農園便り

2016年07月6日

SCAA/CQI認定Qグレーダー試験(その1)

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6月の最終週に一週間ほどホノルルへ行き、Coffee Quality Instituteが主催する3日間の研修と、それに続く3日間に渡る22の試験を受けた。何とか合格して、妻と揃ってLicensed Q Graderの資格を取った。

コーヒーのカッピング(官能評価)の技術を図るものである。これに合格するとSCAA(Specialty Coffee Association of America)の評価基準・手順に従って、コーヒーを評価して点数をつける資格を持つ。

 とても集中力を要するストレスフルな試験で、苦しい体験だった。一つつまづくと、そのストレスに耐えられず、雪だるま式に転げ落ちていく感じがした。リタイアして10年、あれほど苦しい体験はない。嗅覚と味覚で感知してそれを言語で表現するなんて、これまでの人生でそんな脳の使い方をしたことがない。大学受験、銀行員、ウォールストリートバンカーという脳の使い方をしてきたのだ。どの試験も他の受験者がさっさと回答して合格していくのに、私だけは制限時間いっぱいまでコーヒーの前で首をかしげながら粘り続け、見るも哀れな形だった。試験の最後には、混乱と疲労で、舌と鼻と脳が完全にシャットダウンして何もわからなくなってしまった。

ただ、コーヒーに関する知識を問う4択の筆記試験だけは、クラスでぶっちぎりダントツで合格した。そういう脳の使い方は得意なのだ。あの試験は良い気晴らしになり、脳が休まった。あれがなければ、その次の私が最も不得手とする非水洗式(ナチュラル)のカッピングとトライアンギュレーションは合格できなかっただろう。

 今回の受講者は7人。少人数で雰囲気の良いチームだった。それに加えて、前の週のサンフランシスコで行われた試験に不合格の人が追試を受けに来た。

この試験がハワイ州で行われるのは今回が初めてなので、ハワイ州でこの資格を持っているのはごく少数だ。今回、コナからは私共2人の他にも2名が参加した。難関にもかかわらず全員合格した。生産地として誇らしい結果だ。

オーストラリヤやニュージーランドからも参加者があった。それらの国では、ウェイティングリストがあり、受験までに1年以上も待たなければならないらしく、今回、ハワイでの開催を機に、休暇を兼ねて飛んできたそうだ。

日本での試験は大人数だと聞く。もし、英語に問題のない人であれば、少人数のハワイで受験したほうが断然有利だ。

教官のJodi Wieserさんもとても親切で、我々がリラックスできるよう工夫してくれた。チーム内の協力的な雰囲気づくりもしてくれた。解答用紙を提出したときに、合格だと明るく”All right!”言いながら解答用紙に大きくPass!と書いてくれる。ところが、不合格だと、puppy eyes(子犬のような無垢な目)で悲しそうに見つめられる。あの優しい無垢なpuppy eyesを皆が恐れた。

 世界中のコーヒー畑で働いている人は3000万人と推定され、コーヒー店やレストランなどコーヒーに関連した仕事に従事している人数は1億人にも上ると推定されている。世界人口が72億人なので、72人に1人はコーヒーから収入を得ていることになる。

その1億人の中でLicensed Q Graderの資格を持つ者は約3500人ぐらい。毎日、様々な種類のコーヒーを評価することによって培われた専門技能を要求されるプロの鑑定士である。

一方、私どもといえば、毎朝コーヒーは飲むものの、飲むのは自分の畑のコーヒーだけ。日本に旅行で行ったときなど以外に他の国のコーヒーなどほとんど口にすることはない。はっきり言って、カッピングのど素人だ。

唯一のアドバンテージは、ほとんどの人がめったに口にすることのない最高級品のコーヒーを毎日飲み続けていること。しかも、ティピカ種、手摘み、水洗式、天日干しで、コーヒーの本家本元の香味だ。良いコーヒーはどうあるべきかについては、自分なりのハッキリとした基準を持っている。たとえコーヒー業界の人でも、毎日90点前後のコーヒーを飲み続けることはないであろう。私の唯一のアドバンテージだ。

 私が他人のコーヒーを飲む場合は、常に自分のコーヒーと比べてどうかという観点から飲む。もちろん、山岸コーヒーと比較しながらコーヒーを飲むのは世界で私と妻だけで、当然ながら他人はそういう見方をしない。一方、Q GraderたちはSCAAの基準に従って評価するので、同じコーヒーには、ほとんど同じような点数を付けるという。なので、私が自分のコーヒーを熱く語ったところで、見方が違うので話がすれ違う可能性がある。私にとってはこのコースと試験を受けることはとても意義のある体験であった。

 そもそも、ど素人の私がQ Graderの試験を受けるなんて、高尾山も登ったこともない私がいきなりエベレストに挑戦するようなものである。無謀の限りだ。しかし、こうなったのには理由がある。実はホノルルのとあるレストランが毎月末に主催するゴルフトーナメントに出場しようと思ったが、ただゴルフをするためだけにホノルルへ飛行機で行くのは無駄だ。よって、その月例会に参加する際には、必ず他の用事を合わせる。今回はホノルルでコーヒーのセミナーが開かれるというのを見つけ、申し込みをした。その時点ではQ Graderなどという単語も知らないので、それが資格試験だということは全く気が付かなかった。ただの勉強会かと思っていた。ホノルルで一週間、毎日買い物をして美味しいものを食べながらコーヒーの勉強ができると呑気に考えていた。まさか、あんなに苦しい地獄のトレーニングになるとは。

試験の3週間くらい前になって、とても難しい資格試験だと知らされた。募集要項を読み直すと、確かに、かなりの実務経験を要し、素人には無理と書いてある。慌てて資料を取り寄せ、2週間ほど付け焼刃のトレーニングを始めた。

体験者のブログのアドバイスに従い、期間中はアルコールや極端に脂っこいもの、甘いもの、しょっぱいもの、辛い物を口にしないようにした。

セッションと次のセッションの間に歯磨きをしたが、実はこれは大失敗で、他の参加者の中には、この期間中だけ刺激の少ない歯磨き粉に変えている人もいた。ましてや、試験の間にフレーバーの付いた歯磨きをするのは自殺行為のようだ。

とにかく、最終日のお昼前にすべての試験に合格して資格が取れた時には、何もできないくらい疲れ果てていた。スターウォーズのジャージャービンのように、舌がベロベロベロベーとなってしまった。帰りの飛行場で待ち時間にビールで乾杯したが、あれほど好きなビールも体がまるで受け付けない。とにかくつらかった。


試験内容は以下の通り。

General Coffee Knowledge筆記試験

Sensory Skills Tests 味覚試験     

Olfactory Tests 嗅覚試験

Triangulation Tests 3つの中から一つだけ異なるコーヒーを選ぶ試験

(中南米、アジア、アフリカ、非水洗式の4セッション)

Organic Acid Matching Pairs Test 有機酸の識別試験

Roasted Sample Identification 異なる焙煎度合いに関する試験

Green Coffee Grading 生豆の欠陥豆を識別する試験

Cupping Tests カッピングの実習試験(中南米、アジア、アフリカ、非水洗式の4セッション)

 

カッピングの実習試験と筆記試験以外は、不合格でも最終日までに2回まで追試を受けることができる。最終日の午後は追試に充てられる。

 

次回からはその試験の傾向と対策をお伝えする。

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2016/07/06   yamagishicoffee