、欠陥豆を取り除き、100ポンド(45キロ)の麻袋に入れる。

 

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次に、麻袋を写真の緑色のビニール袋を2重にして入れる。さらにそれを段ボール箱に詰めて飛行機で日本まで空輸する。
コナ空港で飛行機に載せる前に、USDA(連邦政府の農務省)と州政府の検査を受ける。それぞれの検査官が来て、豆の衛生状態やら原産地やらの検査をして出荷の認可をもらう。

ビニール袋に2重に入れるのは州の法律で数年前から課せられたもの。ハワイ島から日本へはかつてはJALが直通便を飛ばしていたが、今はホノルル空港経由となる。この荷物もホノルル空港で別の飛行機に積み替えられる。ハワイ島にCBB(スペイン語でブロカ)という害虫が発生した。それが、ホノルル空港で積み替えをしている間に逃げ出し、オアフ島のコーヒー農園に拡散するのを防ぐための処置。最初はビニール袋一つでよかったが、昨年から2重にすることが義務化された。ところが、オアフ島のコーヒー農園は昨年からCBBの被害が広がっており、今更、強化しても意味はないが、一度法律が作られると、なかなか廃止するのには時間がかかるらしい。とりあえず、ビニール袋に入れることにより気密性が保たれて生豆の保存にはよいので、こちらとしても悪いことではない。

ここ数日は100ポンドの袋を運び続けて体中が痛い。袋をサイズ別に仕分けし、袋を持ち上げ、ビニール袋に入れて、さらにそれを段ボールに入れて、それをトラックに積み込み、空港でトラックから運び出し、検査を受けたらパレットに載せて航空会社へ引き渡す。

そういったわけで、今日はこれから鍼治療ということになった。その後は、シーズン終了を祝って、妻と寿司屋でささやかな祝杯だ。

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2016/03/16   yamagishicoffee

珈琲と文化の原稿 害虫対策について

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季刊誌の「珈琲と文化」が創刊100号を記録しました。25年の長きに渡っての珈琲業界に情報を提供していただいています。今般、100号を記念して別冊号が発行され、そこに「ハワイ島コナ害虫対応奮闘記」というエッセイを寄稿しました。
以下に転載します。

ハワイ島コナ害虫対応奮闘記

山岸コーヒー農園

山岸秀彰

http://yamagishicoffee.com


第1章 CBBとは

 2010年にCBB(Coffee Berry Borer)という害虫がハワイ島に上陸した。近年ハワイコナコーヒーが品薄になったのはこれが原因だ。中南米のスペイン語圏ではブロカとも呼ばれ、コーヒーには最大の害虫。世界中のコーヒー産地に生息して、ハワイにはいなかったが、ついに上陸した。上陸の原因は不明。旅行者の服などに付着して来たか、ブレンド用に輸入している他国産の生豆に含まれていたなどの原因が考えられる。

CBBは体長1ミリ以下。コーヒーの果実に50-100個の卵を産む。種子の中で成虫し、早くて5週間で世代交代する。オスとメスの割合は1対4。メスは飛ぶがオスは飛べない。飛べないどころか、オスは一生を生まれた実から出ずに暮らす。なにせ家にはメスが4倍。大もてだ。外出する気にならない。卵を抱えたメスは雨が降ると実から出て近くの新たな実に入り込み産卵する。仮に5週間で50倍に増えるとすると、10週間で2,500倍、6ヶ月間で3億倍の計算になる。対策なしでは畑は全滅する。虫食いの実が地面に落ちると、地上の乾いた実の中でも6ヶ月以上も生き延びて翌年の畑を襲う。

よく日本人の産地視察レポートで、「この農園ではトラップ(罠)でCBBを退治している」などの記述を見かける。これはトラップ内のエタノールとメタノールの匂いに誘われて入ったCBBが石鹸水で溺れる仕組みだが、畑のどこにCBBが多いかを調べる道具で、これでCBBは減らない。これにかかるCBBは全体の数%。そんなアルコール臭よりも本物のコーヒーの実が好きらしい。この人は、農園主に体よくあしらわれて視察を終えたことになる。農園の倉庫を覗けば、ずらっと殺虫剤が並んでいるかもしれない。

 CBBを捕食する天敵でCBBの蔓延を防いでいる、あるいは、ニンニク、唐辛子、ハーブなどを使用するなどの説明も同様で、劇的な効果はない。虫を追い払うよりも、そういう説明で煙に巻いて視察に来た人を追い払う程度の効果しかない。

 

第2章 他の産地でのCBB対応策

 世界の産地でCBBの対応策の第一は、なんと言っても殺虫剤の使用である。大多数のコーヒー農園で殺虫剤が使用されていると推定される。

 畑の中のCBBの8割は実の中にいる。通常の接触型殺虫剤では実の外の2割にしか効かない。よって、コーヒーの実に染み込み、中のCBBを殺す農薬が開発されている。

コーヒーの栽培・精製方法は気候・風土によって異なるように、CBBも対策が異なる。中米やブラジルのように乾期・雨季が明確で、収穫が短期間に集中する地域は、果実の熟度が揃うので、成熟のピークに合わせ、わずか数回の殺虫剤散布で対応が可能である。

しかし、コロンビアのように年間をとおして常に実が生り、年に2度も収穫ピークがある産地では、一年中殺虫剤を散布し続ける必要がある。そこで、コロンビアを中心に、殺虫剤を削減、あるいは使用せずに対応する試みも研究、実践されている。IPM(Integrated Pest Management)である。

