農園便り

SCAA/CQI認定Qグレーダー試験対策(その5)

Roasted Sample Identification 異なる焙煎度合いに関する試験

SCAA基準のカッピングに使用する理想的な焙煎度合いを識別する能力を試す。

SCAAのカッピングの焙煎は、おそらく一般のコーヒー店で飲まれる焙煎度合いよりも浅い。このテストは異なるロースト具合の特徴を理解し、SCAA基準の焙煎度合いを識別する試験だ。

 

Correct: Agtronの色判別機で表面が58+/-1で、挽いた粉は63+/-1。表面と内部の差が5ぐらいあるのが理想。1ハゼ直後に豆が膨らみ色がまだミディアムの状態。色はlight to medium light brown。味はバランスがとれ甘く、目立った焙煎の欠点がない。

 

Under roasted: コーヒーの表面も内部も正しい焙煎の色よりも薄い。チャフが多くついている。コーヒーはSour(すっぱい)、Green(青臭い)、Underdevelopedである。

 

Over roasted :コーヒーは正しい焙煎の色よりも濃い。しかし、表面に脂が浮くほどではない。このコーヒーの味はDarker(ダーク), carbony(焦げ臭い), ashy(灰っぽい), bitter(苦い)

 

Baked (long roast):コーヒーの表面は正しい焙煎度合いの色と同じであるが、長時間の焙煎のせいで、内部の色は濃すぎ、乾いて見える。味はflat(平坦), herbal(ハーブ), woody(木のような、あるいは麦茶のような), little acidity or sweetness(酸味や甘みが少ない)。

 

Underdeveloped (short roast):コーヒーの表面は正しい焙煎度合いの色であるが、内部は著しく焙煎が足りない。味はunbalanced soury(アンバランスにすっぱい), bitter(苦い) and vegetal flavor(菜のような)。この味覚はコーヒー内部の糖分のキャラメル化が不足するために起きる。

 

今回の試験では、上記5種類のうち、Underdeveloped (short roast)以外の4つが出た。

5つのカップが並び、その中からCorrect、Under roasted, Over roasted, Baked(long roast)を選ぶ。重複しているものが一組ある。

試験の最初から既にお湯が注がれている。また、赤いライトの下で行われるので、色で判別することはできない。嗅覚と味覚だけで認識する。

長時間粘り続けても、液がなくなるし、だんだん抽出が濃くなって判別が難しくなる。最初の印象が勝負。

私の場合は迷った時はカップごとに水で口をすすいだ方が分かりやすかった。

受験者の中の焙煎士は、自分たちの焙煎度合い以外で焙煎したことがないので、良く判らないと混乱していた。また、普段はダークに焙煎しているので、勝手が違い、少し戸惑っているようだった。

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2016/07/10   yamagishicoffee

SCAA/CQI認定Qグレーダー試験対策(その4)

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Organic Acid Matching Pairs Test 有機酸の識別試験

 Coffee Chemistry.comへ行って、Organic Acids Taste kitを買う。テストでもそれが使われる。

スペシャルティーコーヒーは酸味が命。

コーヒーの酸味にはCitric acid(クエン酸) Malic acid(リンゴ酸) Acetic acid (酢酸)Phosphoric acid (リン酸)Lactic acid(乳酸) Quinic acid(キナ酸、クロロゲン酸)などがある。このうち、今回の試験では最初の4つがでた。

 

Citric Acid(クエン酸)

コーヒーの実の中で光合成により生成される。コーヒーの実が成長する初期に多く生成される。ロバスタ種よりもアラビカ種に多い。レモンなどのかんきつ類の酸で、舌に強い刺激を感じる。収穫の際に成熟度合いが足りない段階で摘むとクエン酸が多くなる。場合によっては好ましい酸味ではなく、すっぱいと感じることもある。焙煎が深くなるにつれてどんどん分解される。

一般に東アフリカのコーヒーのほうが中米のコーヒーよりクエン酸のレベルが低い。

このテストでは最も強く特徴的な酸と感じる。

 

Malic Acid (リンゴ酸)

コーヒーの実の中で光合成により生成される。コーヒーの実が成長する後期に多く生成される。ロバスタ種よりもアラビカ種に多い。コーヒーの実の成熟にかかる時間が長いと多くのリンゴ酸が生成される。よって、コナのように曇りが多い場合や同じ産地でも日陰樹を活用したり、標高が高く気温が低い、あるいは寒暖差が大きいなどの畑で時間をかけてゆっくり熟したコーヒーはリンゴ酸を多く含む。青りんごなどに感じる甘く好ましい酸味。東アフリカや山岸コーヒーに特徴的。焙煎が深くなるにつれてどんどん分解される。

