農園便り

今日は年に一度のコーヒーの精製(Hulling)

今日は、倉庫に寝かせておいた一年分の収獲した豆を精製しました。
精製所の人からは、今年もコナの数ある農園の中でダントツで最も欠陥豆の率が低いとお褒めの言葉をいただきました。
褒められると調子に乗って、殺虫剤を使わずに害虫被害を抑える方法のレクチャーをしてきました。

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2017/03/10   yamagishicoffee

SCAAのExpoへ出展するコーヒーを審査

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昨日はカッピング。6時間の長丁場だった。

4月20~23日にシアトルでSCAAのExpoが行われる。

HCA(Hawaii Coffee Association)もブースを開き、ハワイ州産のコーヒーを展示する。

昨年までは各農園が希望すれば漏れなく展示されたが、今年からはSpecialty Gradeの豆だけを出展することとした。

ハワイ州のCoffee Q Grader(鑑定士)のうち私と妻も含め6人がボランティアで審査員を務め32種類のコーヒーをカッピングして合否を決めた。

結構ユニークなコーヒーもあったし、質の悪いものはあまりなかった印象。審査をするので、質に自信のあるものだけがエントリーされたのだろう。

コナ以外からもたくさんエントリーがあった。また、農園が直接エントリーするものより、商社がエントリーするケースが多かった。つまり、良い農園の豆はすでに商社が押さえているということか。

ちなみに、うちの農園は家族経営の零細農園。豆の在庫がないので出品しません。

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2017/03/03   yamagishicoffee

白タイツ

やっとコーヒー収穫シーズンが終わった。9月からの辛い収穫シーズン中、つかの間の休息は、映画館でのメトロポリタン・オペラ中継の鑑賞。夕方までコーヒーを摘んで夜に映画館へ。スパム・ムスビ(ハワイ風おむすび)とポップコーンとコーラを買って、ぼりぼり食べながら映像を観る。リンカーンセンターの劇場とは違って気軽でよい。

今年はオペラに加えて、ボルショイのバレエの中継も映画館で観た。「くるみ割り人形」で新星男性バレリーナのデニス・ロドキンが登場。若くてイケメン。スタイル抜群で脚が長い。ジャンプ力も凄い。白いタイツのすらっとした長い脚を大きく開きグラン・ジュテ(大きな跳躍)するたびに宙でスローモーションに見える。隣の席の老婦人がため息混じりに、「毎日彼を見ていたい」。まったく美男は羨ましい。

白タイツなら私だって履いている。べつに白馬に跨っているわけではない。というか、想像するだけでお見苦しく読者諸氏には申し訳ないが、本当に履いているのだから仕方がない。しかも、短足の私は30センチ以上余るので2重履き。

長いコーヒー収穫シーズン中、毎日10kg入りのバスケットを10時間も腰に付けて収穫作業をするので、骨盤や股関節の周りの筋肉や腱ががちがちになる。特に股関節と足をつなぐ様々な腱から筋肉にかけての痛みがひどい。朝は腰が曲がったまま。真直ぐに腰を立てることができない。脚と腰が痛くて上手く歩けない。昨年は週1~2回の鍼治療が欠かせなかった。収穫シーズン終了後に毎日プールで歩いて、傷んだ足腰のリハビリをした。

友人のメキシコ人は収穫時期に毎晩ジョギングをする。体重100kgを優に超える彼が10時間以上摘んだ後、どこにそんな体力が残っているのか不思議だ。一日中立ちっぱなしで作業すると足がむくむ。走らないと翌日コーヒーが摘めないそうだ。

私にはそんな体力がない。ジョギングは無理。代わりに今年は白タイツを履いてみた。もちろん、フリルのシャツは着ないし、上から長ズボンを履くから、世間に景観上のご迷惑はかけない。べつに白でなくても良いが、入手した医療用加圧タイツが白だった。これがとても良い。医療用なのでとてもきつい。着脱に一苦労。しかし、それだけの価値はある。脚のみならず、体全体の疲労度が違う。1日2日では違いは分からないが、数ヵ月にも渡る収穫シーズンを通して着用すると、その差は歴然。前年までとは違い今年は足腰の損傷が軽くて済んだ。タイツはシーズン途中でボロボロになったので、ひざ下までのスポーツ用のレッグスリーブに変えた。これでも効果は十分。

