季節外れのマンゴー
コーヒー畑にあるマンゴーの木に一つだけ季節外れの実が生っていた。もう、熟れ始めたので、今週には採ろうと楽しみにしていた。
やられた。七面鳥に先を越された。マンゴーの木の上で夜を過ごす七面鳥がいる。あいつに違いない。無残にも食い残しが地面に落ちていた。
悔しいけど、ニワトリにくれてやる。
コーヒー畑にあるマンゴーの木に一つだけ季節外れの実が生っていた。もう、熟れ始めたので、今週には採ろうと楽しみにしていた。
やられた。七面鳥に先を越された。マンゴーの木の上で夜を過ごす七面鳥がいる。あいつに違いない。無残にも食い残しが地面に落ちていた。
悔しいけど、ニワトリにくれてやる。
コーヒー収穫、今シーズン3ラウンド目終了。
キラウェア火山の噴火が止まったので、大気中の火山ガスがなくなり、直射日光が強い。暑い。汗で全身ビショビショ。暑さで体力を消耗。
暑さで水蒸気が多いせいか、夕方になると連日の雨。雨で全身ビショビショ。手足が冷えて体力を消耗。
火山噴火が止まって、空気が澄んで景色が素晴らしいのは嬉しいが、疲れるわ。
とりあえず寝る。目覚ましなし。でも、明日から一週間ほど畑の手入れ。草刈り、肥料、その他、不健康な実、虫食いの実、摘み残して過熟した実の除去など、作業はたまっている。
来週後半からコーヒー摘み4ラウンド目に突入予定。
キラウェア火山の噴火が止った。コナに澄んだ空気と素晴らしい景色が戻ってきた。
空と海が青い。コーヒー畑から見下ろすと、少し丸みを帯びた水平線がクッキリと海と空を分ける。ぽっかりと空に浮んだ雲が白くまぶしい。水平線に落ちる夕陽を眺め、夜には天の川がきらめく。「これが本当のコナだよね」と皆が言う。
キラウェア火山は1983年から噴火が続いていた。それでもコナの空気は悪くはなかった。NYから休暇でコナに来るたびに、青い空と海に魅了された。ところが、2008年にコナに引っ越した翌週に火口が2つに増えた。コナとは島の反対側なので直接の影響はないが、火山ガスが流れてきて、憧れの青い空と海が霞んだ。せっかく引っ越して来たのに、約束が違うじゃん。
今年5月に突然キラウェア火山山麓の住宅地から溶岩が噴き出た。第3の火口だ。火山ガスで景色は最悪。白くモヤモヤして海が見えない。気分もモヤモヤ。
噴火の模様は世界中に報道された。島の端っこの出来事なのに、まるで、ハワイ島全体が危機的状況のような報道に観光客が激減。観光業は大打撃。7月31日に観光ツアー最大手の会社が廃業するに至った。皮肉にも、その2日後に噴火は止まった。以来、空気が澄んで、景色が素晴らしい。このまま本格的に火山が休止するのを望むばかりだ。噴火は止まっても、メディアは報道してくれない。こんなに美しいコナが戻ってきたのに。
専門家に伺ったところ、今回の5月の噴火は地中深くからのマグマの圧力が高まった訳ではなく、地表近くに溜まっていた溶岩の出口が増えただけ。しかも、すごい勢いで大量の溶岩を流出させたため、火山内部の圧力が急低下した。火山活動は予測不能なので、どの専門家も断定的な発言はしないが、オフレコでは、何十年分の溶岩を噴出したので、火山内部の圧力が戻るには時間がかかる。20~30年は噴火しない可能性は十分にあるそうだ。話しぶりからすると、それがメインシナリオに聞こえて来た。
大気中に火山ガスがないので、日差しが強い。ビーチは以前より暑い。だが、暑さがなんだ。木陰に入れば、ハワイの風が爽やか。一方、標高の高いコーヒー畑でも、朝は以前よりも急激に気温が上がる。ところが、海岸の強い日差しで水蒸気が発生し、湿った空気がフアラライ山麓に上昇気流を生む。コーヒー畑地帯は昼前には雲に覆われるので28度は超えない。午後になると雨が降る。まさにコーヒーには理想的な気候だ。