このテストではクエン酸の次に強く感じるが、少しまろやか。

Mouth Drying(吐き出した後、どんどん口の中が乾いていく感じがする)なのが特徴。

 

Phosphoric acid (リン酸)

炭素を含まないので有機酸ではない。光合成では生成できない。土壌にリン酸が含まれると根から吸収し豆に溜まる。あまり酸味を感じないが、コーヒーに明るさを加える。抽出したコーヒーの中では最も濃度が低いが、他の酸味を引き立たせる。

クエン酸のレモンのような強い酸味をリン酸が加わることによってマンゴーのような甘い酸味に変える。

酸味と甘みをつなぎ合わせる効果があるので、コーラなどの清涼飲料水に使用される。加工食品に頻繁に使われる酸味。

私が練習した感じでは、もともと酸味の低いコーヒーにリン酸を入れてもあまり酸味を感じない。しかし、酸味が高いコーヒーに入れると、もともとの酸味を引き立たすので他の酸と混同し易い。

炭酸水を飲んだ時のような舌にピリピリした感触がある。

水洗式で水に長時間浸していると染み出る場合がある。

土壌により含有量が決まるが、アラビカ種、ロバスタ種に同じ程度含まれる。

山岸農園では土壌成分検査の結果、コーヒーに必要な100年分のリン酸が含まれている。

 

Acetic Acid (酢酸)

過熟した実や地面に落ちて何日も経った実を拾って混入すると酢酸が多くなる。非水洗式など精製の段階で発酵が進むと増える。酢のような酸味。微量だと好ましい酸味に感じる人が多いらしい。大量に入ると不快に感じる。

テストでは口にくわえると、喉の奥に違和感を感じる。酸味が強すぎると喉の奥が収縮し、オエーという感触が出る。吐き出した後、Mouth Watering(どんどん唾が出てくる感じ)なのが特徴。

焙煎時の初期に糖分が分解され酢酸が増え、464°Fで急激に減る。

 

Lactic acid(乳酸)

ヨーグルトのような好ましい酸味である。

焙煎中にショ糖が分解されて生成される。唯一ロースト中に増加し続ける酸味。深炒りコーヒーにミルキーな感触を加える。

今回のテストには出なかった。

 

Quinic acid(キナ酸)

焙煎中にクロロゲン酸が分解してキナ酸とカフェイン酸が生成される。

クロロゲン酸は生豆中のタンニンで、外敵から実を守る物質。

キナ酸はクランベリーやトニックウォーターに多い。

焙煎が進むとキナ酸が増えて苦みの原因となる。ボディーも増える。

健康に良いと日本のコーヒー業界では人気のクロロゲン酸だが、これが多いと苦いキナ酸が多く発生してコーヒーの味が悪くなる。アメリカ人はコーヒー業界の人でもクロロゲン酸なんて単語は知らない。

アラビカ種よりもロバスタ種に多く含まれる。

今回のテストには出なかった。

 

テストではSCAA基準で淹れたコーヒーをお湯で倍に薄めたものに、それぞれの酸を加えて、識別できるかの技能を試す。8組のセットが用意される。一組あたり4カップある。その4カップのうち2カップに同じ酸が注入されている。酸の入っているカップを2つ選び、入っている酸の種類を答える。今回の試験では、Citric acid(クエン酸) Malic acid(リンゴ酸) Acetic acid (酢酸)Phosphoric acid (リン酸)の4種類がそれぞれ2回ずつ出た。

練習キットを買って、練習したほうがよい。テストの為というより、酸味を官能する訓練に実践的に役立つ。100ccにたいして、20滴ずつを入れる。コップに最初に酸を入れてから、コーヒーを注ぐとうまく混ざる。

テストの練習ラウンドで、教官が誤って漂白剤の残っているコーヒーメーカーで淹れたコーヒーを使用したら、舌が酸を全く感じることができず、参加者全員が恐怖のどん底へ突き落された。どのカップも何も感じない。こんなに難しいテストには絶対に合格できないと感じた。しばらく全員が顔を見つめあい、教官に恐る恐る何も感じませんと告白したところ、漂白剤の混入が発覚した。漂白剤恐るべし。

 

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2016/07/09   yamagishicoffee

SCAA/CQI認定Qグレーダー試験対策(その3)