コーヒー栽培を始めて9年。どうして今まで気が付かずに苦るしんだのだろう。よく考えてみれば、帝国陸軍の兵隊さんもゲートルを履いていたし(のらくろ二等兵は履いていなかったが)、助さん格さんも脚絆を履いて旅している。下肢を締め付けて、鬱血・疲労蓄積を防ぐのは昔からの当たり前の知恵だ。私は八甲田山を行軍したこともないし、ご隠居に従って全国を行脚したこともないので、そんな常識を持ち合わせていなかった。

さて、コーヒーの品質のためには、ピッカー(収穫の担い手)がきれいにコーヒーを摘む必要があるというのが私の持論。そして、一説では世界には3千万人ものピッカーがいるそうだ。数カ月にも渡る体力勝負の収穫作業のためには、いかに疲労を回避するかが鍵。ピッカーが疲労困憊していては良質のコーヒーはできない。

そこで、タイツだ。美味しいコーヒーの為に、世界3千万人のピッカー全員にタイツを履かせてみたい!ビッグビジネスの予感がする。グラン・ジュテ。

 

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2017/03/01   yamagishicoffee

コーヒーハンター川島氏ご一行

いつも懇意にしていただいているミカフェートの川島社長の引率する社員の方々とサントリーの方々に農園見学に来ていただきました。(なのに、なぜかオリーブオイルの談議。私の勝手な趣味を押し付けてすみません。)
ご一行はミカフェートで販売するコナコーヒーの生豆をハンドソート(欠陥豆を取り除く作業)をするために、コナに来ているそうです。
人件費の高いコナでは一般にハンドソートはしません。コンテストや商社へのサンプル用に数キロ程度をハンドソートする農園はたくさんありますが、というか、どの農園もその手のお化粧をしますが、実際の小売り用の生豆をハンドソートするところは、同社以外には知りません。さすがシャンペンボトル入り。
ハンドソートはコーヒーの作業の中で最も過酷で、肩と首がパンパンになるので、私は一週間以上は続けてできません。
うちの農園は欠陥豆の率がコナで一番低いのですが、ハンドソートする同社には流石にかないません。

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2017/02/26   yamagishicoffee

リストランテ・ヒロのコーヒー

数年前から、リストランテ・ヒロの青山店と丸ビル店に私どもの農園のコーヒーを置いてもらっている。
今回、訪問した際に、うちのコーヒーを飲んだ。
目の前で挽いて、ドリップしていただいた。
コーヒーの透明感がよく表れていて美しい。
もちろん、料理はとても美味しい。

 

Link リストランテ・ヒロさんのコラム

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2017/02/22   yamagishicoffee

コナスノー

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今日の便で日本から帰ってきた。
3日前にコーヒーの花が咲いたそうだ。
うちの農園ではこの9年間で最大のコナスノーだったらしい。
見逃して残念。今日は既に散っていた。
今年は今から8か月後の10月下旬が収穫のピークとなる計算。
そこから逆算して、様々な作業を行う。
新たなシーズンの開始。
Let the games begin!

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2017/02/20   yamagishicoffee

収穫後の害虫対策

収穫が終わった。次は木に残った摘み残しの実を全て取り除く。6年前のCBB(Coffee Berry Borer)という害虫の上陸以来、この作業が必要となった。

CBBはコーヒーの実1個に50~100個の卵を産み、5週間で世代交代する。卵がすべて生き残るわけではないが、害虫対策をしないと、印象として5週間で10倍ぐらいに増える。5週間で10倍だと、開花から収穫までの8カ月で一匹が一千万匹に増える勘定。うちの5エーカーの畑の実の総数も約一千万個なので畑は全滅する。何らかの対策が必要。

他の国の産地では農薬で対処するのが一般的だが、アメリカは農薬の規制が厳しいので、それら農薬は使えない。コナでは代わりに、昆虫類にとりつく種類の白カビの胞子を水に薄めて噴霧する。さらに、うちでは虫食い豆を手で取り除くなどの対処をしている。その詳細は雑誌「珈琲と文化」100号記念別冊号(2006年1月)に記した。

様々な対策の一つとして、9割以上収穫が終わったら、残りの5%程度はすべて取り除き、畑に実(CBBの家)がない状態にする。翌シーズンの実は2月中には膨らみ始めるので、1月中に前年の実をすべて取り除き、翌年にCBBが繰り越すのを防ぐ。