ハワイ大学によると、1983年の噴火以来、コナの雨量は減ったそうだ。コーヒーベルトのちょうど中間に位置する研究所で測定した雨量では1983年の噴火前の年間平均雨量は68インチ(1752mm)だったが、噴火後は49インチに減少。今回の噴火停止で、もし今後、恒常的に夏の雨量が増えてくれればコーヒーには朗報だ。
コナは山麓のコーヒー畑とビーチの高級リゾートが共存するユニークな町。休暇シーズンには富豪たちがコナの別荘へやってくる。飛行場にはプライベートジェットが並ぶ。一方、コーヒー農家にはコナの田舎の雰囲気を守りたい人が多い。’Keep the country country’(田舎を田舎のままに)と標語を掲げる。山麓にコーヒー畑が連なる光景は素晴らしいが、コナの経済的発展の原動力は高級リゾートの開発と移住者による人口増加。開発なしにはコナの住民の生活は成り立たない。田舎と開発が時には対立、時には共存する。
このまま火山が停止すれば、米本土からの移住者が増え、コナの人口が爆発的に増える予感がする。いや、確信する。なにせこの気候。ここはパラダイス。今後、コナがどう変わっていくか楽しみ。東京からの直通便もある。
SCA (Specialty Coffee Association)のコーヒー評価基準の第一項目は「香り」。しかも、その内訳としてFragranceとAromaの2つがある。二番目がFlavor(味・風味)。
香りに関し、消費財には決まりがある。香水、石鹸、シャンプーなど口に入れない商品の香りはFragranceという。一方、食品、歯磨きなど口に入れる物にはFlavorを使う。Flavorは口に入れた際のTaste(味)とAroma(香り)とMouthfeel(口当たり)を統合した感覚。日本語の風味に近い。口に入れると、香りは味と渾然一体なのでFlavor を使う。だから石鹸やシャンプーにFlavorは使わない。石鹸を食べてはいけない。
日本語には「におい」と「かおり」の2単語くらいしかないが、英語には香りを表現する単語はSmell, Incense, Scent, Aroma, Perfume, Fragrance, Odor, Stink, Stench, Reek, Rankと多い、それぞれ微妙に意味が異なる。
SCAではコーヒーを口に入れてFlavorを確かめる前に、FragranceとAromaと2種類の香りを官能する。それぞれ、定義があり、粉砕した粉の香りをFragrance、お湯を入れた後の香りをAromaとする。Dry FragranceとWet Aromaとも呼ぶ。カッピングは通常35分位かけるなかで、FragranceとAromaに15分位を費やすのでかなりの比重だ。
まずは挽いた豆のDry Fragranceを官能する。その際、生豆の中の酵素(Enzymatic)に由来する香りを中心に探していく。Flavor wheel (SCA作成の香味一覧表)の中の、花(ローズティー、コーヒーの花、ハチミツ)、果物(レモン、アプリコット、リンゴ)、ハーブ(ジャガイモ、ハーブ、キュウリ)などを参考に自分の感想を記す。もちろん、香りは個々人の経験と感性によるので、この表に限らず、人によってまちまちとなる。
次にお湯を注いで、Wet Aromaを官能する。焙煎で糖分が焦がされて生成される物質に由来する香り(Sugar Browning)などを探す。キャラメル(バター、キャラメル、ローストピーナッツ)、ナッツ(アーモンド、ヘーゼルナッツ、ウォールナッツ)、チョコ(バニラ、トースト、ダークチョコ)などが代表。その他、長くなるので説明は省くが、Dry DistillationやAromatic Taintsを感じればそれも記す。
