フレーバー石鹸を食べてみた
日本人が使う英単語で英米とは意味が違うものがある。例えば、ヒップ。日本でヒップとはお尻を指すが、英語のHipは腰(骨盤の横)、あるいは股関節を指す。日本語 でヒップアップとは運動等で骨盤の前傾姿勢を保つ筋肉を鍛えて上向きの美尻を作ることを指すが、英語ではそうは言わない。2月の農園便りで記した通り、そもそも黒人・白人は日本人に比べて骨盤が前傾しているので、お尻は自然体でも上を向いている。
ナイーブも違う。日本で「彼はナイーブだ」というと、「繊細だ」という意味で肯定的に使われることがあるが、英語のNaïveはネガティブな意味。”You are Naïve”などとうっかり言ったら、「世間知らず」、「経験が足りない」という悪口になる。以前、友人が私のコーヒーを「とってもナイーブ」と表現した。純真、素朴、あるいはデリケートな味ぐらいの意味で使ったのだろうが、英語だと経験不足・実力不足のコーヒーとなってしまう。面と向かってそんなことを言われても困る。
コナコーヒーの等級は上から、Extra Fancy, Fancy, No.1, Select, Primeと続く。この中のFancyという単語も要注意。日本語でファンシーは空想的なさま、少女趣味的なさまを表す。確かに、英語でも空想的な意味合いがあるが、より一般的には高級な、豪華な,お洒落なという意味。我々コナコーヒー農家はExtra FancyやFancyを決して「これヤバ、まじでカワイくない?」という意味では使っていない。「高級」という意味である。たとえハローキティの絵のついたExtra Fancy Coffeeがあったとしても(本当にあるかどうかは知らないが)、「キティーちゃんぽくってかわいいコーヒー」という意味ではない。
先日、コーヒーに関する日本のテレビ番組で、「Flavor(香り)」と誤訳しているのを見かけた。これもよくある誤解。英語のFlavorは香りではなく味。口に入れた感覚だ。確かに、古英語では香りを意味したこともあるので英和辞典に香りという訳が載ってはいるが、現代では口に入れた際の感覚を指す。ただし、Taste(味)とは違う。Tasteは甘味 · 酸味 · 塩味 · 苦味 · うま味などの味を意味する。一方、FlavorはTaste(味)に、Aroma(香り)やMouthfeel(口当たり)を統合した感覚を表す。日本語の風味に近い。
日本でフレーバー・ソープなるものを見つけた。香り付き石鹸と言いたいのだろうが、これでは味付き石鹸だ。お土産に配ったら「日本人は石鹸を食べるのか?」と、とてもうけた。そこで、一応念のため食べてみた。封を開けるとイチゴミルクの良い香り。期待は高まる。口に入れたら、なんと本当にイチゴの味がした。最近は日本では石鹸を食べるのかと感心して、調子に乗ってどんどん食べたら、気分が悪くなった。これには泡を食った。ブクブクブクー。やっぱり、石鹸を食べてはいけない。
コーヒーの世界では香りはFragrance/Aroma。Specialty Coffee Associationのカッピングの評価項目は10項目。最初の3項目は、1)Fragrance/Aroma(香り)、 2)Flavor(風味)、3)Aftertaste(後味)。Fragranceがお湯を入れる前の挽いた粉の香り、Aromaはお湯を入れた後の香り。Dry FragranceとWet Aromaともいう。Flavorは味と香りと口当たりを統合したもの。そして、Aftertasteは、コーヒーを飲み込んで、香りや口当たりが消えていった後に残る味、余韻を意味する。
最後に、Yamagishi Coffeeといえば、日本では「山岸が作っているコーヒー」ぐらいの意味だが、ハワイでは「コナで最も品質の良いコーヒー」という意味で使われる。高品質のコーヒーを、This coffee is almost like Yamagishi Coffeeと表現するが、「あの山岸コーヒーに並ぶくらい素晴らしいコーヒー」という最大限の賛辞である。(真っ赤なウソです。そんな賛辞はわが家でしか通じません。)