農園便り

もうすぐコナ・コーヒーの開花

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雨も降り、つぼみも大きくなってきた。

養蜂家の友人から蜂を借りた。

ハチはつぼみをこじ開けようとする。

今年一番大きな開花の準備完了。

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2019/02/14   yamagishicoffee

雑誌「珈琲と文化」の原稿

雑誌「珈琲と文化」2019年1月号に拙稿が掲載されたので、転載します。女性ピッカーと男性ピッカの違いについてです。ご笑覧ください。

 

2018年のコナは正月からコーヒーの花が咲き、5月まで数週間おきにバラバラと開花が続いた。収穫は8月に始まり、7周した。年明けにもう1周して終了。あと一息だ。

収穫時にはひとつの枝に緑の実(未熟)と赤い実(完熟)とが混在する。その中から赤い実だけを摘む。ひとつひとつ手で摘む作業はかなりの注意を要する。3週間で農園を一周して元の木に戻る。一周に4週間以上かかると、完熟を通り過ぎて、腐敗したり、カビがはえたりする。逆に急ぎすぎると、摘み方が雑になる。緑の実が混入すると渋みがでる。また、完熟実を枝に摘み残すと、腐敗・カビの問題が起きるし、CBB(Coffee Berry Borer)という害虫の餌食になって、害虫の被害が広がる。実を地面に落とすのも害虫が広がる原因なので不可。丁寧な収穫が肝要。

うちの畑では、収穫バスケットに小さなジップロックの袋を取付け、望ましくない実はそこへ入れる。つまり、一つの木を摘む際は、バスケットの中には完熟実だけが入り、誤って摘んだ緑の未熟実や木の上で乾燥してしまった過熟実、カビの生えた実、不健康な実はジップロックへ入り、摘み終わった木には完熟実や過熟実は取り残されていなく、地面には実は落ちていない(落とした実は拾う)、というのが正しい収穫方法だ。

雨期と乾季の区別がはっきりした地域では、一斉に開花し、収穫も短期間に集中する。果実の熟度が揃うので収穫は比較的簡単。ブラジルのような例では、かなり熟度が揃うので機械収獲が可能となる。

コナの場合は収穫時期が4~5カ月に渡る。ピーク時でも完熟実の割合は3割以下なので、機械収獲は無理。注意深く手作業で完熟実のみを摘まなければならない。

 

International Trade Centreは世界全体のコーヒー収穫の担い手の7割ぐらいが女性だと推測している。持久力と忍耐力が勝負の仕事なので、コーヒー摘みは女性で、収穫以外の力仕事は男性という役割分担があるのかもしれない。

私の周りにも、コーヒー摘みが好きな女性が多い。うちの妻もコーヒー摘みが好きで、無心に摘んでいると心が落ち着くそうだ。そもそも、彼女に気持ちよくコーヒーを摘んでもらい、我が家の平和を維持するために、私はリタイア後のゴルフ三昧の生活を諦めて、コーヒー栽培をしているようなものだ。

友人にもコーヒー摘みが好きな女性がいて、よく手伝ってもらう。しかも賃金はいらないから、その分、旦那と弟をゴルフに連れて行ってくれという。だから、収穫シーズンが終わると旦那と弟をゴルフに接待する。彼らはコーヒー摘みに興味がないどころか、自宅のコーヒーは全部引っこ抜いて、これでゴルフに専念できると嘯いている。

私の経験から、概して女性の方が男性よりも収穫が上手い。女性の方が速くきれいに摘む。周りの先輩農家に尋ねても、誰もが女性のピッカーの方が上手いと同意する。

たぶんコナでコーヒー摘みが一番速い中米出身の人がいて、ピッカーの間では有名人。どうしたらそんなに速く摘めるのかを尋ねたら、コーヒーの一粒一粒をお金と思え、と答えが返ってきた。彼は収穫時期には相当稼ぐ。ところが、ある年、母国から彼のお姉さんが来た。そしたら、彼よりさらに速くて、随分と話題になった。

うちの妻も、かなり早くきれいに摘む。メキシコ人のグループを雇って、朝から一緒に摘み始めると、うちの妻が一番最初にバスケットが一杯になって、袋に詰め替える。「うあー、あのムチャチャ(お嬢さん)速い!」と言いながら、大男たちが「Vamos! Vamos!(頑張ろう)」と掛け声をかけあう。