日常ではFragranceとAromaの区別は曖昧。なぜ、SCAはその2単語をそう定義したかに興味がわき、コーヒー鑑定士仲間で議論してみた。こんな意見が出た。
まず、アル・パチーノ主演の映画「Scent of a Woman」のScentは人間や動物の体臭。一方、FragranceとAromaは花やフルーツや香料など植物によく使う。その際、両者の差はあまりない。セラピーもAroma TherapyともFragrance Therapyともいう。香水はFragranceをよく使うが、Aromaも可。色々例を挙げても、両者に違いはあまりない。
強いて違いを言えば、Fragranceは鼻から入る香りの一方向だが、Aromaは鼻から入る香りと口から鼻に抜ける香り(レトロネーザルアロマ)の2方向をカバーする。そう考えると、確かにAromaは料理に多く使う。生きた牛の臭いはScentだが、ステーキにするとAroma。Fragrantな香辛料をお湯に入れてかき回すと、素敵なAromaのスープができる。だから、コーヒーはお湯を入れる前がDry Fragranceで入れた後がWet Aromaなのだろう。確かにFragranceは乾いた感じで、Aromaは湿った感じがする。
香水をつけた女性からは素敵なFragranceがするが、少し汗ばんだ体からはAromaが立ち上るという説も出た。なんだか話が色っぽくなってきた。
ハワイも夏は暑い。畑から汗だくで帰って、妻に「どう、僕のAromaは?」と問うてみた。『うわっStinky!ゴホゴホゴホ。早くシャワー浴びて。」と答えが返ってきた。
コーヒー摘みの季節到来
収獲の第一ラウンド本日開始。
今日は友達にも手伝ってもらいはかどった。
第一ラウンドは量が少ないので、明日には終わる予定。
これから3週間ごとに1月まで摘み続ける。
収獲は標高の低い農園から始まる。もう第4ラウンドだという農園もあるらしい。
やっぱり収穫は楽しい。
このために一年やってきたんだから。
日本には日本人は味覚に鋭敏だと信じる人が多い。食品総合研究所によると、日本語には味覚表現が多いそうだ。英語の食感用語は77語に対し、フランス語は227語、日本語は何と445語にも上る。日本人が味覚に鋭い証拠としてネット等で引用される。
米国人のコーヒー鑑定士(Q Grader)とコーヒーを飲んだら苦かった。私がBitter(苦い)と言うと全員が賛成。しかも渋かった。渋いという英単語が思い浮かばないので、ピーナッツの皮のような味と言ったところ、”OK, Bitter”との返事。さらにえぐかった。火の通っていないナスと説明したところ、またもや”OK, Bitter”。なんでもBitterかよ。随分と大雑把なBitterだなあと思った。
ところが、彼らの嗅覚は鋭いし、表現が豊かだ。私にはチンプンカンプンだが、彼ら同士ではお互いに納得しあっている。私はお手上げだ。
そういえば、嗅覚に関して、それを表す名詞は「におい」と「かおり」の2語しか思いつかない。英語ではSmell, Incense, Scent, Aroma, Perfume, Fragrance, Odor, Stink, Stench, Reek, Rankなど、多くの単語があり、それぞれ微妙に意味が異なる。
「かおり」と訓読みする漢字を調べたら、香、芳、薫、馨、馥、芬、馝、飶、苾など、たくさんある。中国では別の単語なのに、日本ではすべて「かおり」と一括り。食感用語の多さが味覚の優秀さの証拠なら、嗅覚用語の少なさは劣っている証拠なのか。