 その骨子は以下のとおり。

1.頻繁にサンプリングにより畑の中の被害率・被害状況を把握する。

2.適切なタイミングで農薬を使用することにより、使用頻度を減らす。

3.殺虫剤の代わりにBeauveria Bassianaという白カビ(後述)の導入。
4.区画ごとに剪定を行う。その区画は1年間、実がないのでCBBも根絶できる。

5.ウェットミルの発酵槽にふたをするなど、ミルから畑への還流を防ぐ。

6.収穫時に完熟・過熟実を摘み残さない、また、地面に落とさない。

7.収穫シーズンの終わりに、すべての完熟実・過熟実を取り除く(ストリッピング)。

 このうち6と7が重要。虫食い実が地面に落ちると翌年に被害が繰り越される。完熟実・過熟実を摘み損ねると、乾燥して地面に落ちる。CBBの棲家をすべて畑から取り去ることが肝要。

 

第3章 コナでのCBB対応策

 コナの収穫期間の長さは、中米とコロンビアの間である。標高の低い地域では収穫時期は3ヶ月ぐらいであるが、標準的な標高では4ヶ月以上に渡る。また、標高の高い地域では1年中収穫が続く。

 6年前のCBB発生以来、州政府や農業団体が中心となって、コロンビア型のCBB対策をハワイ風にアレンジした啓蒙活動が盛んに行われている。その骨子は以下の通り。

1.コロンビア人の専門家を招聘しIPMの導入。セミナー・ワークショップの開催。

2.農薬の規制の厳しいアメリカでは他国で使用される殺虫剤が使用できない。殺虫剤の代わりにBeauveria Bassianaを導入した。これは白カビの一種。農家はカビ胞子の濃縮液を購入し、希釈して畑に散布する。実や葉に胞子が付着し、CBBが産卵の為に実から出てきて歩き回ると胞子がCBBの体に付着して1週間程で体内にカビが生えて虫が死ぬ。一種の生物農薬で、殺虫剤と違って、散布後1~2週間は胞子が生き続けて効果が持続する。また、CBBが耐性を獲得しないので、効かなくなることがない。そして、昆虫類以外の生物へは無害である。   

3.Beauveria Bassianaの問題点は、費用が高いこと。しかし、連邦政府などから補助金を取得し、農家がこれを割安で買える制度を作った。

4.Square Neck Beetleという天敵の普及活動。ハワイには固有種の動植物が多いので、勝手に外から天敵となる昆虫を持ち込むのは御法度。偶然にもハワイに既に生息するSquare Neck Beetleが虫食い穴から進入してCBBとその幼虫を食べることが発見された。各農家はそれを育て、定期的に畑に放している。

5.ハワイ島から他島への拡散を防ぐために、他島への生豆の移動を禁止。2015年にオアフ島の農園には拡散したが、カウアイ島とマウイ島ではCBBは確認されていない。生豆を日本へ空輸する場合にはオアフ島のホノルル空港を経由するので、麻袋は二重にビニール袋の中に梱包する義務が課された。

 

第4章 コナの問題点

 これらの努力にもかかわらず、コナのCBB被害は甚大で、他の産地以上にこれを制圧することが困難。それにはいくつかの要因が考えられる。

1.最大の要因は農薬の規制。アメリカはコーヒー産出国の中で、最も厳しい農薬の使用規制がある。よって、コナでは他の産地で使用されている農薬は使えない。

2.専業農家の欠如。19世紀末に日本人移民が発展させたコナコーヒーも、今では日系4世・5世。彼らは他に仕事を持ち、週末だけの農業。また、70年代に米本土から渡り、担い手となったヒッピーたちも今は高齢。この新たな害虫と闘う気力のある農家は少ない。コーヒーを諦める農家が続出し、放棄された農園はCBBの楽園と化す。隣の畑がそうなるとCBBがどんどん飛んでくる。ますます諦める農家が増える。

3.統一的な統制の困難さ。コナには600軒以上のコーヒー農家があるといわれる。うち、何軒が既にコーヒー栽培を諦めたかは不明。放棄された畑はCBBが野放しとなり、真剣に取り組む農家には迷惑だが、個人の権利の強いアメリカでは、放棄する側にも放棄する権利はある。それをがんばり続ける側や市政府がとやかく介入することは法的に不可能だ。よって、町全体が協力して対応することは困難である。

4.労働者確保の問題。コーヒーの農作業は重労働だ。アメリカ人は失業してもウォール街を占拠して抗議するのには熱中するが、農作業は誰もやりたがらない。よって、中米などからの移民に頼るが、近年の移民規制強化で、その数が絶対的に不足している。しかも、近年の不動産開発ブームで労働者が建設現場に奪われ、益々人材不足。力関係で労働者の方が農園主より強く、めんどうな作業が求められるIPMの強要は困難。実を地面に落とすななどと要求すると、うるさいこと言わない隣の農園へ労働者が流れる。

5.収穫時に地面に実を落とさないことが翌年の被害を抑える要であるが、コナでは、これが他の産地よりも難しい。第一に地面は溶岩だらけ。実を落とすと溶岩の隙間に入って拾えない。さらに、コナの品種はティピカ。最高級品種だが背が高い。コナはコーヒーに最適の気候なので、ティピカが他の産地よりも驚くべき速さで成長する。収穫はフックで高い幹を手繰り寄せて、たわませて実を摘む。その際にどうしても実が地面に落ちる。品種改良された矮小種を育てる他国にはない悩みである。

6.コナのCBBは他の産地のCBBよりも繁殖力が強い印象を私は持つ。ここ数年、他国の専門家と話したり、他の産地に視察に行った経験から、他国での対策をそのままコナで行っても、コナのCBBには到底太刀打ちできないと感じる。コナは、他国では栽培が困難な原種に近いティピカでさえ驚異的なスピードで生育する最高の気候・テロワールを持っている。その気候は太古からコーヒーとともに進化してきたCBBにとっても最高の気候と感じられる。その繁殖力は尋常ではない。