スピードもさることながら、丁寧さに関しては、女性の方が断じて上。男性のピッカーに丁寧に摘んでくれと頼んでも、”OK, Boss”と愛想は良いが、多く摘めばそれだけ儲かるので、速くたくさん摘もうとして雑になる人が多い。

なぜ、女性の方が上手いのかは不思議だ。女性の方が単純作業を丁寧にこなすのが得意なのかもしれない。指が細いので、狙った実を正確に摘めるからかもしれない。指が太いと何個もいっぺんに摘んでしまう。なかなか納得のいく決定的な理由は思い浮かばない。

 

以前観たNHKの番組によると、赤い色を見分ける能力は女性の方が高いそうだ。人は色を赤、緑、青の3原色で認識している。そのうちの赤に関し、男性は朱色を最も鮮やかに認識する遺伝子を持った人(A)と深紅を最も鮮やかに認識する遺伝子を持った人(B)に分かれる。男性はその片方の遺伝子しかもてない。一方、女性はこの遺伝子を2つ持つ。つまり、可能な組み合わせは、AA(朱色のみ)、AB・BA(朱色と深紅の両方)、BB(深紅のみ)で、50%の女性がABかBAとなり、AとBの両方を持つ。彼女らは、朱色、深紅、緑、青の4つの色の組み合わせで色を認識している。つまり、男性よりカラフルな世界に住んでいて、特に赤に関する識別能力が高い。残りの半数の女性(AAとBBの人)は男性と同じ能力しかないが、成長する過程で、他の女性の影響を受け、後天的に色に関して敏感になるそうだ。

そういえば、赤と緑を識別できない色覚異常は圧倒的に男性に多い。色覚異常の友人に摘んでもらったことがあるが、上手く摘めなかった。また、多くの国や文化で、赤い服を着るのは女性。デパートの化粧品売り場に並ぶ口紅は、どれも似たような色だが、女性には一本一本違った色に見えるという、にわかには信じがたい噂まで存在する。

そのNHK番組では、なぜ女性がそのような能力を進化の過程で獲得したかは明らかにしなかった。よく、女性が色に敏感なのは、赤ちゃんの肌の色から健康状態を推し量るのに有利だからという説を見かけるが、本当かなあ。人類の故郷アフリカでは、人の肌は黒い。昔、ケニアの田舎のコーヒー産地の村で、地元の人々とバーでビールを飲んだ時、私だけが顔が赤くなるので、面白がられた。彼らは目つきに出るが、顔は赤くならない。

ある日コーヒー摘みをしていたら、その女性の能力についての大胆な新説を思いついた。私の説では、何百万年もの間、コーヒー摘みは女性の仕事だった。人類もコーヒーも発祥の地は東アフリカ。女性とコーヒーは一緒に進化してきたのだ。だから、こんなつらい仕事は女房に任せておけばよい。さっさと遊びに行こう。

いや、これは飛躍しすぎた。それはコーヒーではないかもしれない。しかし、太古、果物を摘むのは主に女性の仕事だったはず。彼女らは、この実は食べ頃、まだ早い、腐りかけているかを瞬時に識別しなければならない。生死に関わる問題だ。これにより、赤い果物の色の微かな違いを適切に認識する能力を獲得するに至ったというのが私の説だ。この能力をコーヒー摘みに応用すれば、摘みごろの完熟実のみを摘むことは、彼女らには造作もないに違いない。

一方、女性が完熟実を摘む能力を何百万年もかけて磨いていた間、男性はマンモスを追いかけていた。朝から集団で出かけ、手に棒を持って草原を駆け回り、獲物を捕らえ、夕方集落に戻ってくるという生活を繰り返してきた。腕っぷしは強く発達したが、赤を識別する能力は発達しなかった。コーヒー摘みが苦手なわけだ。

しかも、男性軍のご先祖様はやり過ぎた。マンモスが全滅するまで、狩りを止められなかった。いや、全滅してもやめられない。数百万年も続けてきた男の習性だ。

やがて、絶滅したマンモスの空白を、文明の利器が埋めた。マンモスの代わりに、直径4センチ強の硬いボールを考え出した。手に持つ棒は14本に増え、バッグに入れて背負えるようになった。そしてやはり4人一組の集団で、朝から夕方まで野原でボールを棒で引っ叩きながら追いかけまわすようになった。器用に池や砂地を避けながら。