年間の収穫量一千万個の5%は50万個。これを摘み取って捨てた。この作業が辛い。収穫は肉体的に辛くとも、収穫の喜びがある。ところが、せっかく育てたのに捨てるのは心が痛む。さらに、残り少ない実に畑じゅうのCBBが襲い掛かるから虫食い率が高い。見るだけで悲しい。

今年はこの摘み取り作業を3周行った。1周目はとにかく木に残った実を全て取り除く。取り残すと翌年にCBBが繰り越される。通常の収穫作業よりもスピードを落として摘み残しの無いように注意深く行う。

それでも摘み残しはある。枝の奥の方や葉の裏に隠れている。赤い実はやさしいが、緑の実は葉の陰だと見つけにくい。過熟を越して乾燥した実は黒くて見づらい。葉が茂った枝をひっくり返して裏を確認したり、頭を木の中に突っ込んで木の内側から外側を見たり、しゃがんで下から見上げたり、様々な角度から確認する。

3周目は最終確認。2周目にあんなに丁寧にやったのに、まだ見落としがある。自分の集中力の欠如にがっかりする。これが一番辛い。3周目は合計で1000個くらい見つけた。畑には3300本の木があるので、1000個は3本に1個。割合的には少ないが、それでも1000回がっかりした。しかも、半分くらいが虫食い。畑の実の数が激減するので、畑じゅうのCBBが集中する。虫食い率は短期間に数%から5割に急上昇する。5割と言っても、たかが500個。しかし、侮ってはいけない。500個の虫食い豆の中に100匹づついるとすると、5万匹のCBBを捕獲した勘定になる。5万匹が5週間に10倍の割合で増えたら、3カ月で畑は全滅だ。だから、3周目は時間をかけて慎重にやる。集中力が続かないので一度に2時間が限界。午前と午後に一日2回、2週間かかった。

この作業は性格により向き不向きがある。うちの妻はダメだ。彼女はコーヒー摘みが上手い。私より正確に速く摘めるが、この作業は向かない。「ここで見落とすと2か月後は100倍になるかもしれない。一つも見落とさない覚悟が足りないんだ」となじり、罵り、彼女をクビにした。「僕は真剣だから、君みたいには見逃さない」と豪語して、ひとりで作業をしていると、遊びに来ていた妻の父親が私が確認し終えた所を後からやってきて「ここにもある。あっ、またあった。ここにもたくさん。」と私が見逃した実を拾い集めて来た。妻は「お父さん、えらいえらい!」と大喜び。親子で仕返しか。。。。

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2017/02/01   yamagishicoffee

コーヒーの剪定と菩提樹

コーヒーの収穫が終わると、次は剪定(膝の高さでカットバック)。

コナの気候ではコーヒーは恐るべきスピードで成長する。3年も経つと背が高くなりすぎて、収穫の際に届かない。だから3年サイクルで剪定する。樹勢も回復する。

うちの農園では、畑を3区画に分けて、そのうちの一区画の木を丸ごとすべて剪定する。

以前は、区画には分けずに、3列に1列を剪定していた。ところが、CBB(Coffee Berry Borer)という害虫が上陸して以来、区画ごとにまとめて剪定するようにした。剪定したばかりの区画、剪定1年後の区画、剪定2年後の区画に分けてメリハリをつけて害虫対策ができるので、コストと時間を格段に節約できるし、虫食い率を格段に下げることができる。

区画ごとに剪定する方法する農家はコナでは数軒しかないが、今後増えると思われる。もし区画ごとに剪定している農園を見かけたら、その農園は害虫対策に真剣に取り組んでいると考えて良いだろう。

写真の畑の真ん中のひょろっとした木は菩提樹。3年前にこの区画を剪定した際に植えた。3年でかなり大きく成長した。

お釈迦様は菩提樹の木の下で瞑想して悟りを開いたという。菩提樹は大木になる。インドは暑いが、菩提樹の木の下は悟りを開くくらい涼しくて心地よいのだろう。うちの農園も100年もしたら大きく成長した菩提樹がSignature Tree(農園のシンボルとなる木)になるだろう。でも、それまでコーヒー農園であり続けるかなあ。

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2017/01/24   yamagishicoffee