 

第5章 山岸農園での取り組み

さて、こうした逆境のなか、山岸コーヒー農園では様々な試行錯誤を重ねながら以下に述べるような対応を行ってきた。その甲斐あって、山岸コーヒー農園はCBBの被害率は被害が始まった最初の年を除き、5年連続で1%以下に抑えることに成功した。コナコーヒー農家600軒の中で、被害率はダントツに低い水準である。

1.精鋭部隊の結成

 農園主が収穫作業やその他農作業を行う農園は少ないが、山岸農園では我々夫婦が中心になって行う。5エーカー(7,000坪)と小規模であるが、2人では手が回らないので、一組のメキシコ人夫婦を年間を通して雇っている。パートナーとして利益を配分する約束なので、彼らがまじめに働いて害虫の被害を最小限に抑えれば、彼らの収入も増える。固定給や時給で雇うのとは、品質に対する責任感が違ってくる。

2.きれいな収穫の励行

 まず、収穫の際には地面に実を落としてはいけない。落としたら拾う。さらに、収穫用のバスケットにジップロックの袋を付ける。摘み取った赤く完熟した健康な実はバスケットへ入れる。虫食いの実や、過熟実、過熟して黒く乾燥した実はジップロックへ入れて捨てる。過熟実や乾燥した実には、緑や赤の実よりも多くのCBBが集中している場合が多いのでこれらを確実に畑から取り去ることが重要。

 三週間で畑を一周し、同じ木を三週間毎に摘む。各回、未熟の緑の実だけを残し、赤い完熟実、過熟実、黒く乾燥した実は枝に残さない。完熟実を摘み残すと過熟後アルコール臭を発し、CBBに襲われる。三週間後に戻ってくる前に、乾燥してCBBを抱えたまま地面に落ちて、翌年のCBBの被害が広がる。よって、赤い実を摘み残してはいけない。

3.ストリッピング

収穫時期の終盤の1月に収穫量全体の10~20%程度が熟さずに枝に残っていても、それらを摘み取って捨てる(ストリッピング)。翌年の実が大きくなる3月までの間に、畑に実(CBBの棲家)が存在しない状況を作る。この期間が長いほど良い。中米やブラジルのように乾季雨季の差が明確で短期間に収穫する地域では、畑に実のない期間が5ヶ月にも及び、地面に落ちたCBBの多くが死滅する。しかし、コナでも標高の比較的高い山岸農園では自然体ではそのような期間は存在しないので、収穫量を犠牲にしても終盤に残っている実を強制的に取り除き1~2ヶ月の空白時期を作る。

また、普段はサンプリング用に使う例のエタノールとメタノールのトラップ(罠)は、この実のない期間には、かなりの捕獲効果がある。捕れるだけ捕る。

4.天敵の飼育

 昨年、CBBよりもひとまわり大きいSquare Neck Beetle がCBBのいる実に入り込み、CBBの成虫や幼虫を食べるのが発見された。発見した老人は偉い。いったい幾つの虫食いの実を開けて観察すると、こういう発見に至るのだろう。私なんか最近変な虫が多いなと呑気にプチプチ指で潰していた。発見後、家のバスルームで飼育したら、入れ物から逃げ出して、バスルーム中が虫だらけになった。

5.木を健康に保つ

健康な木には抵抗力があるので、一般的な害虫は体力の弱った木を襲う。よって、木を健康に保つことが害虫への第一の防衛策である。しかし、CBBの場合は事情が違う。CBBは不健康な木の不健康な豆は襲わない。健康な実を選んで襲う。既にCBBが取り付いた木や実が栄養不足で不健康になると、CBBは嫌がって中から出てきて近くの健康な実へ移る。したがって、不健康な木とその周りには虫食い実の数が増える。

CBBは住む実が健康だと居心地が良いので、2世代目、3世代目も同じ実の中で暮らすこともある。その3世代住宅の実が赤くなる頃には中に200匹以上ものCBBが集中する。収穫の際にその実をきちんと取り去れば、一個の実で200匹以上を退治できるので効率が良い。つまり、赤い実の方が一個当たりのCBBの数が多いから、取り残してはいけない。不健康な木だと、一個の実の中のCBBの数が少ないが、虫食いの実の数が多くなるので、より多くの虫食い実を取り除かなければならず効率が悪い。

6.カビ胞子散布の励行

 前述のBeauveria Bassianaという白カビの胞子を散布する。これはコナの自然界に存在する。胞子が直接、昆虫類に付くと、そこから体内にカビが生えて昆虫を殺す。  

 これを月に1~2度程度散布する。定期的に散布するのではなく、被害状況のほか、雨量や湿度を見ながら散布時期を決める。CBBのメスは雨が降ると実の中から出てきて、産卵のために近くの実に入り込む。そのタイミングで散布すると効果的。湿度が高ければ、実や葉の表面に付着したカビの胞子も生き延びて、CBBが歩き回ると胞子を体に巻きつける。効果が2週間以上に渡って持続する。 乾燥した日が続いている時に散布しても、CBBは実の中に潜んでいるので効果はないし、実や葉の表面に付着したカビの胞子もすぐに死んでしまうので効果が持続しない。

7.カオリン

 山岸農園ではカビの胞子を散布する際にカオリンという粘土を混ぜて噴霧する。カオリンは中国の景徳鎮の磁器に使われる粘土で、有機栽培の果物の害虫対策に用いられる。よくリンゴやブドウの表面に見かける白い粉のコーティングがカオリン。胃薬や整腸剤に入っている物質で食べても問題ない。