だから今日も女房殿がコーヒー摘みをしているのに、私は近所の農園主の男達とマンモス狩りゴルフに出かけるのだ。もうこれは誰にも止められない。なんたって、DNAに組み込まれている。ウッホー ウホウホ ウッホッホー。

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2019/02/09   yamagishicoffee

コーヒーの木の剪定と枝木の粉砕

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コーヒー畑の半分を大胆に剪定した。

膝の高さに剪定することで樹勢が回復する。収穫量は減る分、コーヒーの質は向上する。また、木を低く保つと収穫作業も効率的に行なえる。

このエリアからの収穫は2年後なので、その間に地力を回復。これから剪定した枝木は粉砕して土壌に戻す。

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2019/02/05   yamagishicoffee

コーヒー畑のネズミ

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ピーター・ラビットの作者として有名なビアトリクス・ポター。イギリスの湖水地方の農園に住み、周囲の動物たちの物語を絵本にした。彼女の作品に「2匹の悪いネズミ」がある。トムサムとハンカマンカという夫婦のネズミが家主の留守に悪さをする物語。

我が家にもマウスがでた。マウスは体長10センチ位の小さな鼠。これが家中を走り回った。私はポターの様に鼠で物語を作るほど風流ではない。鼠捕りを仕掛けた。餌を取ると、パチンと針金が落ちて鼠が挟まれるタイプ。だが、奴の方が一枚上。餌のチーズだけを取って、全く引っかからない。

なかなか知恵深そうなので、ハンカマンカと名付け、知恵比べをすることになった。段ボールの壁をリビング中に立てて、ハンカマンカを誘導。冷蔵庫の裏に追い詰めた。冷蔵庫の周りに本や板で囲いを作った。見事な袋小路。袋の鼠とはまさにこのことだ。もう安心。昔の人の言葉は奥深い。そうやって格闘したからこそ生まれた言葉であろう。

だが、5分で脱出された。25センチはある本の壁をやすやすと飛び越えた。

今度はクローゼットの中に追い込んだ。ドアの下に隙間があるので、タオルを詰め込み密封した。後は持久戦で餓死を待つのみ。ところが2日後には脱出。元気よくリビングを走り回っていた。タオルは無残にも食いちぎられ見事な穴が開いていた。

最後にバスルームに追い込んだ。戸を閉めて、ほうきで叩きながら追いかけ回した。すると仕掛けてあった箱型の鼠捕りに自ら入った。1週間にわたるハンカマンカとの知恵比べはこうして幕を閉じた。始末の仕方が分からないので、放って置けば餓死するだろうと、箱を畑に置いた。翌日、見たら中身は空っぽ。出られない仕組みなのに、脱出するとは頭が良い。勝手な物で、知恵比べの相手がいなくなると寂しい。ところが、数日後にハンカマンカは帰ってきた。また知恵比べができると思うと、ちょっと嬉しくなった。

コーヒー畑にはラットが出る。ラットは体長30センチもある大型の鼠。コーヒーの実は食べるは、枝は折るはで厄介。マウスとは違って可愛くない。絶対駆除だ。

日本語では両方とも鼠だが、米国ではマウスとラットは明確に区別される。マウスはミッキーになれるがラットは無理。嫌われ者だ。オーランドで出会った青年は昼間はプロゴルファーを目指して練習、夜はディズニーワールドの地下でラットを退治して生計を立てていた。地上のミッキーマウスは人気者だが、地下では、日々ラットは退治される。

ラットは欧州人がハワイに持ち込んだ。19世紀には、ラット対策にマングースを持ち込んだものの、ラットは夜行性、マングースは昼行性。お互い会うことはなく大失敗。

ラットは1940年代に急速に増えた。コーヒー畑の被害が増え、ペスト病まで発生した。ラット退治が急務となった。そこで、小学生たちに捕獲させ、1匹につき2セント払う制度ができた。子供たちは、夕方パパイヤやベーコン等の餌を付けた罠をコーヒー畑に仕掛け、翌朝学校に行く前に捕りに行った。捕まえたらその尾を切り、灯油の入ったビンに保管し、週に一度、小学校で換金した。これで週に数セント稼ぐことができ、アイスクリームを1~2個買えた。今では80歳を超えた彼らは、週に30匹も捕まえ60セントも荒稼ぎしたなどと懐かしそうに武勇伝を語る。