日本の香り文化にお香がある。子供の頃、親に付き合わされたが、あまり楽しくなかった。香りよりも雲母板に興味を引かれ、遊んで叱られた。そもそも、香の世界では、なぜ香りを「聞く」のだろう。「嗅ぐ」は不粋とされる。「香」は、動物的な嗅覚ではなく、精神性を持って心で「聞く」のだそうだが、嗅覚は卑しいという認識があるのか。
そういえば、日本には香り重視の嗜好品が少ない。欧州の嗜好品の紅茶やコーヒーは香りを楽しむ。日本の緑茶の香りも良いが、紅茶ほど強くない。むしろ、旨味が特徴だ。
お酒にしても、ワインは香りが命。だから丸みを帯びた筒状のグラスに少しだけ注ぎ、グラスをグルグルと回転させて、香りを楽しんでから、口に含む。一方、日本酒は器に、なみなみと注ぎ、オートットトトッーと唇を尖らせて口から迎えに行くのが、我々オッサンの礼儀作法だ。これでは香りを鑑賞する間もない。日本酒は香りよりも旨味の文化。酒と肴が互いの旨味を引き立て合うのが醍醐味だ。
日本人のウィスキーの飲み方も英国人とは違う。彼らは”Don’t drink whisky without water”という。ただし、 ”Don’t drink water without whisky” と続く。ウィスキーも香りが命。一滴でもよいから水で割って香りを揮発させて飲む。ただし氷は香りが立たないのでダメ。なのに、日本では水割りに氷は入れるは、オンザロックで飲むはで、香りには無頓着。
コーヒーの審査員をしていると、紅茶、コーヒー、ワイン、ウィスキーではなく、若い頃からお茶とお酒とビールで味覚を形成した私は、香りを言葉で表現する訓練が欠けていると感じる。(いや、単にガサツな食生活の私が日本文化のせいにして申し訳ない。)
住宅から畳のい草臭やヒノキの香りは消え、通りのうなぎ屋はレトルトになり、スーパーには消臭グッズが並ぶ。日本は無臭化しているのだろうか。
最近はワイン業界をまねて、我々もコーヒーを様々な食品の香味で表現する。例えば、「このコーヒーはアプリコット、ローズティー、ブラックカラント、、、」など。しかし、一般の日本人からすれば、気取っていて、嫌味にさえ見える。別に、格好つけている訳ではない。そういう文化のそういう飲み物なのだ。大目に見てね。
雑誌「珈琲と文化」の2018年夏号に拙稿が掲載されたので転載します。
10年前に今の家を買った。1200本のコーヒーの木が植えてあったことから、コーヒー栽培を始めた。その4年後、目の前の空き地を買い足して2100本のコーヒーを植えた。
その空き地をコーヒー畑にするには、まずは整地をする。敷地は縦170m横75mで、上下で25mの高低差がある縦長の約8.5度の斜面。巨大ブルドーザーで樹木と雑草をなぎ倒すと、溶岩と土の混ざった土地が露出する。次にそれを土と溶岩に分ける。ブルドーザーが敷地内を行ったり来たりを一週間も続けると、あちらこちらに直径20-30cmの溶岩ばかりを積み上げた山と、土ばかりを集めた山ができる。窪んだ場所に溶岩を埋めていき、次第に凹凸のない一枚板の溶岩だらけの斜面になる。その上から、集めておいた土をかぶせると、きれいな畑のできあがり。
そこに掘削機で穴を掘ってコーヒーの苗木を植えるのだが、その直前に芝生の種を撒く。森の中のコーヒーであれば、大木が腐葉土を作るし、日差しが弱いので下草は生えない。しかし、森の外のコーヒー畑には、下草があった方がよい。
芝は土壌流出防止になる。しかし、素早く張らないと、せっかく表面に敷いた土が大雨で流される可能性がある。また、雨が降るたびに土が少しずつ下の溶岩のすき間に垂直に落ちて、下層の溶岩がむき出しになる。また、芝は土の質を向上させる。日光で表土が熱くなるとコーヒーの木の根が弱るので、芝で表土を冷たく保つ。土の保湿にも役立つ。微生物が増え、土が柔らかくなる。コーヒーの木を健康に保つには土作りが重要である。