 果実に粘土の膜を施すと、ザラザラした表面を害虫が嫌がり、果実に侵入するのを防ぐ。山岸農園では世界に先駆けてコーヒーにカオリンを使用した。CBBを抑制する効果は確実にある。ただし、収穫時期が始まると使えない。シーズン最初の収穫では、まだコーティングが残っていて、実を摘むと粉が舞い上がり、涙は出るは、くしゃみは出るは。コナでも追随する農家が数軒あるが、他国での使用実績はないと思われる。   

8.微生物群

カビ胞子を散布する際にカオリンの他に乳酸菌や酵母菌などの有用微生物群も混ぜて散布する。その効果の程は私には未だ不明で、おまじない程度かもしれない。目的は虫食い実が地面に落ちた後に、微生物がその実を早く分解して彼らの家を破壊することにある。翌年までCBBが生き残るのを防ぐ。

6年前にCBBが初上陸し、まだ対処方法を知らない頃、私はこれを考え付いた。微生物の液は比較的安価に作れる。同じ頃、これと同じ原理のものを法外な値段で販売する者が現れた。原材料は企業秘密で公開されなかったが、私には臭いでその正体が判った。CBBが発生して、誰もどう対処すべきか判らない時に、最初に登場した対処法で、すごく効果があるとの証言者が相次ぎ、一般の人々も飛びついた。かなり売れたらしい。しかし、やがて、その販売者と証言者たちがグルだと判明し、その商品は店頭から消えていった。効果は不明。混乱期にはこういう人物が現れる。商魂たくましくて感心する。  

9.ハンドピッキング 

 これまで述べてきた方法で、他の産地ではCBBを相当程度、抑制できるかもしれないが、コナでは1%以下に抑えるには不充分と感じる。コナのCBBは元気すぎる。

 山岸農園では、春から秋にかけて、畑の中の全ての木の全ての枝の全ての実を何度も見て回り、虫食いの実を取り除く。CBBは生後5週間で卵を産むので、畑を月に一周のペース回る。5エーカーの畑には3,300本の木に数千万個の実があるので、その全ての実を見て回るには、忍耐力を要する。他の農園からはクレイジーといわれるが、これなくして1%以下に抑えるのは、強力な農薬でも使わない限り無理だ。おそらく、これを行うのは、コナはおろか、世界中の農園でも、山岸農園だけだと思う。 

世間は気違い扱いするが、コツがある。3月・4月は花が咲いたばかりで、実の数が少ない。そこへ待ってましたとばかり前年に地面に落ちた実の中からCBBが出てきて襲うので、急激に虫食いが進む。畑にまだ実が少ないその時期に丁寧に虫食い実を取り除くことは比較的容易。これで自分の畑に潜んでいたCBBはあらかた退治できる。

しかし、私の畑はまわり三方を虫食いの畑に囲まれ(南と東の畑は100%、北は約20%の被害率)、ドンドン飛んでくるので、作業は続く。夏には実が多すぎて、見落としが多くなるが、9月の収穫開始時期に被害率を0.1%以下に抑えられれば、1月の収穫終了時に5%程度まで上昇しても、シーズン全体の平均で1%以下に抑えられる。   

この作業は集中力を要する。一つでも見逃すと一ヶ月後に戻って来た時には、十倍以上に増えている事がよくある。大量発生した木を1時間以上かけて摘み取っても、一ヵ月後には倍もやられる。恐ろしい害虫だ。天敵を放し、カビ撒いて、カオリン撒いて、微生物撒いて、手で取り除いても、ドンドンやってくる。無力感にさいなまれる。

増える前に押さえ込む。最初のひとつを見逃してはいけない。集中力を要するので、3時間以上は続けられない。我々4人では人手が足りない。春から夏は閑散期だが、近所のピッカーを雇おうにも、「あんなクレージーなことは出来ない」と断られる。幸いにも、コナには日本人女性が随分と住んでいる。彼女らは早朝に子供を学校に送ると昼まで時間があるので、彼女らに手伝ってもらう。都合の良い日時に来てもらう完全フレックス制。根気と注意力の要る作業だが、彼女ら日本人の特殊能力が発揮される。  

10.ブロック(区画)剪定

 山岸農園では以前は3列に1列の割合で膝の高さに剪定する方式を採ってきたが、数年前からCBB対策の一環として、ブロック剪定に変更した。これは畑を3つの区画に分けて、1月末に1区画の木をすべて膝の高さに剪定(カットバック)する。(コロンビアでは5~6区画に分けて、5~6年毎に剪定するが、コナは成長が早いので、3年毎の剪定。)  

 剪定した区画には一年以上実が成らないので、その区画からはCBBは消える。よって、上述のCBB対策はまったく必要ない。  

 前年に剪定した区画は、まだ木が小さく収穫量は一本あたり5~10kg程度と少ないが、前の年にCBBを一掃しているので、被害率は少ない。よって、対応も軽くて済む。木も低いので、収穫の際に実を落とすリスクも少ない。

 前々年に剪定した区画は木が大きく収穫量は一本あたり20~50kgと大量に採れる。畑全体の収穫量のほとんどがこの3分の1の区画に集中するので、CBB対策もこの区画に集中する。ここは木が高いので収穫の際に、どうしても実が地面に落ちるが、シーズン終了後はすべて剪定してしまうので、翌年にCBBが繰り越される心配がない。    

 この方法を採ると、CBB対策を畑全体の3分の1に集中できて、随分と楽になる。にもかかわらず、コナでこの方法を採用したのは数軒のみ。追随者が出ないのは、収穫量が減るのを恐れてのことか。  