雑誌「珈琲と文化」に拙稿「クリーンカップ至上主義」が掲載されたので転載します。

私にとってコーヒーで一番大事なのはクリーンカップである。それを目指して栽培している。そして、消費国でクリーンカップの理解が浸透することを切に願う。さすれば、コーヒー業界の健全な発展に資するとともに、産地の人々の生活改善に繋がると思う。

SCAA(Specialty Coffee Association of America)はコーヒー豆の質を評価するための基準を設けている。その評価項目には、香り、風味、酸味、後味、こく、均質性、クリーンカップ、甘さ、バランス、全体評価がある。それぞれの項目を点数化し、それを足し合わせて総合評価とする。コーヒーは農産物だから、産地・気候によって味が異なる。実に多様だ。SCAAの評価基準は多様な特徴を評価するのに役立つ。客観的な基準を作り、近年のサードウェーブの隆盛に貢献した。しかし、私にはクリーンカップへの比重が物足りなく感じる。

SCAA基準だとクリーンカップは10項目の一つにすぎず、かつ、カビ臭などコーヒー以外の物に由来する香味があった場合に減点する項目。これだと大抵のスペシャリティーコーヒーは10点満点となる。

一方、私にとってクリーンカップとはカップ一杯を30分位かけてゆっくり飲んでも、好ましい余韻が持続し、苦みや渋みやえぐみを感じないクリーンなコーヒーだ。しかし、複数のコーヒーを次から次へと吸い込んで数秒で吐き出すことを繰り返すカッピングでは、時間をかけて飲んで雑味が累積する嫌な感覚を感知するのは難しい。たとえ私がSCAA基準でカッピングをして高い点数を付けても、翌朝30分かけてゆっくり飲んでがっかりすることは多々ある。コーヒーを飲むのとカッピングするのは別物だ。

世間にはコーヒーの飲めない人、砂糖・クリームなしでは飲めない人が多い。大抵は雑味が強い(クリーンでない)からだ。SCAAの他の評価項目、つまり、香り、酸味、バランス等々が劣るから飲めない訳ではない。雑味こそが多くの人をコーヒーから遠ざけている要因だ。コーヒーを評価する際にもっと重視されるべきだと思う。

昔のコーヒーは雑味が強かった。私は学生時代からブラックで飲んだ。眉間に皺を寄せながらツウぶってすすった。砂糖やクリームを入れるなんて嗜好がお子様だと粋がっていた。今にして思えば、相当な痩せ我慢だ。雑味だらけのコーヒーには砂糖やクリームを入れる人こそ、まっとうな味覚の持ち主だ。最近は良質のコーヒーが浸透しつつあるが、まだまだ、砂糖・クリームなしでは飲めないコーヒーが巷に溢れている。

正しく育て、きれいに収穫したコーヒーは雑味がない。さわやかで透明感があり、ブラックでも飲みやすい。ゴクゴクと飲める。クリーンカップこそが、農家がいかに上質のコーヒーを作ろうと努力しているかを表す指標だ。

SCAAの他の評価項目は、畑の立地条件、その年の気象条件に左右される。お天道様のご機嫌しだい。しかし、クリーンカップはそういった自然環境頼みの項目とは一線を画す。コーヒーを健康に育て、健康な実だけを丁寧に収穫し、きれいに乾燥させる事がクリーンカップへの鍵。農家の努力の結晶だ。

なかでも、重要なのは収穫。ブドウなどの他の農産物とは違い、コーヒーは同じ枝でも熟度が揃わない。よって、未熟、過熟の実を除けて、完熟した実だけを選んで摘む。

収穫は3週間以内に畑を一周して同じ樹に戻ってくる。これを3~4カ月かけて何周もする。

機械で摘み生産コストを格段に引き下げる産地もあるが、それだと好ましくない豆も混じる。そもそも、コーヒーに適した土地柄、すなわち、日陰樹のある山の斜面では収穫用の機械は使えない。高い品質を維持するには、人間が手で選り分けながら摘むしかない。その担い手は季節労働者(ピッカー)だ。

うちの農園のように農園主が自分で摘む小さな農園は別にして、大きな農園だと、年間の生産コストの6~7割は収穫にかかる労賃。農園主にとっては収穫コストをいかに下げるかが経営の鍵。労賃は圧縮される。