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Olfactory Tests 嗅覚試験

コーヒーに含まれることが多い36種類の香りを識別する能力を試される。

香りは大きく4つのグループに分かれる。試験はそれぞれのグループごとに行われる。よって、計4回。すべての香りを記憶しておく必要がある。

例えば、Enzymaticの試験であれば、Enzymaticに分類される9個のエッセンスが机に置かれる。ビンの番号も見えるので、番号を暗記しておいてもよい。そして、さらに6個のビンが置かれる。ビンにはテープが張ってあり番号は見えない。そのかわりA、B、C、D、E、Fと書いてある。ABCDEFのそれぞれのビンが、9個のビンのどれと同じであるかを判別する。

また、ABCDEFの中から3つが指定され、それの香りの名称を答える。

該当がなく空欄であるべき箇所が3つある。そこに誤って何かを記入すると減点になる。

仮にAのビンがアプリコット(16)だったとする。そして、アップル(17)はABCDEFの中になかったとする。Aを誤って本来空欄であるはずの17の欄に記入すると、そこで1点減点、さらに、16の欄も正解のAが記入されていないので、さらに1点減点。もし、名称を答える欄にAが出題されており、そこにAppleと誤解答するとそこでも1点減点となり、計3点の減点となる。

計9問中6問正解で合格。

赤いライトの下で行われるので、色で判別することはできない。

 

Enzymatic コーヒーの生豆の中に存在する酵素に由来する香り。お湯を注ぐ前の挽いたコーヒーの粉によくある香り。Cupping中のDry Fragranceの項目はこの香りを探す。

  1. Flower: Tea-rose/Redcurrant jelly, Coffee blossom, Honeyed
  2. Fruity: Lemon, Apricot, Apple
  3. Herbal: Potato, Herbal, Cucumber


 

Sugar Browning コーヒーを焙煎することにより糖分が焦がされて生成される物質に由来する香り。お湯を注いだ後に立ち上がる香り。Cupping中のWet Aromaの項目はこの香りを探す。

  1. Caramelly      : Butter, Caramel, Roasted peanuts
  2. Nutty    : Roasted almonds, Roasted Hazelnuts, Walnuts
  3. Chocolaty      : Vanilla, Toast, Dark chocolate


 

Dry Distillation 焙煎された豆の繊維をお湯を入れて抽出することによって発する香り。鼻の奥で感じる。

  1. Spicy    : Clove-like, Pepper, Coriander seeds
  2. Resinous : Cedar, Blackcurrant-like, Liquorice/Maple syrup
  3. Pyrolytic      : Malt, Pipe tobacco, Roasted coffee


 

Aromatic Taints コーヒーの実の収穫後に付く香り。精製や保管中につく香り。必ずしも常にそうとは限らないが、ネガティブな香りとされる場合が多い。ただし、Cupping form中のTaintやFaultとは異なる。TaintやFaultはカビなどのコーヒー以外の物に由来する香味を指し、このAromatic Taintsは、それほど極端にひどくなければ、あくまでもコーヒーの香味の範囲内である。

  1. Earthy   : Earth, Straw, Leather
  2. Fermented      : Coffee pulp, Basmati rice, Medicinal/Rio
  3. Phenolic : Cooked beef, Smoke, Rubber


 

テストはJean Lenoir氏が作成したLe Nez du Caféという香りのエッセンスを使う。もともとはワインの香りのエッセンスを作っている人。ワインやコーヒーの他にもウィスキーのエッセンスなども作っている。

一般に、味覚と違って嗅覚は先天性はない。嗅覚は脳のLymbic(大脳周辺系)で処理され、情緒や記憶を処理する部分と一緒なので、臭いは記憶することができる。また、当然だが嗅いだことがなければ、その臭いとは認識できない。よって、このテストのためにはLe Nez du Café社のエッセンスを事前に買い、練習して記憶することが重要。試験の為には果物屋に通いアプリコットの香りを覚えてもだめ。エッセンスのアプリコットの香りを記憶しなければならない。

事前に練習しておけば簡単に合格するが、練習なしで一発で合格するのはほぼ無理。追試を受ける前に会場で練習すればなんとかなるが、追試はストレスとなり他の科目に影響するので、事前に練習して当日のストレスを軽減すべき。

ただし、私が買って家で練習したものと、試験で使ったものは、同じ会社の製品にもかかわらず、それぞれのボトルが微妙に香りが違った。微妙というよりかなり違った。

そもそも、Roasted Coffeeはああいう香りとは思えないし、Coffee Blossom全然違う。もっと心地よい香りだ。

Basmati riceは発酵臭に分類されている。確かに欧米人にはコメは異臭だが、私には好ましい香りだ。また、牛丼を食べてもCooked beefの臭いはしない。