11.ミル

 収穫後はウェットミルで水に浮かぶ虫食い豆を除去する。ドライミルで比重選別機で更なる選別を行う。コナではこのほかに色選別機を用る農園もあるが、山岸農園では既に1%以下なので色選別機は用いない。

 

第6章 終わりに

 一般には生豆のCBBの虫食い率が5%以下であれば、カップに影響しないといわれる。よって、一般的なCBB対策プログラムは5%以下に抑えることを目標として組まれる。

一方、昔から日本への輸出はほとんど最上級の等級のエクストラファンシー。日本人はコナというとエクストラファンシーしか買わない。今般、虫食い率が5%だと、カップには影響しなくとも欠点豆の基準からエクストラファンシーを名乗れない。よって、日本中からハワイコナは消滅した。今年は大手農園が色選別機で選別に選別を重ねて、随分とエクストラファンシーを作ったそうだ。日本にも少しは行くのだろうか。現状に合わない等級制度を続けているコナにも問題はあるが、別にエクストラファンシーにこだわらなくとも、味に変わりはないのだから、どうにかならないものかと思う。

 さて、山岸農園は畑の三方を虫食いの畑に囲まれる逆境の中、5年連続で虫食い率を1%以下に押さえた。しかも、1%以下の農園はコナには他に存在しない。まあ、その必要もない。山岸農園でも今後とも1%以下に抑える必要もない。実際に虫食い率を10%から5%に半分にするより、2%から1%へ半分にする方が遥かに難しい。かなりの時間と労力と費用を使った。

なぜ、そこまでむきになってやっているのか。5%を目標にすると、何かあったときに10%になってカップに影響してしまうが、1%が目標ならば2%で済む。また、限界までやってみたら、こうなりましたと、モデルケースとして他の農園の参考になる。いや、そんな高邁な理由よりも、ただ、世界に数あるコーヒー農園の中で、一番厳しい努力をして、誰もやっていないことをやってみたかっただけかもしれない。今後のことは判らない。

2016年2月

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2016/03/09   yamagishicoffee

コナコーヒー農園便り 2016年3月号

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          Source: Streetinsider.com

 

コーヒー農園での労働者の確保が難しくなっている。
昨年は私と妻と永住権を持つメキシコ人の3人で収穫した。3人では手が回らない場合に人を雇うが、これが難しい。コーヒー摘みは重労働なので、アメリカ人はやりたがらない。農園主でさえ、我々のように自分で摘む人は稀だ。収穫の繁忙期の9月から12月に米国本土の農場などで働く人々が来てコーヒーを摘む。メキシコなど中米出身者が多い。中には不法移民も混ざっているらしい。
ある調査によると、全米の農業労働者の40%が不法移民。共和党大統領候補のトランプ氏の主張どおり不法移民の取締りを一層強化すると、米国の農業は立ち行かない。コナの農家も困るだろう。不法移民は米国人の雇用を奪うとの主張があるが、米国人がやりたがらない仕事をしているのも事実。牛を解体する人がいないとハンバーグやステーキは食べられないし、皿洗いがいないと外食もできないし、第一、コナコーヒーが飲めない。
加えて、最近のハワイでは不動産開発ブーム。ホノルルは空前のコンドミニアム建設ラッシュ。ハワイ島も負けていない。リゾート開発や別荘建設で労働者が不足。私の所属するゴルフ場は、クラブハウスを建設中だが、労働者不足で工期に9ヶ月もの遅れが出ている。建設業者は高い賃金で人材確保に努める。すると、コーヒー農園から建設現場に人が流れ、農園では益々人手が不足する。彼らを建設現場から取り返そうにも、時給30ドルを要求されては、こちらとしてはお手上げだ。
さて、米国の中央銀行のFRB(連邦準備制度理事会)は昨年末に2008年来のゼロ金利を解除し利上げした。ところが、年初からの株の急落で市場関係者には年内の更なる利上げはないと予想する向きがある。ハワイでこんなに人手不足で賃金も上昇しているのに。
確かに、私がウォール街でポートフォリオマネージャーだった頃、株が急落するたびに、グリーンスパン・プットやバーナンキ・プットを祈った。プットとは、相場が急落した際にFRB議長が市場に救済の手を差し伸べることで、相場下落時に損失を限定するプット・オプションになぞらえた業界用語。実際にグリーンスパン議長やバーナンキ議長は市場に優しく、たとえ金利を下げなくとも、市場に配慮した発言があると市場は安心を取り戻す。損失が膨らんだ時の私には神様のような存在だった。さらにその前のボルカー議長はすごい長身で、大きなパーティーで会場のどこからでも人混みの中にそのとがった赤い禿頭がとび抜けて見える方で、なんかウルトラマンに出てくる怪獣レッドキングみたいで怖い印象だったが、それ以降の3人の議長は、とても市場に優しい。
企業収益は株主と従業員に分配される。景気回復初期は過剰設備や余剰人員があるので、人を雇わなくとも増産できる。増益分は株主に向かい株が上がる。景気回復が進むと増産には増員が必要で人を雇い賃金が上昇する。従業員の取り分が増え株価上昇は緩まる。現在の米国は失業率が下限に達し、全国的にも賃金上昇の兆しを見せている。従来ならインフレが起きないよう利上の局面だが、株が急落すると、また、イェレン議長にもプットを期待するのは、どうせ無茶な投資をしてもFRBが助けてくれる雰囲気を招き望ましくない。株価を決めるのは企業の収益力であり、株価は中央銀行の政策目標や中間目標ではない。ましてや、あわててマイナス金利にした日銀じゃあるまいし。
とはいえ、投資家としての私は株式市場が好調である事に越したことはない。ゴルファーの私はクラブハウスが早く完成してほしい。でも、コーヒー農家の私はコナの労働者の賃金が下がるとありがたい。

