コナコーヒーの等級には、Extra Fancy、Fancy、 No.1、 Primeとある。その下のHawaii No.3、Off Grade、Rubbishは、コナの名を冠することが許されない。日本への輸出は輸入業者もプロだから、ちゃんとしているが、残念ながら、ハワイで小売りされるお土産用のコナ・コーヒーにはNo.3を使用する農園がある。
Extra Fancyはサイズ19(19/64インチ)。Fancyはサイズ18、No.1は16・17。サイズ分け後、比重テーブルで軽い豆を振るい落として、それら上位3等級を作る。構造上、小さい方が欠陥豆の混入率が増えるので、Extra Fancyが最も欠陥率が低い。サイズによる味の優劣はないものの、Extra Fancyが最高級品とされる所以だ。また、ふるい落とされた中でも質が良いものがPrimeの等級を得る。
さて、2010年にコナに害虫CBB (Coffee Berry Borer) が上陸して以来、虫食い豆の混入が増え、ほとんどの農園が上位3等級を作れなくなった。
コーヒーハンターの川島良彰氏が監修したマンガ「僕はコーヒーが飲めない」にコナの悪徳農園主が登場する。普通のマンガは悪役を実際の人物には似せずに描くものだが、このマンガはイイ者は全然似ていないのに、ワル者がそっくりな点が笑える。以前、その悪徳農園主のモデルの人物に彼の秘訣を教わった。彼曰く、たとえ州の検査官がPrimeの認証印を押しても、その裏にExtra Fancyと判を押すそうだ。認証詐称は違法と問うと、「正式な認証名はKona Extra Fancyなので、ただのExtra Fancyならば違反でない」と言い張る。「でも、検査官の目の前だと誤解を受けるから、帰った後にやるんだ」と、こっそりアドバイスしてくれた。その後、彼は破綻して、農園は人手に渡った。
これまでも記したように、私は畑で一生懸命にCBB対策をして品質を維持した。約700軒のコーヒー農家の中で、この10年間継続して、まともに上位3等級を作れたのは、うちの農園だけだった。周りは我々をCrazy扱いで、誰も我々のやり方についてこなかった。確かに、CBBは厄介。コナは生産国で唯一の先進国。農薬の規制が厳しい。他の産地で使われる農薬が使えないため、コナは苦戦している。
しかし、アメリカ人だって馬鹿じゃない。国家の健康意識が高いがために割を喰ってはたまらない。合法かつ画期的な解決策を考え付いた。つまり、Extra Fancyを取れるようにルールを変えた。認証の基準を緩和して、州の検査によらず自己申告制とした。これで上位等級をひねり出せるようになった。
次はもう少し巧妙。大手農園らはPrimeの値段を上げ、価格を上位3等級に近づけた。かつ、Primeを主力商品とするよう誘導した。比重テーブルや色選別機で、無理して上位3等級を作ると、それ以下の等級に欠陥豆がしわ寄せされ、Primeの下のNo.3の割合が増える。No.3はコナを称せない。だから、上位3等級は諦めて、良質豆をPrimeに混ぜ込むことで、No.3の欠陥豆もPrimeに取り込む戦略だ。無理して上位等級を作らずとも、Primeの相対価格を上げたために、その方が畑全体の収入が増える。
コナは驚嘆すべき知恵と工夫でこの10年間をしのいだが、一時的な基準緩和の期限が切れて、昨シーズンから以前の厳しい認証基準に戻った。コナからExtra FancyとFancyとNo.1は再び消えた。多くの農家は上位3等級を諦め、Prime狙いだ。
さて、当農園の上位3等級の割合は8~9割。コナでダントツに高い。今般、当農園の秘訣を文書にまとめた。それをハワイ大学の研究所がコナコーヒー農家へ配布した。(https://www.hawaiicoffeeed.com/uploads/2/6/7/7/26772370/2_yr_cycle_block_pruning_20210319.pdf)
他の農園が参考にしてくれると幸いである。