ハワイ最強のパワースポット(モオキニ・ヘイアウ)(その1)
ハワイ島北端にあるモオキニ・ヘイアウ(神殿)へ行った。ハワイを統一したカメカメハ大王生誕の地だ。生まれながらにして殺される運命にあったカメハメハ大王を神官のモオキニ一族がかくまって育てた場所だ。
ハワイにはパワースポットなる場所がいくつもある。私はパワースポットの意味をよくは知らないが、特別な力を感じる場所という意味であろう。ハワイ島は地球に13ある気候のうちの11が存在している。また、今でも溶岩が流れ出る島で、地球の荒々しいエネルギーを感じる。だから、パワースポットが多いのだろう。
ところが、英語でPower spotとGoogleしても、何も出てこない。せいぜい、「日本でのスピリチュアルな熱狂」ぐらいの説明しか見当たらない。どうやら日本独自の概念のようだ。
私は寡聞にしてパワースポットという単語の日本の地質学における定義、宗教の商業戦略上の価値、あるいは観光業のマーケティング上の意味合いを知らないが、ともかく、ハワイに数多くあるパワースポットは観光の目玉である。通常の観光スポットを山、海、岩、樹木などに神が宿ると考える日本人が勝手にパワースポットと呼んでいる側面もあるが、それにしても、これで金儲けをしようと企む観光業者の並々ならぬパワーを感じるスポットである。ところが、モオキニ・ヘイアウは全く違う。
私を含め多くの人々にとってハワイと言えば、観光の地、リタイアの地、そして軍事の地である。よって、ハワイ中のどこに行っても観光施設や開発プロジェクトを見る。そういう産業に携わる人々を見かける。観光客が来れば至れり尽くせりで歓迎し喜んでいただくことが州を挙げての原則。島民ひとりひとりがアロハ精神で親善大使を務める。ハワイ古来のアロハ・スピリッツはその資本主義的原則によく馴染む。
日本人にとってハワイとは昔はアップダウンクイズで10問正解しないと行けない憧れの地だったが、今ではより身近な存在となっている。ハワイ州の人口は140万人弱。州内の先住ハワイ人とポリネシア系の人々を合わせて、たったの8万人。そのうちフラダンスを踊れるのはごく一握りだ。一方、日本でのフラダンス人口は20万人とも50万人とも100万人ともいわれている。日本人はみんなハワイが好きだ。ハワイはそれほどまで憧れの常夏の楽園のイメージの確立に成功している。ハワイ古来のフラダンスは観光立国に一役も二役もかっている。それが、西欧文明が入り込んで以来のハワイ、アメリカ人が演出するハワイだ。
ところが、このモオキニ・ヘイアウ(神殿)は、まったく、そういう臭いがしない。
いまでも、モオキニ一族が神官として管理していて、まったく観光化されていない。これまで、観光業者がバスの乗り入れを再三申し入れてきたが、断ってきたそうだ。「カメハメハ大王生誕の地」など、観光客が殺到しそうな場所なのに昔のままの姿を残している。
石を積み上げた神殿である。周りには何もない。とても風の強い場所だ。そこから眺めた海の景色が絶景だ。この海を眺めていると、これは昔カメハメハ大王が眺めた景色と同じなんだなあ。大王もこの風を感じていたんだなあ。彼はこの風景を眺めて何を思っていたのだろう。この場所はどのようにしてハワイを統一するような彼の人格を形成したのだろう。という考えが浮かんできた。不思議な空気に包まれている気がした。観光化されていない殺風景な場所に底知れぬパワーを感じた。観光業界がこれをパワースポットと認定しているかは知らないが、観光バスが乗り入れるようになれば、ハワイ最強のパワースポットの称号を得るだろう。これをパワースポットと呼ばずして、何をパワースポットというのだろう。
モオキニ・ヘイアウを観光化・世俗化から守ってきたのが、モオキニ一族の代表のレイモミ・モオキニ・ラムさん(レイは花、モミは真珠の意)。カメハメハ一族が消滅しても、大王を保護したこの一族はいまだにこの地を守っている。彼女は長い一族の歴史のなかでも初の女性のカフナ(神官)。しかし、彼女もすでに90歳を超え、孫娘にその地位を渡そうと準備している。後継者にとっての最大の問題はこの地を維持するコスト。世俗化を防ぎながらもこの地を維持するだけの収入源を見つけることが課題だそうだ。(続く)