(写真は歴代のFRB議長と身長。左からボルカー201cm、グリーンスパン180cm、バーナンキ173cm、イェレン152cm。議長の身長に合わせて、アメリカの金利は下がり続けた。)

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2016/03/01   yamagishicoffee

コナコーヒー農園便り 2016年2月号 コーヒーでダイエット

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ここだけの話にしてもらいたいが朗報がある。実はコーヒーにはダイエット効果がある。私はコーヒーのおかげで2ヶ月で4kg痩せた。

最近はコーヒーが健康に良いとのニュースを耳にする。コーヒーの糖尿病の予防効果、肝臓保護作用、がん抑制効果などさまざまな効果が研究・報告されている。かつてはコーヒーは体に悪いと言われた。昔はコーヒー愛好者に喫煙者が多かったので、統計学的にタバコの効果とコーヒーの効果をうまく区別できず、本来はタバコの害なのに、コーヒーにも濡れ衣が着せられたのだろう。最近では嫌煙が進み、純粋にコーヒーを楽しむ人が増えて健康にも良い。今後は良質のコーヒーが増えれば、砂糖やクリームを入れる人が減って、益々健康に良いということになるだろう。

さらに、コーヒーには豆の部分よりも、果実や果皮や葉に抗酸化物質が含まれていることがわかり、健康食品としての可能性が出てきた。もしかしたら、コーヒー豆よりも、現在は捨てている果実や果皮のほうが大きなビジネスになるかもしれない。

 さて、2015年はエルニーニョで暑かったので例年より早く8月からコーヒー摘みが始まった。猛暑の中での朝6時から夕方6時までの収穫作業。畑は斜面で溶岩が転がっており足元は不安定。そこを踏ん張りながら、腰につけた10キロ入りのバスケットに摘んだ実を入れる。かなり重い。しゃがんだり、中腰になったり、背伸びしながら摘む。1日を通すと相当のエネルギーを消費する。

ピッカーたちは栄養補給をしながら摘む。あるメキシコ人は、昼飯の他に、2リットルのコカコーラを1日かけて飲む。それだけで1000キロカロリーはある。また、あるフィリピン人は昼食の他に、一日かけて、大きなパンに銀紙に包まれたバター一本分を付けながら食べる。2000キロカロリー近くはありそう。

私も例年ならおやつをバクバク食べながら摘むが、コーヒー摘みのシーズンが始まった8月末の健康診断で医者に痩せろと言われたので、収穫中の菓子どか食いを止めた。畑で食べるのは昼食のおにぎり、おやつひと口、水2リットルのみ。それ以外の食事制限はなし。夜はご飯もステーキもデザートも食べ、ビールやワインは飲み放題。一日2500キロカロリーは摂取する。それでも、2ヵ月後の10月末までには4kgも体重が減った。

 アナウンサーの生島ひろし氏が、ダイエットに成功したというコマーシャルが出ている。2ヶ月で9kgも痩せたそうだ。調べたところ、生島氏のダイエットプログラムは、ビールもご飯もお菓子も我慢する厳しい低糖質の食事制限と、ジムでトレーナー付のきつい筋肉トレーニングで、2ヶ月で9kg痩せるために最低でも35万円ぐらい支払うらしい。

 一方、私の場合は農園主なのでいくら摘んでも収入にはならないが、仮に友達の農園で2ヶ月も毎日摘んだら70万円は貰える。4ヶ月間の収穫シーズンをフルに摘んだら140万円超。ご飯、ステーキを食べ放題、ビール、ワインの飲み放題で、4キロ痩せて、しかも70~140万円も貰える。夢のような話だ。

さて、冒頭にコーヒーにはダイエット効果があると記したが、飲んだだけで痩せる訳ではない。ちょっとちょっと、それを期待して読み始めたそこのあなた、そんな甘い話がある訳ないでしょ。摘むから痩せるのだ。それでもこのダイエット法をお試しになりたい方には、50歳を過ぎて2500キロカロリー以上を食べながらでも、2ヶ月で4kgも痩せるのは相当つらい作業だと補記しておこう。毎晩手足がつるよ。

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2016/02/01   yamagishicoffee

珈琲と文化

「珈琲と文化」に連載を始めました。
年4回発行の季刊誌です。
2016年冬号はなんと創刊100号で、25年の歴史を誇ります。
購読制なので、書店等では販売していませんが、コーヒー業界の人々には広く読まれている業界誌です。
http://homepage2.nifty.com/inahoshobo/index.html http://homepage2.nifty.com/inahoshobo/back/no100.html


 

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2016/01/24   yamagishicoffee

コナコーヒー農園便り 2016年1月号

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昔、ウェッジウッドの店で18世紀に描かれた英国の古城の絵を焼き付けた食器セットを買った。皿の種類ごとに違う建築物が描かれている。コーヒーカップはStratford-upon-Avonの町のシェークスピアの眠るHoly Trinity 教会の尖塔。もう20年近く愛用している。

数年前に、各食器に描かれた古城に行き、画家が描いたであろう同じ場所から写真を撮る旅に出た。食器の絵と同じアングルから写真を撮る。レンタカーで英国中を走り回り10数箇所を訪問した。画家の立ち位置を突き止めても、今では私有地で入れなかったり、目の前に大木が育ち、なかなか絵と同じ写真は撮れない。200年以上の歳月を感じた。 

大抵は写真を撮っては次の目的地へ向かう強行スケジュールだが、Stratford-upon-Avonの町では、目指す教会の尖塔の写真を撮るほかに、シェークスピアの故郷なので数日滞在して観光した。ロイヤル・シェークスピア劇場でSir Patrick Stewart(新スタートレックのピカード艦長役)主演の「ベニスの商人」と「マクベス」を観た。

朝食付きのB&Bに泊まった。イギリスの朝は紅茶。そこを無理してコーヒーを注文した。宿の亭主はコーヒー農園主に出すのは恥ずかしいと謙遜しながら持ってきた。

飲んでビックリ。渋みも、えぐ味も、苦味もない。私が排除したい雑味がない。一体全体、どの国のどの農場だ?品種は?乾燥方法は?

