Q Grader(コーヒー鑑定士)の資格試験では、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、リン酸の官能理解度を問われる。それら4種類の酸の練習キット(写真)で練習する。しかし、コーヒーの成分は複雑で未知の部分が多いらしい。ましてや化学音痴の私にはチンプンカンプン。ただ、素人ながら、大雑把にいって、以下のような感じかなと思ってコーヒーを栽培している。
コナコーヒーは春に開花。水を吸収して約3か月でフルサイズに実の組織を成長させる。その後、養分を蓄積して成熟する。実の色は緑色から黄色、オレンジ、赤を経てワインレッドに変わる。ワインレッドに成熟した果肉は甘く、コーヒーにきれいな酸味がでる。
成熟の過程で、クエン酸やリンゴ酸を生成するほか、土からリン酸(植物体内で生成しない)を取り込む。クエン酸は柑橘系のするどい酸味で、リンゴ酸は甘い酸味。リン酸は他の酸の酸味に明るさを加える。
収穫が遅れ、この機を逃すと、チェリーは樹上で茶色から黒くなる。収穫期に乾燥しているブラジルではこれをナチュラルと肯定的に呼ぶが、コナのように収穫期に雨が降ると、果肉に酢酸ができて、果肉はすっぱくなり、渋くなり、苦くなる。腐るしカビるし、良いことがない。
収穫後の乾燥段階に、より管理された環境下で発酵させる製法(ナチュラル、セミナチュラル、酵母発酵など)もある。発酵で果肉に酢酸等が発生する過程で豆に風味を与える。
世間では、乾燥段階で生じる風味を農園の経営努力と持ち上げる。しかし、そんな努力は、充分にクエン酸とリンゴ酸が生成されるようにコーヒーを健康に育て、丁寧に収穫する努力に比べたら大したことはない。
生豆中のクエン酸とリンゴ酸は、焙煎が進むと分解して消滅する。酢酸は焙煎前半で増加した後に減少する。浅煎りでは酸味を強く感じ、深く煎るにつれ、酸味は減じる。一方、焙煎が進むとクロロゲン酸が分解して苦味の原因のキナ酸などができる。また、乳酸が増え、コーヒーにミルクっぽいコクを与える。浅煎りコーヒーではクエン酸やリンゴ酸を官能し、深煎りコーヒーではキナ酸の苦味や乳酸のこくを官能する。
ただし、カッピングで用いる浅煎りでも苦味がでるコーヒーはダメ。キナ酸が生成される前なのに苦いのは、クエン酸やリンゴ酸が充分に生成されていない不健康な豆だから。よってSCAはカッピング中の苦味を減点要因とする。
ところで、クロロゲン酸はロの字が重なって滑稽で可愛く聞こえるが、chlorogenic acidはLとRが並んで、私には発音難解な不愉快な単語。おまけに、クロロゲン酸が分解してキナ酸などが発生すると苦くなるので、アメリカでは、クロロゲン酸は、ちょっと困った物質という扱い。人気がない。ロバスタ種はクロロゲン酸の含有量が多いから低級品という具合。
一方、日本では、クロロゲン酸は健康に良いと、コーヒーの宣伝に使われる。電車の中刷りにその単語を見たときは思わずのけぞった。99%の乗客はクロロゲン酸なんて単語は知らない。でも、そういう専門用語のキャッチコピーで健康に良いと攻められると、そのメカニズムは全く理解できないのに、妙に納得してしまうから不思議だ。
私なんかコロナのワクチンを接種し、すっかり安心。なんてったって、mRNAワクチンだぜ。仕組み、ぜーんぜん分かんないけどさ。