Smokeは正露丸に感じるし、Leatherは何故か新幹線の臭いに感じた。新幹線は牛皮の香りの付いた芳香剤を使っているのかもしれない。

Strawはゴルフ場でボールが藪の奥深くに入り、どうしようか悩んでいる時の臭い。

Liquoriceに至っては、食べたことがなく、第一、そんな単語も知らなかった。アメリカの子供がゴムのおもちゃみたいなものをしゃぶっているのを見かけ、変なものしゃぶっているなと思っていたが、あれがLiquoriceという菓子だと今回初めて知った。買って食べてみたが、気持ち悪くて全く好きになれない。

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2016/07/08   yamagishicoffee

SCAA/CQI認定Qグレーダー試験対策(その2)

Sensory Skills Tests 味覚試験     

Q Graderの試験の中で最難関の科目といわれる。一発で受かる人は少ないらしい。

甘、塩、酸を識別する味覚の試験。ショ糖、食塩、クエン酸の水溶液が使われる。

それぞれの水溶液が濃いもの、中程度のもの、薄いものの3種類に分かれる。つまり、全部で9種類のカップが用意され、その中身を当てる。ここまでは簡単。(Tests A とTests B) 

Test Cが難関。その9種類の水溶液を混合したものが出される。甘、塩、酸の3種類が入っているものが4カップ。2種類だけが入っているものが4カップ。さらに、それぞれ入っているものの強度を当てるというもの。これが非常に難しい。

たとえば、下の表のような答えになる。(当然だが、組み合わえは試験により異なる)

 

A

2

0

1

B

2

3

1

C

3

1

2

D

0

2

1

E

1

1

0

F

1

2

3

G

2

2

0

H

1

1

2

1薄、2中、3濃  


例えば、塩が入っているのに間違えて0にした場合、あるいは、入っていない(0のところ)に入っていると判断した場合、それぞれ4点マイナス。

さらに、濃度(1,2,3)を間違えると2点マイナスとなる。満点は96点で68点で合格。28点まで間違えても合格できる。制限時間は20分。

 

酸と甘と塩を組み合わせると、一般的に以下のような濃度の変化を感じると授業で教わった。しかし、テストは20分間と時間が限られているので、そんなことまで考える余裕がなく、全く参考にならなかった。

酸味は甘味を上げる。

塩味は甘味を上げる。

甘味は酸味を下げる。

甘味は塩味を下げる。

酸味は塩味を上げる。

塩味は酸味を下げる。

 

練習セッションで教官から受けたアドバイスでは、戦略として最初に3つ入っているものと2つしか入っていないものに分けて、それから濃度を考える人が多い。あるいは、甘、塩、酸の濃度3(濃い)ものを最初に見つけて分類していく人もいる。最終的には自分のやりやすい方法で攻めるのがよい。

 

水溶液の濃度に関しては非公開だが、試験を受けた私の感じでは以下のような具合だった。ただし、混合液の濃度は2つを混合すると半分になるので、2倍の濃度、3つを混合すると3分の1になるので3倍の濃度を使う必要がある。

 

クエン酸

1/8

1/16

1/32

砂糖

4

2

1

1

1/2

1/4


数字は500ccの水に対しての小さじの杯数

 

スペシャリティーコーヒーの命は酸味と甘み。このテストは酸味を代表するものとして、クエン酸、甘みを代表するものとしてショ糖を使う。塩は何を代表しているのか判らないが、たぶん、それ以外の味覚の代用として使っているのだろう。

教官によれば、味覚は先天的に恵まれた人とそうでない人がいるので、このテストは練習なしでも簡単に受かる人もいれば、いくら頑張ってもダメな人もいるそうだ。

普段からたくさん取りすぎている味覚には鈍感になるので、アメリカ人には甘味で間違える人が多いらしい。私は塩味で間違えた。私は塩が入っているとしょっぱいというよりも美味しいと感じてしまう。

ちなみに、Test AとBで使った、酸、甘、塩、単体の濃中薄の水溶液をTest Cの最中に参考として使えるのかと思っていたら、使えなかった。私はこのテストがそんなに難しいとは知らずに、ろくに練習もせずに行ったら、最初のテストで66点で一つ足りずに落ちた。塩が入っていないものをうまく見つけられずにあたふたしている間に20分が経過してしまった。一つのものにこだわり続けるとダメ。追試を翌日に持ち越すと精神的に参ってしまうので、直後の昼休みに再試験を志願し、今度は80点でクラスで最高得点だった。

