収穫が終わった。次は木に残った摘み残しの実を全て取り除く。6年前のCBB(Coffee Berry Borer)という害虫の上陸以来、この作業が必要となった。
CBBはコーヒーの実1個に50~100個の卵を産み、5週間で世代交代する。卵がすべて生き残るわけではないが、害虫対策をしないと、印象として5週間で10倍ぐらいに増える。5週間で10倍だと、開花から収穫までの8カ月で一匹が一千万匹に増える勘定。うちの5エーカーの畑の実の総数も約一千万個なので畑は全滅する。何らかの対策が必要。
他の国の産地では農薬で対処するのが一般的だが、アメリカは農薬の規制が厳しいので、それら農薬は使えない。コナでは代わりに、昆虫類にとりつく種類の白カビの胞子を水に薄めて噴霧する。さらに、うちでは虫食い豆を手で取り除くなどの対処をしている。その詳細は雑誌「珈琲と文化」100号記念別冊号(2006年1月)に記した。
様々な対策の一つとして、9割以上収穫が終わったら、残りの5%程度はすべて取り除き、畑に実(CBBの家)がない状態にする。翌シーズンの実は2月中には膨らみ始めるので、1月中に前年の実をすべて取り除き、翌年にCBBが繰り越すのを防ぐ。
年間の収穫量一千万個の5%は50万個。これを摘み取って捨てた。この作業が辛い。収穫は肉体的に辛くとも、収穫の喜びがある。ところが、せっかく育てたのに捨てるのは心が痛む。さらに、残り少ない実に畑じゅうのCBBが襲い掛かるから虫食い率が高い。見るだけで悲しい。
今年はこの摘み取り作業を3周行った。1周目はとにかく木に残った実を全て取り除く。取り残すと翌年にCBBが繰り越される。通常の収穫作業よりもスピードを落として摘み残しの無いように注意深く行う。
それでも摘み残しはある。枝の奥の方や葉の裏に隠れている。赤い実はやさしいが、緑の実は葉の陰だと見つけにくい。過熟を越して乾燥した実は黒くて見づらい。葉が茂った枝をひっくり返して裏を確認したり、頭を木の中に突っ込んで木の内側から外側を見たり、しゃがんで下から見上げたり、様々な角度から確認する。
3周目は最終確認。2周目にあんなに丁寧にやったのに、まだ見落としがある。自分の集中力の欠如にがっかりする。これが一番辛い。3周目は合計で1000個くらい見つけた。畑には3300本の木があるので、1000個は3本に1個。割合的には少ないが、それでも1000回がっかりした。しかも、半分くらいが虫食い。畑の実の数が激減するので、畑じゅうのCBBが集中する。虫食い率は短期間に数%から5割に急上昇する。5割と言っても、たかが500個。しかし、侮ってはいけない。500個の虫食い豆の中に100匹づついるとすると、5万匹のCBBを捕獲した勘定になる。5万匹が5週間に10倍の割合で増えたら、3カ月で畑は全滅だ。だから、3周目は時間をかけて慎重にやる。集中力が続かないので一度に2時間が限界。午前と午後に一日2回、2週間かかった。
この作業は性格により向き不向きがある。うちの妻はダメだ。彼女はコーヒー摘みが上手い。私より正確に速く摘めるが、この作業は向かない。「ここで見落とすと2か月後は100倍になるかもしれない。一つも見落とさない覚悟が足りないんだ」となじり、罵り、彼女をクビにした。「僕は真剣だから、君みたいには見逃さない」と豪語して、ひとりで作業をしていると、遊びに来ていた妻の父親が私が確認し終えた所を後からやってきて「ここにもある。あっ、またあった。ここにもたくさん。」と私が見逃した実を拾い集めて来た。妻は「お父さん、えらいえらい!」と大喜び。親子で仕返しか。。。。