通常、ピッカーへは摘んだ重量に応じて賃金を払う。ピッカーからすれば、低賃金にあえぐなか、多く摘めば摘むほど収入が増えるので、なるべく早く摘もうとする。きれいに摘むインセンティブは働かない。

一説ではピッカーは世界に3000万人。さらに、コーヒーは農園、収穫、乾燥、精選、港、輸送、商社、問屋、焙煎、小売店、コーヒー店やレストラン、缶コーヒー、その他コーヒー関連商品など多くの人の手を経る。全世界でコーヒーに関連する従事者は1億人に達するらしい。世界人口72億人だから、72人に1人はコーヒー関連。驚くべき産物だ。

その大勢の中で、品質にとって最も重要なのはピッカー。3000万人という膨大な人数が手作業でこなす。とても労働集約的な農産物で、その作業の善し悪しが品質に影響する。

 ところが、ピッカーの労賃は微々たる額だ。ハワイで労働者を雇うと最低でも一人一日120ドル程度。さすがはアメリカ。人件費は高い。しかし、中米では一日3ドル程度の場合もある。アフリカにはもっと安い国もある。これで丁寧に摘めと要求するのは酷だ。

仮に、ピッカーが一日200ポンド(約90キロ)の実を摘んで、3ドル(約300円)を稼いだとする。それを乾燥して生豆にして焙煎するとコーヒー1,200杯分だ。一杯当たり25銭(=300円/1200杯)がピッカーの懐の渡る勘定になる。喫茶店で飲むコーヒーが一杯500円とすると、25銭/500円=0.05%がピッカーの取り分。たったの0.05%!

「レギュラーコーヒー500円。手摘完熟最高級コーヒー800円」というのがあるとする。この差額は何だろう。たった25銭の部分がそのコーヒーのセールスポイント、付加価値の源泉、高級品としての価格設定の根拠なのに。「丁寧に摘んでくれたピッカーさんに、通常25銭のところ、なんと今回は特別に5倍の125銭をお支払いして、一杯501円!」とした方が、高級である理由が明確で分かりやすい。

1億人のコーヒー関連の従事者の中で、品質上最も重要な仕事をするピッカーの取り分が最も少ない。日本でコーヒーに関わるどの人よりも分け前が少ない。日本政府に至っては何もしないで消費税8%、ピッカーの160倍も稼ぐ。しかも、1億人の中でピッカーの仕事が肉体的に最も過酷だ。一日200ポンドのコーヒーを4ヶ月間も摘み続けるのがどれほど辛い作業か理解できる人は少ないだろう。最も過酷で、かつ、品質管理上、最も重要な部分に0.05%はお粗末だ。これが企業なら潰れる。「コーヒーだけにブラック企業です」などと笑って済む問題ではない。

コーヒー生豆はドル建てなので、値段は外国為替の影響を受ける。0.05%を外国為替に例えると、1ドル100円が100円05銭に振れた値。完全に誤差の範囲内だ。最も重要な仕事に誤差程度の報酬とはいかなることか。

消費国の関係者が産地へ視察に行って、赤だけをきれいに摘むよう「指導」したという話をよく耳にする。私などは、一杯25銭しか払わないで、よくそこまで言うなと感心する。ピッカーにすれば、「その程度じゃ、やってらんねーよ」というのが本音だろう。きれいに摘むのはそんなに易しくない。毎日摘んでいる私が言うのだから間違いない。

クリーンカップは、かくも不安定な構造の上に成り立っている。だから、クリーンなコーヒーは珍しい。いまだ多くの人がクリーンなコーヒーの何たるかを知らない。

コーヒーを南北問題の象徴として人道的議論をする以前に、コーヒー業界として品質の向上を求めるならば、品質の源泉であるピッカーへの分配を増やすべきだ。人道的観点からフェアートレードが注目される。「コーヒーを一杯飲んだら1円を産地へ送ります」。すばらしい試みだが、ピッカーの取り分が25銭から1円25銭に5倍に増えた話は聞かないし、第一、それでは、ピッカーにきれいに摘むインセンティブは働かない。