かといって、私が求める華やかな酸味も甘みも感じられない。つまり、大きな欠点はないが、心浮き立つ長所もない。不思議なコーヒーだ。

妻と二人で「こんなの初めて。何だろうね?」と首を傾げた。これは珍しいコーヒーと、亭主に尋ねたら、厨房から悪戯っぽい目で戻り、N社のインスタントコーヒーの瓶を差し出した。「インスタントは飲んだことがないもので。。。」と、しどろもどろになってしまった。


せっかく「マクベス」を観たので、スコットランドまで足を伸ばしてネス湖のそばのコーダー城へも行った。主人公スコットランド王マクベスのお城だ。現在でもコーダー伯爵家がクリスマス期間などに実際に住む城で、不在中は一般公開している。森の中の広大な敷地で、城の回りには素晴らしい英国庭園。城内は立派な調度、家具、装飾品が並び、歴史を感じる。ところが、売店で出すコーヒーがN社のインスタント。日本の喫茶店ならこっそり出すだろうが、N社のロゴ入りで堂々と宣伝して出すところが凄い。

そこで80年代のN社のテレビCMを思い出した。上空からのコーダー城の景色が映され、テーマ曲に合わせて「マクベスの家系を継ぐコーダー伯爵」がコーヒーを飲む広告だ。さすがは貴族、たとえインスタントでも、カップを持つときに小指を立てないんだなぁと妙に感心した。確かその名はロドルフ。

事務所でロドルフさんはご健在かと尋ねたところ、日本のCMに出たのは、亡くなった先代のヒューだと言われた。そんなはずはないと詰め寄った。妻は「ロドルフはドイツ系の名前でスコットランドにはないよ。恥ずかしいから止めなよ」と制止するが、私の脳裏には上空からの景色とロドルフという音声がはっきりと刻み込まれている。こんな鮮明な記憶が間違いのはずがない。「君たちは(マクベスに登場する)3人の魔女の呪文にかかっているに違いない」と食い下がった。呆れた事務員は、長――――い系図を取り出し、先祖全員の名前を確認。「当家の歴史上ロドルフなる人物は存在しない」と厳粛な声で答えた。

帰ってYouTubeで調べたら、とんでもない勘違い。当時、N社のコマーシャルには、コーダー伯爵の他にもベルギー王室のロドルフ殿下のバージョンがあって、それを混同していた。
最近、自信たっぷりに間違えることが多い。老化現象か。

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2016/01/01   yamagishicoffee

ハワイ島でデング熱流行 僕のせいじゃありません Part 3

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デング熱の広がりがとまらない。

146人の感染がハワイ島で報告されている。

うちはノースコナの北端で、感染数が少ない地域だが、ここから20キロほど南のサウスコナのコーヒー畑ではメキシコ人のピッカーたちにも感染者が出ているらしい。

州の衛生局の役人がホノルルから来たときには、都会っぽい洗練された服装と立ち居振る舞いで、田舎の我々には、立派な専門家が来てくださったのでこれで安心と思ったものだが、彼らではまったく手に負えず、ついに世界保健機構とCDC(連邦政府の専門家)も投入された。

畑の中は蚊がいっぱい。長袖・長ズボンで、顔に大量の虫除けクリームを塗っても一日に顔に数箇所、多いときは10箇所ぐらい刺される。特に涼しい朝夕に多い。気温の上がる昼間には少なくなるが、コーヒーの木の中に頭を突っ込んでコーヒーを摘んでいると、木の中の奥まったところの葉っぱの上に隠れている蚊と目が合ったりする。お休みのところすみません。パチン!

蚊に刺されないように顔にネットをつけて摘んでいたところ、何かがネットの後頭部に引っかかっている。枝かと思って手で振り払おうとしたら、「キュー」と鳴く。よく見たらカメレオン。角が生えているので雄。こんな所で捕まってないで、たくさん蚊を食べてくださいね。

さて、私がデング熱で入院したのは6月。ハワイ島での栄えある第1号だ。デング熱にもウィルスのタイプが4つあり、私が罹ったのも、今回流行しているのも同じタイプ1。もしや?と心配していた。

州政府の発表によると、今回流行しているウィルスはフレンチポリネシア(タヒチなど)からのものと判明した。私が感染したのはブラジル。晴れて、犯人は私ではないと科学的に証明されました。別に、めでたくもなんともないけど。

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2015/12/14   yamagishicoffee

感謝祭に畑から七面鳥が消えた Part 2

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 うちの畑には普段は20羽以上の七面鳥(ターキー)が住んでいたが、先週の感謝祭の日を境にメス3羽のみに減ってしまった。

 感謝祭といえば、アメリカでは七面鳥を食べる日で「七面鳥の日」(Turkey Day)とも呼ばれたりする。

つまり、誰かが我が家の七面鳥を捕まえて食べたか売り飛ばしたのではないか。

 七面鳥は用心深い。夜は畑の中の高い木の枝で寝る。夜が白んでくると、まず、小鳥たちがさえずり出すが、七面鳥は用心深く、まだ静かにしている。だいぶ明るくなってから、やっと「クワッカカカカー」と鳴き声をあげだして、下界の安全を確認してから降りてくる。常に集団で歩きながら畑中の餌を探しながら一日を過ごす。