私も籠式の鼠捕りをいくつか畑に置く。ここのラットはアメリカ人なので、餌はベーコン、チーズにピーナッツバター。これがよく食べる。ネットで人道的なラットの殺し方を調べたら溺死とある。ラットを籠ごと水に沈め、人道的な朝を迎えるのが私の日課だ。ビアトリクス・ポターのような優しい眼で鼠を観察できるようになるのはいつの事やら。

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2019/02/02   yamagishicoffee

コーヒー豆の精製

今日は今シーズンに収穫してパーチメント(堅皮付きの豆)の状態でエアコン付き倉庫に保管していた豆をまとめて全て精製した。その工程は以下の通り。

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まず、パーチメントを精製所へ持ち込む(トラック3往復)

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パーチメントを皮むき機に投入。

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パーチメントの皮が剥けて出てくる。これが生豆。

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サイズ分別機でサイズ分けする。(サイズ19・18・17・16・ピーベリーに分ける)

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比重テーブルで左側に比重の重いもの(良い豆)、右側に軽いもの(質が劣る)に分ける。

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等級ごとに袋詰めして持ち帰る(トラック2往復)。

エアコン付き倉庫で保管。

今回も、今年この精製所で精製したコーヒーの中で一番欠陥豆の率が低いとお褒めにあずかりました。

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2019/01/30   yamagishicoffee

収穫後の作業(採り残した実の除去)

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一週間かけて、まだ枝に残っているコーヒーの実を全て取り除いた。1,500ポンド(700キロ)以上になった。これは今シーズンの収穫量の1割に相当。もったいないけど翌シーズンに害虫が繰り越さないための大切な害虫対策。

今シーズンは、私が尊敬する近所の友人F氏が収穫を手伝ってくれた。彼は今回取り除いた緑の実を50キロくらい持って帰った。なんでも、リキュールに漬けて、実の中のエキス(カフェインやポリフェノールなど)を抽出するらしい。毎朝、うちのノニ畑で作ったノニジュースとそのコーヒー・エキスを飲むのが彼の健康法。それがあの驚くべき元気と体力の源で、おかげで彼には昼間でも金星はおろか土星まで見えるらしい。

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2019/01/19   yamagishicoffee

今シーズンの収穫終了

今シーズンの収穫が終わった。8月から8ラウンドかけて、16,200ポンド(7,300キロ)を摘んだ。大胆に剪定して枝の数を減らしたので、生産量は昨年の半分。

シーズン終了宣言の1分後からは翌シーズンがスタート。まだ、1,000ポンド以上は木に生っているが、緑のまま摘み取って廃棄する作業を開始。

最終ラウンドは2日間の収穫の前に5日間かけて虫食いの豆を摘み取った。これ以上、収穫を続けても害虫が増えるだけ。畑からすべての実(害虫の家)を取り除き、新シーズンに向けて、畑から害虫を一掃する。

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2019/01/14   yamagishicoffee

シーズン最初の開花

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少しだが、翌シーズン最初のコナコーヒーの花が咲いた。ハチの羽音が凄い。

明後日からは今シーズン最後の収穫。8月から始まった収穫も今回で8ラウンド目。

シーズン最後の収穫と翌シーズンの最初の開花が、偶然にもほぼ重なった。

最後の収穫前の準備として虫食い豆を除去する作業は5日かけて畑を一周して、一段落。

あさっての収穫に備えて明日は休憩。餅でも食おう。ピーナッツバターで食べるのがハワイ流。

 

 

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2019/01/09   yamagishicoffee

害虫襲来 ヤメテ―

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コナではエルニーニョの年は夏は雨が多く、冬は雨が少ないと言われる。確かに10月までこれでもかというくらい雨が降ったが、11月以降は、ほとんど降らなくなった。ハワイ大学はコナコーヒー農家に干ばつへの注意を促している。

ところが、1週間ほど前に久々にまとまった雨が降った。

雨が降るとCBB(Coffee Berry Borer)という害虫の活動が活発化する。乾燥中は実の中で待機していたのが、雨後、一斉に出てきて他の実に襲いかかった。