指導や人道的動機も大切だが、やっぱり人を動かすのは金だ。経済的合理性だ。まず、消費国でクリーンカップの理解が進むことが重要。すると人々はクリーンなコーヒーに高い値段を払うようになる。きれいに摘むピッカーの価値が上がる。きれいに摘むピッカーの収入が増える。摘み方で収入に違いがでることを体で理解できる。すると益々コーヒーの品質が上がる。クリーンカップはコーヒーの品質向上とピッカーの生活向上の鍵だ。

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2017/01/11   yamagishicoffee

ナチュラル製法大失敗の巻

一日の収獲量が少なく、ウェットミルに持っていく程の量がない日は、試験的に自宅の前で皮付きのまま乾燥させる。いわゆるナチュラル製法。昨年そうして試作したナチュラルを伊勢丹の催事に出展したところ好評だったので、今年も少しづつ作り溜めている。

コナでは水洗式が一般的。収穫したコーヒーの実は皮と果肉を取り除いてから乾かす。一方、乾燥した地域、水が貴重な地域、皮むき機械のない地域などは、皮をむかずに乾燥させる。非水洗式あるいはナチュラルと呼ばれる。

一般的に水洗式の方が非水洗式・ナチュラルよりも良質とされる。実際にコーヒーの先物市場でも、水洗式の方がナチュラルよりも高い値段で取引される。

しかし、ナチュラルの独特の風合いにファンは多い。Qグレーダー(コーヒーの鑑定士)の資格試験では、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、リン酸など、コーヒーに重要な種々の酸を官能する試験がある。リンゴ酸とクエン酸とリン酸は最初から豆に存在するが、酢酸は本来はコーヒーの果実の中にはなく、収穫後の精製の段階で発酵により発生する。ナチュラルに特徴的な酸だ。Qグレーダーは少量の酢酸には好ましい評価をする。

ところが、私はナチュラルは発酵臭が気になって苦手だ。嗅覚は脳の中で記憶と繋がっている。コーヒーは収穫した瞬間から猛烈な勢いで発酵し始める。収穫前ですら、雨が続くと過熟した実は枝に付いたまま発酵する。我々コーヒー農家は発酵と闘いながら収穫や精製作業をしているので、コーヒーカップの中から果皮・果肉の発酵した臭いがすると、闘っている記憶と重なり、生理的に受け付けない。この臭いとセットで現れる酢酸も同様に不得手だ。私の周りのコーヒー農家にはそういう人が多い。

一方、生産者以外のコーヒー業界の人々、あるいは消費者は、脳にこの刷り込みがない。この種の発酵臭を不快に感じないし、多くの人が発酵臭とさえ認識しないのだろう。(一般にコーヒーの発酵臭というと、これではなく、もっと強烈な異臭をさす。)そして、わずかに感じる酢酸を好ましいと判断するのだろう。

発酵の具合がナチュラルの善し悪しを決めるという見方があるが、私はナチュラルの真価は発酵にあらずと考える。(詳細は別の機会に論じたい。)ちなみに、「ナチュラルやパルプト・ナチュラルでは、乾燥中に、果肉の糖分が豆に移り、豆の甘みが増す」との解説がコーヒー業界内に根強くあるが、あれは間違い。収穫後、豆は根や葉などのポンプから切り離されるので、水の循環は経たれる。糖分は移動できない。

巷に溢れる発酵臭のするナチュラルに不満なので、発酵臭の少ないナチュラルを自分で作ってみようと試行錯誤している。ところがコナは収穫時期にも雨が降るので、うまく乾燥させるのは難しい。やはり、ナチュラルはブラジルのように収穫期に雨がほとんど降らない地域で作るものであって、気候が全然違うコナでは勝手が違う。

そこで一計。コナの畑はフアラライ山の中腹にある。山の中腹は雨が多いが、車で10分降りた海沿いは雨が少なく乾燥している。ここに屋根付きの温室を借りた。ここならばブラジルと同じようにカラッと乾かすことができる。我ながら妙案だ。

ところが、12月は異常なほどに雨が続いた。海岸沿いまで連日の雨。雨の中、寒さに震えながら丸一日かけて摘んだコーヒーの実100キロをその温室で乾かしたところ、1割以上が見事にカビた。大失敗。発酵臭とカビ臭がてんこ盛りの恐れがある。ひょっとして運が良ければ、モカっぽいものができるかもしれないが、私の求めるものとは違う。残念ながら100キロ分は全部廃棄。コナでナチュラルを作るのは前途多難だ。

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2017/01/03   yamagishicoffee