コナコーヒーは生豆が綺麗なのが特徴。コーヒー豆はすべてが健康に育つ訳ではないので、生産の各工程において、欠陥豆を取り除く作業を繰り返す。
まず、コーヒーの木を健康に育てる。そうすれば不健康な欠陥豆の比率は減る。害虫対策も行い、虫食い豆の増加を防ぐ。なかでも、コーヒーの生産で最も重要で、かつ難しいのは健康に完熟した実を選り分けて摘むことで、ここが農園主の腕の見せ所。
さらに、収穫後の精製所でも選別は続く。まず、実を水に通し浮いてくる比重の軽い実は取り除く。果皮と果肉を取り除いた後に、再度水に漬けて浮いたものは取り除く。
パーチメントを割ったら、サイズ分けし、極端に大きい物や小さいものは取り除く。次に比重テーブルで比重の軽い豆は取り除く。当農園では採用していないが、農園によっては色選別機で、変色したもの、虫食い跡のある豆を取り除く。
8年前にCBBという害虫がコナに上陸して、虫食い率が上昇した。多くの産地では殺虫剤で対処するが、アメリカは農薬の規制が厳しいので使えない。さらに、他の産地でハンドソート、つまり、人が手作業で欠陥豆を取り除くが、コナでこれをする農園はない。ハワイは人件費が高いので、機械による欠陥豆の選別が主だ。
例外はコーヒーハンターの川島良彰氏の会社のシャンペンボトルに入ったコナコーヒー。毎年、何人もの社員と一緒にコナに来てハンドソートする。飛行機代やホテル代を払って何日もやるから利益は出まい。相当なこだわりだ。
うちの農園も、害虫が上陸した最初の年は、妻と手作業で欠陥豆を取り除いた。すると、麻袋1袋(100ポンド)を選別するのに1週間。3袋で力尽きた。我々の年間生産量は多い年は約50袋なので、全部で丸一年かかる。無理だ。
そこで、開花と収穫の間の春から秋にかけて、全ての木の全ての枝の全ての実を見て、虫食い豆は収穫する前に取り除く事にした。虫は級数的に増加する。増えた後で取り除くのではなく、増える前に取り除く作戦。これで虫食い率がコナで最小になった。けど、手間がかかりすぎるので、コナでこれをする農園は他にないし、たぶん世界にもないだろう。
ところで、日本のテレビや雑誌で、喫茶店のマスターや焙煎士が焙煎前に、生豆を手で選別して欠陥豆を取り除く光景を見かける。日本人マスターの良心的で真心やこだわりを感じさせる感動のおもてなしシーンだ。しかし、経済学的に見れば、これほど、ばかげたシーンはない。本来は、人件費の安い生産地で選別すべき。わざわざ、粗悪のまま日本に運び、何十倍も人件費の高い日本で選別しては割に合わない。マスターの真心には頭が下がるが、地球全体で見れば、効率的な資源配分とはいえない。
コーヒー生産国の労働者の賃金は信じられないほど安い。消費国がコーヒー一杯に1円くらい余分に払って、その分を産地でハンドソートに充てれば、労働者の収入は何倍にもなるし、日本のマスターも真心を安売りしないで済む。その方が効率的な資源配分で、品質は上がるし、コストは下がり、コーヒー業界の生産性は向上する。
ただし、コナは例外。日本よりも人件費が高い。ハワイでは世帯年収740万円で低所得者層、465万円で貧困層とされる。これはオアフ島の統計だがコナも高い。だから、コナコーヒーが害虫被害で流通量が減ったと、あまり怒らないで頂きたい。えっ?他の産地のようにハンドソートしろって? この際だから、思い切って言っちゃうけど、あんたら日本人の人件費はハワイよりもずっと安いんだから、そっちでやってよ。ハハハ!
人件費高騰のおり、ご理解賜りますよう、村を代表してお願い申し上げます。