虫食い率が跳ね上がった。ヤメテ―っという感じ。隣の畑からもドンドン飛んでくる。

今週後半に今シーズン最後の収穫をするが、その前に、虫食い豆の除去。

半日でこんなに除去した。一日でこの倍。収穫開始まで、虫食い豆除去作業続く。

コナで一番虫食い率が低い畑の意地だ。

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2019/01/06   yamagishicoffee

コーヒー畑とニワトリ

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ビアトリクス・ポターの物語「あひるのジマイマのお話」。ジマイマは卵を産んでも飼い主に取られてしまう。義姉のレベッカからは「私は卵を抱える忍耐力はないね。あんたもないよ」と言われながらも、自分で卵を孵したいと願うあひるのジマイマ。

ピーターラビットが代表作のポター。英国の湖水地方の農場に住み、周りの動物たちの絵本の物語をいくつも残している。ハワイ島コナも湖水地方なみに田舎。うちの畑にもさまざまな動物がいる。鶏、七面鳥、フクロウ、野豚、ネズミ、マングースなど。近所で犬を飼っていないのはうちだけなので、動物が集まるのだろう。東京育ちの私にとっては、そういった動物に囲まれた農園生活は発見が多い。

うちの畑の鶏には2つのグループがある。一つは野生の家族。もう一つは道を挟んで隣の家が放し飼いしている鶏のグループ。

野生の鶏家族はすばしっこい。すぐに逃げる。痩せて足が速く、20m以内に近づくのは不可能。ロッキーでも捕まえられない。唯一近づけるのは雌がコーヒーの木の下でひとりで卵を抱えている場合。3週間も、ほとんど食べずに卵の上にじっと座り続ける。雨が降っても座っている。そばを通ると、こっちを見ながら警戒するが逃げたりはしない。

やがて、卵が孵る。12~3羽はいる。すぐに巣を離れ、ヒヨコを引き連れながら畑の中を行進する。しかし、畑にはマングースがいるし、空には鷹。毎週、行進するヒヨコの数が減っていき、大人になるのは1羽か2羽。野生の鶏の生活は楽ではない。

一方、お隣さんの鶏はたっぷりと餌を貰っているらしく、丸々と太っている。太りすぎで走れない。昼間はうちの畑に入ってきて、コーヒーの木の根元を掘り返して虫を食べる。コーヒーを摘んでいると、よちよちと足元に集まってくる。餌を与えるわけでもないのに、人を見ると、食べ物を貰えると思うらしい。

一日中纏わりつかれる。気にはならないが、がっかりすることが一つ。夕方、暗くなり始める前、もうひと頑張りとコーヒーを摘んでいると、「お疲れ様」とか「お先に」とかの挨拶もなく、「コココー」とか言いながら道を渡って隣の家に帰っていく。世代間の違いだろうか、一緒に残業して頑張ろうとかいう気持ちはないらしい。

ある日、コーヒーを摘んでいると、足元で、2羽が立て続けに「ココココココッ、コケー!ココココココッ、コケー!」とけたたましく鳴いた。よく見ると、コーヒーの木の下に2か所、卵が10数個ずつある。知らなかったが、この定番の鳴き声は雌鶏が卵を産んだ時の叫び声で万国共通だそうだ。

お隣の飼い主には内緒で、こんなところで姉妹で仲良く産んで、あひるのジマイマみたいに自分で卵を孵したいのか。それは、お疲れ様と思い、バナナの皮をやると、すぐに巣から立ち上がり食べにくる。卵を抱えた野生の雌鶏とは大違い。

よく見ると、頻繁に出歩く。ジマイマと同じで忍耐力がない。そんなに出歩いて卵は大丈夫かと心配していると、夕方、私がまだ摘んでいるのに、「コココー」と言いながら隣の家に帰って行った。おいおい、卵があっても帰るのか?夜はほったらかしかよ。

やっぱり卵は孵らなかった。知らなかったが、野生と違って、家禽は外で卵を孵せないんだ。安全快適で食糧豊富な家があるから、わざわざ外で敵に怯えながら3週間も飲まず食わずで卵を抱えたりしないんだ。「あひるのジマイマ」は当時の子供の読者もそれを知っていることを前提に書かれた物語なのかも。’Jemima Puddle-duck said that it was because of her nerves; but she had always been a bad sitter. ’(ジマイマは神経質になっていたからというけれど、実は卵を抱えるのが下手なんです)

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2019/01/03   yamagishicoffee