イカのモニュメント
この数か月間、コーヒーが美味しいのはピッカーの手柄で、ピッカーを大切にしないと美味しいコーヒーが飲めなくなるという趣旨の話を書いた。これに対し、コーヒー業界の人はどうすべきかとの質問を受けた。コーヒーは途上国の開発問題や山岳地帯の少数民族問題が絡んだ難しい問題。ピッカーが丁寧に摘んだコーヒーの味を理解して、多少値段が高かろうが、そういうコーヒーを飲んでくださいとしかお答えできない。
この30年間、世界中が経済成長する中、日本だけは全く成長しなかった。中国人の爆買いはありがたいが、置いてきぼりにされた寂しい感じがする。コーヒー生産国もこのまま経済成長が続けば、コーヒーを手摘みしてくれないかもしれない。弱者への思いやりは日本人の美徳だが、今の日本はもう少し自分の心配もした方が良い。
今回のコロナ禍、日本は感染者は少ないのに敗北感を感じる。方向感なく予算をばら撒き、第3次補正予算で、税収は55.1兆円に対し、歳出は175.7兆円。大盤振る舞いに役所とそのお友達企業は大喜びだが、これだけジャブジャブでも経済成長しないのはジャブジャブが足りないからではない。「白い巨塔」の財前教授が「抗生物質で叩け」と繰り返すのと同じで、根本的に処方が間違っている。かくも、これから生まれる日本人に損を付け回せば、将来世代の国家が成り立たない。そもそも、役人には成長分野の発掘は無理。それどころか、コロナ対応の緊急経済対策の交付金でイカのモニュメントを作るらしい(写真)。将来の納税者はこんなことまで負担するはめに。
一方、ホノルルではコロナ禍でレストランの約2割が廃業、春までに5割が廃業するとの予想もある。政府の支援など期待せず、ダメだと思ったら泥沼にはまる前にさっさと撤退する自己責任の精神が米国経済の活力の源だ。無茶苦茶きついけど。
最初からコロナの最重要課題はワクチン製造と誰もが理解していた。他の主要国は短期間で開発に成功したのに、日本だけができない。色々と理由はあろうが、素人なりに思うに、日本の終身雇用制も原因の一端だろう。ワクチン開発に成功した欧米の研究チームは、何億人もの命を救う代償に、一生働かなくても良い報酬を得るだろう。そういう報酬体系なら人材は集まるし、死ぬ気で成果をあげるさ。健全な市場原理で、経済成長の原動力だ。そういうハングリーさが日本の正社員制度には決定的に欠けている。社内の調和、同僚や上司への気配りや忖度に神経をすり減らす。私はNYの企業へ転職して痛感した。世界中から人材が流入する中で生き残ろうとする個々の社員のハングリーさが、利幅の厚い新商品開発、つまり経済成長を生む。今回結局、日本をコロナから救うのは米国のワクチン。ワクチン販売で米国は経済成長し、日本は赤字国債で金を払い、将来世代のお世話になる。
かつて、日本製品は米国市場を席捲した。今では小売店に日本製のテレビもパソコンも見あたらない。日本製といえば自動車ぐらい。それさえ、電気自動車の台頭で、日本の系列下請けの製造体制は崖っぷち。いまや世界経済の最大のリスクは日本だ。
日本のコーヒーショップが、全く経済成長しない世界でも珍しい国で生き残ってこられたのは、様々なご苦労で客の心を掴んだからだろう。もし国民経済が破綻すれば、益々、店の魅力に磨きをかけねばなるまい。その筆頭はコーヒーが美味しいこと。何が美味しいかは個々の店の腕の見せ所で、それぞれ一家言お持ちだろうが、私ならピッカーがきれいに手で摘んだコーヒーが美味しいと思う。消費者の心に響くし、良い仕事をする生産者の救いにもなると思う。そう願う。これが冒頭の質問への私なりの答えだ。シートベルトをお締めください。そして、生き残って良質の豆を買い続けてください。
イカのイカがわしいニュースにイカって、年初から随分と明るい話題になってしまった。よいお年を。