芝の種類はハワイのゴルフ場でおなじみのバミューダ芝を選んだ。一度根付くと、背は高くならずにどんどん横に広がる。乾燥にも強く、管理が比較的に容易。しかし、根付くのに歳月がかかるので、その間に雑草に領地を占領されてしまう。それを防ぐ為に、一年性ライ芝の種を同時にまく。ライ芝はすぐに発芽する。30cmほどの高さになり地面を覆って、雑草を防ぐ。英国のゴルフ場やウィンブルドンのテニスコートは多年性ライ芝。一年性ライ芝も似たような芝だが、一年以内に枯れてしまう。その間に、バミューダ芝が地面を覆うまでの時間を稼ぐ。
それでも何種類もの雑草が生える。雑草駆除には、こまめな芝刈が肝要。3~4週間の間隔で刈る。雑草が種を作る前に刈る。逆に芝は刈れば刈るほど強く横へ伸びる。結局は雑草のみならず、芝もバミューダ以外に10種類以上の野芝が生えて領地を拡大した。乾燥が続くとバミューダが勢力を伸ばし、雨が多いと他の野芝が勢いをます。コーヒーの木が高い年は日陰に強い芝、剪定した年は日当たりに強い芝が領地を拡大する。
コーヒー栽培では、収穫費用(労賃)が最大の費用で、総費用の半部以上だが、雑草の処理も2番目ぐらいに大きい。消費者には関心が薄いかもしれないが、生産者にとっては雑草処理は重要な関心事だ。除草剤を使えば、費用を抑えられる。加えて、除草剤でコーヒーの木の周りの芝や雑草を枯らせば、肥料が直接コーヒーの根に届き、肥料代の節約にも繋がる。芝や雑草だらけだと肥料を芝や雑草が食べてしまい、コーヒーの根までなかなか届かない。しかし、私はあまり除草剤は使いたくないし、長い目で見れば、刈った芝がやがて堆肥になってコーヒーの栄養源となる。
数年前にマカデミアナッツの殻を大型トラック10台分ぐらい買った。マカデミアナッツの産地のハワイ島では、その殻は廃棄物なので廉価で買える。木の周りに敷くと雑草の抑制になるし、有機物の還元にもなる。有機物の量としては毎年畑から収奪するコーヒー豆の10年分に相当する。微生物が増えて土壌が改善する。その翌年は劇的にコーヒーの収穫量が増えた。
ところが、このマカデミアナッツと一緒に野生のニガウリの種が混じってきた。1年もしないうちに畑はニガウリで占領された。つる性で地面を這って領地を拡大するし、コーヒーの木に絡みついてくる。コーヒーの木はつる性の植物に絡まれるとストレスになる。野生のニガウリは実が小さく食用にならない。食べられない野生種には、私は何の愛着もない。そこで、今年は何カ月もかけて、このニガウリを手で抜いては、そこにクローバーの種や多年生ピーナッツの種をまいている。
クローバーやピーナッツはマメ科。空気中の窒素を土壌に供給する。コーヒーは夏場の窒素が足りないと枯れる。マメ科は強力な助っ人。しかし、ニガウリは抜いても抜いても生えてくる。雑草の競争は厳しい。クローバーやピーナッツを根付かせるには根気がいる。
人類は農耕を始めて以来、雑草と闘い続けて来た。雑草とは、畑に植えたものと違う植物が生えるから雑草。そもそも農耕をしなければ雑草という概念はない。人間は自らが作り出した概念と闘っていることになる。そんな勝手な都合に自然は味方をしてくれないので、当然、苦戦を強いられる。雑草にしてみれば、ただ一所懸命に生きているだけで、別に自分が雑な草だとは思っていないだろう。勝手な概念である証拠に、私の畑では雑草の定義は、私が好きか嫌いかだ。ニガウリも、朝顔やパッションフルーツやトマトなど世間では重宝される植物も、ここではコーヒーに絡みつく憎き雑草で、芝やクローバーやピーナッツはお友達だ。新たな畑は6年目になるが、雑草との闘いには終わりがない。