家庭菜園にしょっちゅう侵入してくるので追い払うために、追いかけまわすが、逃げ足が速くとても捕まえられるものではない。20羽を素手て捕まえるのはとても無理。なので、誰かが私の畑に侵入し、鉄砲で仕留めたのではないかと疑っている。英語でTurkey shoot(七面鳥撃ち)といえば、成功の確率の高い絶好のチャンスの意味。きっと20羽は簡単に仕留められるのだろう。

ところで、感謝祭(11月の第4木曜日)の翌日はブラックフライデーと呼ばれクリスマス商戦の開始の日。小売業者が黒字(ブラック)になる金曜日の意。一年でもっとも売り上げが多い日で、各店が大安売りの目玉商品を並べて人を呼ぶ。最近は木曜日が明けた夜中の12時から店を開けるところが増え、人々が行列をなす。

なんと、今年のブラックフライデーは一日の拳銃(Gun)の売り上げの新記録を作ったそうだ。ブラックフライデーは拳銃も割引の対象となるのかと驚きだ。今日もカリフォルニアで痛ましい銃乱射事件があった。もう、うんざりだが、拳銃の売り上げ新記録は、昨今のテロの増加によるアメリカ人の自衛意識の高まりの表れであろう。

自衛権はアメリカ憲法で保証されており、拳銃の規制が進まないのは、銃規制は自衛権の否定で憲法違反との認識が根強いからだ。憲法も自衛権も結構だが、勝手に人の畑の七面鳥を撃つのはご遠慮願いたい。

アメリカではクリスマスにも七面鳥を食べる家庭が多い。今回はメスが3羽生き残ったが、さて、彼女らの運命は如何に!

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2015/12/03   yamagishicoffee

コナコーヒー農園便り 2015年12月号 世界一のコーヒー

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【山岸農園カップコメント】

クリーンカップ、

甘味(スイート)、

チョコレート、果実の甘さ、

ラズベリー、ブラックカレント、

スムース、赤りんごの酸味


かつて私はウォール街でFund of Hedge Fundsの運用をしていた。2000年、ITバブル破裂の思惑が的中。世界同時株安の中でも2桁の利益を上げた。おそらく、あの年は同様のタイプの運用では世界一だったと思う。だが、良い事は長くは続かない。翌年9月11日の同時多発テロでオフィスを失い、1年間プリンストンに移転。片道3時間の通勤は辛い。部下のアナリスト達はヘッドハンターの標的となった。多くの友が去り、グループは崩壊。運用成績も低迷した。世界一を維持するのは、とても難しい。   

 

ところで、私のコーヒーは世界一の品質。シアトルや東京のサードウェーブ系の店を回っても、これほどのコーヒーに出会うことはない。コーヒーの生産を始めて、たった8年で世界一。どうしたことか。実はこれには裏がある。

 

私はクリーンカップは農家の努力の通信簿と思うので、その観点からコーヒーを評価する。コーヒーの専門家はそのような評価をしない。つまり、私は勝手に世間とは違った評価をし、自分のが一番と悦に入っている。究極の手前味噌だ。

 

 例えば、専門家はナッツやチョコレートのフレーバー、シトラスのような甘み、フローラルな香りなどと、コーヒーの特徴を評価する。あれくらい繊細な感覚があればこそプロだと感心する。私なんぞは、ワインのセミナーで、ラズベリー、シナモン、アーモンドなどと香味の特徴を書くところを、すべてブドウと書いて提出したくらいで、お恥ずかしい限りだ。だって、本当にブドウの味がしたんだ。絶対にブドウだ。自信がある。

 

しかし、クリーンカップ重視は、あながち的外れでもない。コーヒーが飲めない人は渋み、えぐ味などの雑味があるから飲めないのだ。酸味が赤りんごでなく青りんごだから、これは飲めないという訳ではない。健康に育て、完熟した実だけを摘むとクリーンな香味が生まれる。農家の努力の結晶だ。だから、生産者の私はクリーンカップ至上主義を標榜する。

 

農園主である私と妻は、自分らが中心にコーヒーを摘む。一般に日本で流通するコーヒーで、農園主が自ら摘むコーヒーはない。コーヒー摘みは肉体的、精神的に辛いので誰もやりたくない。すべて、季節労働者か機械が摘む。これではきれいな収穫は難しい。

 

加えて、品種がティピカ種。ティピカ種は最高品質の品種だが、病害に弱く、生産量も少ないうえに、手間がかかる。だから、世界中、品質を犠牲にして、生産効率の高い品種を育てる。ティピカは、コナやブルーマウンテンなどに残るだけ。ティピカを丁寧に手摘みし、きれいに水洗し、天日乾燥したものはコーヒーの保守本流。コーヒー本来の味だ。

 

日本のコーヒー関連の本には、焙煎や抽出のこだわりの工夫が100ページ以上に渡って語られる。しかし、大抵は最後に、良質の豆を入手することがもっとも重要だとあるが、良質の豆を生産する方法の記述はない。焙煎や抽出のこだわりは研究が進んで、改良の余地は少ないだろう。しかし、コーヒー畑では、工夫の余地が山のように残っている。私がちょっと工夫しただけで世界一と自画自賛できるのはそういうことだ。畑は宝の山だ。

かつてコナの日本人移民が世界で一番、生真面目にやったからこそ、今でもコナコーヒーは他国よりも高価格で取引される。日本人的気質はコーヒーに向いているかもしれない。コブラジルでもコーヒーは日本人移民が作り上げた。我こそは、世界一のコーヒーを生産したいと思う方は、どうぞハワイ島コナへ。

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2015/12/01   yamagishicoffee