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2016/07/07   yamagishicoffee

SCAA/CQI認定Qグレーダー試験(その1)

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6月の最終週に一週間ほどホノルルへ行き、Coffee Quality Instituteが主催する3日間の研修と、それに続く3日間に渡る22の試験を受けた。何とか合格して、妻と揃ってLicensed Q Graderの資格を取った。

コーヒーのカッピング(官能評価)の技術を図るものである。これに合格するとSCAA(Specialty Coffee Association of America)の評価基準・手順に従って、コーヒーを評価して点数をつける資格を持つ。

 とても集中力を要するストレスフルな試験で、苦しい体験だった。一つつまづくと、そのストレスに耐えられず、雪だるま式に転げ落ちていく感じがした。リタイアして10年、あれほど苦しい体験はない。嗅覚と味覚で感知してそれを言語で表現するなんて、これまでの人生でそんな脳の使い方をしたことがない。大学受験、銀行員、ウォールストリートバンカーという脳の使い方をしてきたのだ。どの試験も他の受験者がさっさと回答して合格していくのに、私だけは制限時間いっぱいまでコーヒーの前で首をかしげながら粘り続け、見るも哀れな形だった。試験の最後には、混乱と疲労で、舌と鼻と脳が完全にシャットダウンして何もわからなくなってしまった。

ただ、コーヒーに関する知識を問う4択の筆記試験だけは、クラスでぶっちぎりダントツで合格した。そういう脳の使い方は得意なのだ。あの試験は良い気晴らしになり、脳が休まった。あれがなければ、その次の私が最も不得手とする非水洗式(ナチュラル)のカッピングとトライアンギュレーションは合格できなかっただろう。

 今回の受講者は7人。少人数で雰囲気の良いチームだった。それに加えて、前の週のサンフランシスコで行われた試験に不合格の人が追試を受けに来た。

この試験がハワイ州で行われるのは今回が初めてなので、ハワイ州でこの資格を持っているのはごく少数だ。今回、コナからは私共2人の他にも2名が参加した。難関にもかかわらず全員合格した。生産地として誇らしい結果だ。

オーストラリヤやニュージーランドからも参加者があった。それらの国では、ウェイティングリストがあり、受験までに1年以上も待たなければならないらしく、今回、ハワイでの開催を機に、休暇を兼ねて飛んできたそうだ。

日本での試験は大人数だと聞く。もし、英語に問題のない人であれば、少人数のハワイで受験したほうが断然有利だ。

教官のJodi Wieserさんもとても親切で、我々がリラックスできるよう工夫してくれた。チーム内の協力的な雰囲気づくりもしてくれた。解答用紙を提出したときに、合格だと明るく”All right!”言いながら解答用紙に大きくPass!と書いてくれる。ところが、不合格だと、puppy eyes(子犬のような無垢な目)で悲しそうに見つめられる。あの優しい無垢なpuppy eyesを皆が恐れた。

 世界中のコーヒー畑で働いている人は3000万人と推定され、コーヒー店やレストランなどコーヒーに関連した仕事に従事している人数は1億人にも上ると推定されている。世界人口が72億人なので、72人に1人はコーヒーから収入を得ていることになる。

その1億人の中でLicensed Q Graderの資格を持つ者は約3500人ぐらい。毎日、様々な種類のコーヒーを評価することによって培われた専門技能を要求されるプロの鑑定士である。

一方、私どもといえば、毎朝コーヒーは飲むものの、飲むのは自分の畑のコーヒーだけ。日本に旅行で行ったときなど以外に他の国のコーヒーなどほとんど口にすることはない。はっきり言って、カッピングのど素人だ。

唯一のアドバンテージは、ほとんどの人がめったに口にすることのない最高級品のコーヒーを毎日飲み続けていること。しかも、ティピカ種、手摘み、水洗式、天日干しで、コーヒーの本家本元の香味だ。良いコーヒーはどうあるべきかについては、自分なりのハッキリとした基準を持っている。たとえコーヒー業界の人でも、毎日90点前後のコーヒーを飲み続けることはないであろう。私の唯一のアドバンテージだ。

 私が他人のコーヒーを飲む場合は、常に自分のコーヒーと比べてどうかという観点から飲む。もちろん、山岸コーヒーと比較しながらコーヒーを飲むのは世界で私と妻だけで、当然ながら他人はそういう見方をしない。一方、Q GraderたちはSCAAの基準に従って評価するので、同じコーヒーには、ほとんど同じような点数を付けるという。なので、私が自分のコーヒーを熱く語ったところで、見方が違うので話がすれ違う可能性がある。私にとってはこのコースと試験を受けることはとても意義のある体験であった。

