ハワイ諸島には東北東から貿易風が吹く。常夏のハワイが爽やかに感じるのは、このひんやりとした北風のおかげ。一方、ハワイ島西海岸のコナは背後(風上)の大きな山に遮られて、この貿易風が届かない。その代り、日中には西側の海から海風が吹き込み、逆に夜には山から風が吹き下ろす。これがコーヒーに最適の気候をもたらす。
コナはフアラライ山とマウナロア山の山麓にある。コナの朝は快晴。日が昇ると温められた空気は山腹を駆け上がる。代りに海から湿った西風(コナ風)が入って上昇気流となる。山麓は昼前には曇り、午後にはしとしとと雨が降る。
ハワイ諸島でこの気候パターンを持つのはコナの標高200~800mのコーヒーベルトと呼ばれる限られた地域だけ。コーヒーに最適の雨量。また、コーヒーは直射日光が苦手だが、昼前から曇るので日陰樹が必要ない。
夜は、昼とは逆に、山から冷えた風が吹いてくる。これが昼夜の寒暖の差を生む。コーヒーは実に栄養をしっかり蓄えようとして味が調う。私の住む標高600mでは昼は気温が26度位まで上がるが、夜は15度近くまで下がり肌寒い。だから、我が家にはエアコンはない(暖炉はあるが)。ここの気候はコーヒーにも良いが人間の体にも良い。
しかも、うまいことに適度に乾季・雨季が分かれ、コーヒー栽培にはもってこい。収穫シーズンの冬は乾期。夏より気温が低いので、水蒸気の量が減り、曇りはするものの雨には至らない。収穫期に雨が多いと、カビや腐敗が起きやすく、品質が安定しない。
コーヒーに最適な気候をもたらすコナ独特の海風だが、最近困ったことになった。
キラウェア火山は1983年より噴火が続く。これまで火口が2つあったが、5月に新たな場所から溶岩が噴出し始めた。これが、たまたま住宅地だったので、大きな被害が出た。いきなり家のそばから溶岩が噴き出て家を焼失した方は本当にお気の毒である。既に東京ドーム200個分の土地が溶岩流に飲み込まれた。一方、コナはいたって平穏だ。ハワイ島の面積は東京都の5倍。東京ドーム221,915個分。しかも、コナは標高4,169mのマウナロア山を挟んで島の反対側。100km以上離れているので直接的な影響はない。
しかし、噴火のせいで空気が悪い。写真のように火山から出た亜硫酸ガスは貿易風に乗り、ハワイ島の南西(左下)の方向へ抜けていく。しかし、前述のコナ特有の海風が、せっかく南西の海上に抜けたガスの一部を吸い寄せ、コナに引き寄せる。
コナ地区の亜硫酸ガスは人体に影響が出るとされる水準を大きく下回っている。もちろん、コーヒーの木に影響する事もない。コナ方面への旅行客は安心してよい。いまだ禁煙の進まない日本の居酒屋よりはましだろう。
ただし、家から海を見下ろす景色が霞むことが悩みだ。亜硫酸ガスが水分と化合すると、空気が霞む。火山(Volcano)からのスモッグ(Smog)でヴォグ(Vog)と呼ばれる。風向きによって、景色の良い日もあるが、数日で、またVogが戻ってくる。
休暇でコナに来ていた頃は、コナの青い空と海の景色が印象的だったが、2008年に移住した途端に、噴火口が2つに増えて、景色がモヤモヤーと霞むようになった。そこへきて今回の新たな噴火。Vogがさらに増えた。景色が悪いと気分も冴えない。
コーヒーに恵みをもたらすコナ独特の海風だが、とんだ迷惑を引き込んでいる。火山は観光の目玉でハワイ島の重要な観光資源ではあるが、私としては、早く噴火が止んで、景色も気分もスッキリしてほしいものだ。ここまで書いたら、今日は強烈なVogがやって来た。真っ白で海が見えない。ヤメテ~~!