さて、コーヒー畑の話ではないが、以前、家の前の芝生を張り替えた。元々はキクユ芝が植えてあった。ある日、庭師が突然辞めた。自分で芝刈りしたところ、キクユ芝は芝目が強すぎて、芝刈り機がすぐに止まってしまう。頭にきて、除草剤で全部やっつけた。
米国では、夫の最も重要な資質は家の前の芝を綺麗に保つこと。黄色く枯れた芝では、沽券に関わる。枯れたキクユ芝を剥がして、管理の易しいセンティピード芝の種をまいた。
本来は、それが生え揃うまでの時間稼ぎに、前述の発芽の速い一年生のライ芝の種も同時にまくべきだったが省略した。これが大きな間違え。センティピード芝が生え揃う前に、Oxalisという強力な雑草があたり一面を占領した。ハート型の葉が3つありクローバーのようだが、似て非なるもの。その憎々しい赤い根からの分泌物で、周りの植物を枯らす。成長が早く、種をポンと遠く散らし、どんどん領地を拡大していく。無敵の雑草だ。
畑では使用禁止の強力な園芸用除草剤の投入を決意した。なにせ我家の名誉の問題だ。園芸店には名誉を重んじる夫らの為に、芝を殺さず他の植物を殺す芝生用除草剤の品揃えが豊富。買ってみた。しかし、全然効かない。逆に芝が枯れて、益々Oxalisが増えた。駆除不能だ。
思案の末、コーヒー畑での手法を取り入れ、発芽の早い一年性ライ芝の種をまいてみた。すぐにライ芝が優勢となった。芝生用除草剤もいくつか試し、やっとOxalisに効くのを見付けた。徐々にOxalisが減っていった。ライ芝が枯れる頃には、センティピード芝は領地を拡大していった。一年以上かけて、やっと芝が優勢となった。
遂に私は雑草に勝利した。コーヒー畑では果たせなかったが、畑で得たノウハウに加え、強力な除草剤まで投入した。強引な手法ではあったが、我が山岸家の名誉は保たれた。ご先祖様もさぞお喜びのことであろう。しかし、敵ながらOxalisは粘った。賞賛に値する。このあっぱれな雑草は何者かと調べたら、なんと日本語では「かたばみ」。こ!こっ、これは。。。思わず絶句した。
実は我家の家紋は「丸に片喰」。私の先祖は新潟県長岡の商家。戦後没落し一族は長岡を離れたので、私は東京生まれだが、それでも14代目の当主だそうだ。子供の頃、父から先祖伝来の掛け軸や風呂敷や五つ玉そろばんやらに描かれた丸に片喰の紋を見せられ、「先祖代々受け継いできたありがたい家紋である。山岸家300年の歴史が詰まっている。決して粗末にするでないぞ」と教えらた。
家紋の本によると、片喰は繁殖力が強く駆除が困難で一族繁栄のシンボル。一族繁栄を願い、片喰を家紋とする家は多いとある。
ご先祖様、申し訳ございません。不肖14代目は、あらん限りの知恵と近代科学の粋を用い、一族の象徴かたばみを根絶やしにしてしまいました。
2018年7月 14代目 山岸松太郎秀彰
今年はコーヒーの開花が変だ。うちの農園では、昨年末に少し咲き始め、2~3月に大量に咲いてコナスノーとなったが、その後もチョコチョコと咲き、いまだに咲き続けている。困ったものだ。
一方、収穫は8月頃から始まる予定で、10~12月がピークになると思う。
同じコナでも、畑により開花時期や収穫時期は異なる。今年は標高の低いサウス・コナの農園ではコーヒーの収穫が始まっており、既に3周もしたという話を聞いた。
うちの農園でも、気の早いあわて者の実が赤くなり始めている。予定よりも一カ月も早く赤くなったので、品質は良くない。もったいないけど、赤くなった実や赤くなり始めたものはすべて摘み取って破棄。今年収穫予定量の0.2%位で量は少ない。コーヒーに関しては、いわゆる「一番摘み」「初摘み」の品質はよくない。