 そもそも、ど素人の私がQ Graderの試験を受けるなんて、高尾山も登ったこともない私がいきなりエベレストに挑戦するようなものである。無謀の限りだ。しかし、こうなったのには理由がある。実はホノルルのとあるレストランが毎月末に主催するゴルフトーナメントに出場しようと思ったが、ただゴルフをするためだけにホノルルへ飛行機で行くのは無駄だ。よって、その月例会に参加する際には、必ず他の用事を合わせる。今回はホノルルでコーヒーのセミナーが開かれるというのを見つけ、申し込みをした。その時点ではQ Graderなどという単語も知らないので、それが資格試験だということは全く気が付かなかった。ただの勉強会かと思っていた。ホノルルで一週間、毎日買い物をして美味しいものを食べながらコーヒーの勉強ができると呑気に考えていた。まさか、あんなに苦しい地獄のトレーニングになるとは。

試験の3週間くらい前になって、とても難しい資格試験だと知らされた。募集要項を読み直すと、確かに、かなりの実務経験を要し、素人には無理と書いてある。慌てて資料を取り寄せ、2週間ほど付け焼刃のトレーニングを始めた。

体験者のブログのアドバイスに従い、期間中はアルコールや極端に脂っこいもの、甘いもの、しょっぱいもの、辛い物を口にしないようにした。

セッションと次のセッションの間に歯磨きをしたが、実はこれは大失敗で、他の参加者の中には、この期間中だけ刺激の少ない歯磨き粉に変えている人もいた。ましてや、試験の間にフレーバーの付いた歯磨きをするのは自殺行為のようだ。

とにかく、最終日のお昼前にすべての試験に合格して資格が取れた時には、何もできないくらい疲れ果てていた。スターウォーズのジャージャービンのように、舌がベロベロベロベーとなってしまった。帰りの飛行場で待ち時間にビールで乾杯したが、あれほど好きなビールも体がまるで受け付けない。とにかくつらかった。


試験内容は以下の通り。

General Coffee Knowledge筆記試験

Sensory Skills Tests 味覚試験     

Olfactory Tests 嗅覚試験

Triangulation Tests 3つの中から一つだけ異なるコーヒーを選ぶ試験

(中南米、アジア、アフリカ、非水洗式の4セッション)

Organic Acid Matching Pairs Test 有機酸の識別試験

Roasted Sample Identification 異なる焙煎度合いに関する試験

Green Coffee Grading 生豆の欠陥豆を識別する試験

Cupping Tests カッピングの実習試験(中南米、アジア、アフリカ、非水洗式の4セッション)

 

カッピングの実習試験と筆記試験以外は、不合格でも最終日までに2回まで追試を受けることができる。最終日の午後は追試に充てられる。

 

次回からはその試験の傾向と対策をお伝えする。

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2016/07/06   yamagishicoffee

コナコーヒー農園便り 2016年7月号 接ぎ木

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海側の新しい畑は4年目に入った。とかく若い木は、まだ根が未発達のくせに、実を沢山付けようとする。向こう見ずなのは若者の特権だが、若気の至りなどと笑ってはいられない。実の付けすぎで突然死することもある。Overbear die backといい、3~4歳の木によくある問題。加えて昨年夏の猛暑によるストレスだ。2100本の3歳の木のうち、昨年は約120本が死んだ。たいていは木の下の地中に大きな石があり、根がきちんと張れなかったものが多い。また、2100本もあれば、中には成長の悪い木もある。早い時期に植え替えたほうが長い目で得だ。  

今年は接ぎ木をした苗木を買った。この農園では初の試み。コナティピカ(アラビカ種)が上で下の台木の部分はリベリカ種(写真の根元の色の濃い部分)。

コーヒーの品種には主にアラビカ種とロバスタ種がある。コナコーヒーは原種に近い純粋のアラビカ種である。アラビカ種は香味に優れるが、ひ弱で根も弱い。一方、缶コーヒーやインスタントコーヒーの原料として使われるロバスタ種は香味に劣るが、根が強く劣悪な環境でもよく育つ。接ぎ木をする場合、一般的に他の産地では、上はアラビカ種で根はロバスタ種にする。ロバスタの強い根を持ち、香味はアラビカ種にするいいとこどりが狙いだ。

ところが、コナでは台木に、さらに別の品種のリベリカ種を使う。理由は線虫対策。コナの線虫は強烈すぎてロバスタ種でさえ対抗できない。リベリカ種は飲用には不向きだが、背の高い大木になる種類で根がとても強い。

線虫は顕微鏡でないと見えない小さな生物で、コナの土壌に住む。コーヒーの根に付くと根が栄養を吸えずに木が枯れる。土の中の線虫は早くは移動できない。一本の木が被害にあっても2m離れた隣の木まで地中を移動するのに数年かかるので、畑全体が被害にあうのは稀だ。ところが、木の植え替えなどすると、元の木の根に線虫がいれば、畑全体に線虫が拡散する。毎年、春には地面に落ちたコーヒーの実が発芽して、そこらじゅうに生えてくる。これを抜いて他の場所へ植え替えるのは厳禁。線虫の被害が拡散すると、その畑では2度とコーヒーは育たない。だから、苗木は線虫のいない土で育てた信頼のおける業者から買ってくる。中には土を熱い鉄板の上で焼いてから使用する業者もある。

うちの畑には線虫の問題はないので、これまでは接ぎ木を用いていなかった。上から下まで純血のアラビカ種だ。しかし、若木が死んだ場所は地中に大きな溶岩があることが予想される。2012年8月号の農園便りに記したように、つるはしで岩を取り除いても良いが、120本はとても無理。根の強いリベリカ種の接ぎ木を使うことにした。

接ぎ木にすると木の成長が早くて生産量が上がる。農園主としてはうれしい限り。初期コストは高くとも接ぎ木を用いる農園は多い。ところが、ピッカーには評判が悪い。根が強いので、成長が良すぎる。背が高くなって収穫が困難。おまけに手の届くところまで幹をたわませようにも、幹が太くてたわませにくい。実にピッカー泣かせだ。

一般的な農園主でそんなピッカーの泣き言まで気にする人は少ないが、私は彼らと違って、農園主、兼、ピッカーなので、嬉しいやら恐ろしいやら。

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2016/07/03   yamagishicoffee

ストレステストをやってみた

アメリカでも日本語放送でNHKスペシャルが見られる。
先日のシリーズ「キラーストレス」の中で紹介されていた、ストレスチェックテストをしてみた。
テストはこちら: https://www.nhk.or.jp/special/stress
260点以上:ストレスが多い要注意の段階
300点以上:病気を引き起こす可能性があるほどストレスが溜まっている可能性がある段階

この基準に対して自分の点数を比べてストレス度を認識する。
やってみたら、現在の私は166点。ほとんどストレスのない状況だ。
ちなみに、2001年の同時多発テロ事件直後にウォール街で働いていた頃のことを思い出してストレス度を計ったら、軽く1500点を超えた。病気になるレベルの5倍だ。

ハワイでのコーヒー栽培は精神衛生上とてもよろしい。

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2016/06/25   yamagishicoffee

ストロベリー・ムーンをみましたか?

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昨日は夏至。私の家は真西に向いているので、秋分と春分の日には夕陽が真正面に沈む。夕陽は夏は右に移動し、冬は左に移動する。夕陽の位置で季節を感じる。夏至の昨日は最も右に夕陽が沈んだ。

また、昨晩はストロベリームーンだった。6月の満月をストロベリームーンと呼ぶ。由来はアメリカ先住民のアルゴンキン族がこの月が昇ったらイチゴ摘みの季節と判断したからだそうだ。しかも、夏至とストロベリームーンが重なったのは、1967年以来で、次は2062年6月21日だそうだ。ちょっと見れそうにはない。ちなみに、昨夜の月はコナの空では赤ではなく白かった。

イチゴといえば、ロンドンのウィンブルドンのテニス選手権が有名で、6月のトーナメント中はクリームを添えたイチゴが名物。ウィンブルドンはボルグが全盛の頃、真夜中の放送に噛り付いて試合を見ていた。イチゴはその頃からの憧れで、数年前にウィンブルドンの会場に行った際には、試合を見る前に、真っ先にイチゴを買って食べた。

以前、12月に日本に行った際、レストランの店員が、デザートには今が旬のイチゴでございますと言ったので驚いた。私のことだから、当然、その店員に噛み付いた。同席していた家族は私の反応にもっと驚いた。今やクリスマスの時期がイチゴの旬なのは日本の常識だとたしなめられた。

ところで、最近読んだフランス人の書いたワインやコーヒーの香りに関する本によると、コーヒーの香りには何十種類もあって、キャラメルの香りに関しては、西欧人はイチゴに感じる人が多く、アジア人には焼いたパイナップルに感じる人が多いと書いてある。

私なんか、ワインはブドウの味しかしない。コーヒーも人にはキャラメルの香りとか、恰好つけて言うこともあるが、コーヒーにはコーヒーの香りしかしない。どういうことだ?

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2016/06/21   yamagishicoffee

アジサイにコーヒーをあげたら真っ青に

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最近、いろいろなコーヒーが手に入ったので、毎日カッピングをしている。

ブルーマウンテン、ブルンジ、エチオピア・イェルガチェフ、エチオピア・チェルベサ、コロンビア、コロンビア・ゲイシャ、マンデリン、東チモール、そして山岸農園のコナをカッピングして比較する。

やっぱり、自分のコーヒーが一番美味いなと悦に入る究極の手前味噌な遊びだ。

ところが、同じコーヒーでも、日によってカッピングのスコアーが違ってくるので、自分の感覚の不安定さとカッピング技術の未熟さに呆れて、顔が真っ青になる。

真っ青になったのは私の顔だけではなく、我々がカッピングをしているキッチンのすぐ外のアジサイの花の色も真っ青に変化した。

家の周りの草花も我々の顔色をうかがっているのだろう。

 

実は、カッピング中に大量のコーヒー液と出がらしの粉がでるので、それをボールに貯めて、キッチンのドアのすぐそばにあるアジサイの木の周りに捨てていたら、徐々にアジサイの花の色が変わってきた。

ピンクが多かったものが、青い花ばかりになった。

調べてみたら、アジサイの花は土の酸性度で色を変えるらしい。酸性度が低ければピンクで、高ければ青くなるそうだ。

 

コーヒー液は酸性だ。私がカッピングしているのはすべて高得点のスペシャリティーコーヒー。爽やかな酸味が特徴の絶品ぞろいだ。クエン酸、酢酸、リンゴ酸、がたっぷりのコーヒーだ。

アジサイの色が青に変わったのは、毎日コーヒーをあげていたので、土の酸性度が上がったらしい。

 

ところで、化学的なことは良くは知らないが、梅干しがアルカリ性食品であるのと同じで、コーヒー液は酸性だが、体内に入ると、体内をアルカリ性にするからアルカリ性食品だという議論はよく見かける。

アジサイの体内はアルカリ性にしないのだろうか??

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2016/06/18   yamagishicoffee

剪定(その4)剪定バサミ

剪定作業に欠かせないのが剪定バサミだ。盆栽を楽しまれる方には常識だろうが、剪定する際には枝に斜めにハサミの刃を入れると切りやすい。斜めでなく、枝に対して垂直に切ろうとするとかなりの力を有するし、ハサミが壊れやすい。切れの悪いハサミだと、どうしても力任せに切って、枝の切り口が荒くなる。そこからばい菌が入りやすく樹が病気になる原因だ。また、ハサミにも余計な負担がかかり、壊れる原因だ。よく切れる良質のはさみだとサクッサクッ、パチッパチッと切れて、切り口もきれい。ハサミに負荷が掛からないし、手も楽だ。
 

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私は日本で買ってきた写真のはさみを使っている。最高級品で、山形の野村屋製製鋏所の「村久」だ。鍛冶屋の職人さんお手製の大変なすぐれものだ。もう、これなしではコーヒー栽培はできない。
 

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妻はこれ。岐阜の会社の「岡恒」。値段は安く、大量に生産しているので、日本では簡単に手に入る。こちらも素晴らしい。

コナの店で剪定バサミを買うと、米国製やメキシコ製などで、品質が悪い。ほんの数か月使っただけで、ハサミの刃が合わなくなる。枝が切れずに刃と刃の間に枝が挟まってしまったりする。すぐに錆びたり、鈍らにになり切れ味も落ちる。大体、私の手には無駄に大きすぎる。

 一方、日本製の品質は素晴らしい。切れ味が良く、長持ちする。コナの店でもたまに日本製が棚に並ぶことがあるが、日系人の農家の人々は日本製の品質が良いことをよく知っているので、すぐに売り切れてしまう。だから日本製が欲しければ、日本に行った際に買う。

山岸農園は日本の職人の技に支えられている。コーヒーを飲む際にはフィルターやサーバーやミルなどの製品ばかりに注目するのでなく、鍛冶屋さんにも思いを馳せてほしい。日本の職人さんに感謝だ。

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2016/06/15   yamagishicoffee