農園便り

2016年3月9日

珈琲と文化の原稿 害虫対策について

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季刊誌の「珈琲と文化」が創刊100号を記録しました。25年の長きに渡っての珈琲業界に情報を提供していただいています。今般、100号を記念して別冊号が発行され、そこに「ハワイ島コナ害虫対応奮闘記」というエッセイを寄稿しました。
以下に転載します。

ハワイ島コナ害虫対応奮闘記

山岸コーヒー農園

山岸秀彰

http://yamagishicoffee.com


第1章 CBBとは

 2010年にCBB(Coffee Berry Borer)という害虫がハワイ島に上陸した。近年ハワイコナコーヒーが品薄になったのはこれが原因だ。中南米のスペイン語圏ではブロカとも呼ばれ、コーヒーには最大の害虫。世界中のコーヒー産地に生息して、ハワイにはいなかったが、ついに上陸した。上陸の原因は不明。旅行者の服などに付着して来たか、ブレンド用に輸入している他国産の生豆に含まれていたなどの原因が考えられる。

CBBは体長1ミリ以下。コーヒーの果実に50-100個の卵を産む。種子の中で成虫し、早くて5週間で世代交代する。オスとメスの割合は1対4。メスは飛ぶがオスは飛べない。飛べないどころか、オスは一生を生まれた実から出ずに暮らす。なにせ家にはメスが4倍。大もてだ。外出する気にならない。卵を抱えたメスは雨が降ると実から出て近くの新たな実に入り込み産卵する。仮に5週間で50倍に増えるとすると、10週間で2,500倍、6ヶ月間で3億倍の計算になる。対策なしでは畑は全滅する。虫食いの実が地面に落ちると、地上の乾いた実の中でも6ヶ月以上も生き延びて翌年の畑を襲う。

よく日本人の産地視察レポートで、「この農園ではトラップ(罠)でCBBを退治している」などの記述を見かける。これはトラップ内のエタノールとメタノールの匂いに誘われて入ったCBBが石鹸水で溺れる仕組みだが、畑のどこにCBBが多いかを調べる道具で、これでCBBは減らない。これにかかるCBBは全体の数%。そんなアルコール臭よりも本物のコーヒーの実が好きらしい。この人は、農園主に体よくあしらわれて視察を終えたことになる。農園の倉庫を覗けば、ずらっと殺虫剤が並んでいるかもしれない。

 CBBを捕食する天敵でCBBの蔓延を防いでいる、あるいは、ニンニク、唐辛子、ハーブなどを使用するなどの説明も同様で、劇的な効果はない。虫を追い払うよりも、そういう説明で煙に巻いて視察に来た人を追い払う程度の効果しかない。

 

第2章 他の産地でのCBB対応策

 世界の産地でCBBの対応策の第一は、なんと言っても殺虫剤の使用である。大多数のコーヒー農園で殺虫剤が使用されていると推定される。

 畑の中のCBBの8割は実の中にいる。通常の接触型殺虫剤では実の外の2割にしか効かない。よって、コーヒーの実に染み込み、中のCBBを殺す農薬が開発されている。

コーヒーの栽培・精製方法は気候・風土によって異なるように、CBBも対策が異なる。中米やブラジルのように乾期・雨季が明確で、収穫が短期間に集中する地域は、果実の熟度が揃うので、成熟のピークに合わせ、わずか数回の殺虫剤散布で対応が可能である。

しかし、コロンビアのように年間をとおして常に実が生り、年に2度も収穫ピークがある産地では、一年中殺虫剤を散布し続ける必要がある。そこで、コロンビアを中心に、殺虫剤を削減、あるいは使用せずに対応する試みも研究、実践されている。IPM(Integrated Pest Management)である。

 その骨子は以下のとおり。

1.頻繁にサンプリングにより畑の中の被害率・被害状況を把握する。

2.適切なタイミングで農薬を使用することにより、使用頻度を減らす。

3.殺虫剤の代わりにBeauveria Bassianaという白カビ(後述)の導入。
4.区画ごとに剪定を行う。その区画は1年間、実がないのでCBBも根絶できる。

5.ウェットミルの発酵槽にふたをするなど、ミルから畑への還流を防ぐ。

6.収穫時に完熟・過熟実を摘み残さない、また、地面に落とさない。

7.収穫シーズンの終わりに、すべての完熟実・過熟実を取り除く(ストリッピング)。

 このうち6と7が重要。虫食い実が地面に落ちると翌年に被害が繰り越される。完熟実・過熟実を摘み損ねると、乾燥して地面に落ちる。CBBの棲家をすべて畑から取り去ることが肝要。

 

第3章 コナでのCBB対応策

 コナの収穫期間の長さは、中米とコロンビアの間である。標高の低い地域では収穫時期は3ヶ月ぐらいであるが、標準的な標高では4ヶ月以上に渡る。また、標高の高い地域では1年中収穫が続く。

 6年前のCBB発生以来、州政府や農業団体が中心となって、コロンビア型のCBB対策をハワイ風にアレンジした啓蒙活動が盛んに行われている。その骨子は以下の通り。

1.コロンビア人の専門家を招聘しIPMの導入。セミナー・ワークショップの開催。

2.農薬の規制の厳しいアメリカでは他国で使用される殺虫剤が使用できない。殺虫剤の代わりにBeauveria Bassianaを導入した。これは白カビの一種。農家はカビ胞子の濃縮液を購入し、希釈して畑に散布する。実や葉に胞子が付着し、CBBが産卵の為に実から出てきて歩き回ると胞子がCBBの体に付着して1週間程で体内にカビが生えて虫が死ぬ。一種の生物農薬で、殺虫剤と違って、散布後1~2週間は胞子が生き続けて効果が持続する。また、CBBが耐性を獲得しないので、効かなくなることがない。そして、昆虫類以外の生物へは無害である。   

3.Beauveria Bassianaの問題点は、費用が高いこと。しかし、連邦政府などから補助金を取得し、農家がこれを割安で買える制度を作った。

4.Square Neck Beetleという天敵の普及活動。ハワイには固有種の動植物が多いので、勝手に外から天敵となる昆虫を持ち込むのは御法度。偶然にもハワイに既に生息するSquare Neck Beetleが虫食い穴から進入してCBBとその幼虫を食べることが発見された。各農家はそれを育て、定期的に畑に放している。

5.ハワイ島から他島への拡散を防ぐために、他島への生豆の移動を禁止。2015年にオアフ島の農園には拡散したが、カウアイ島とマウイ島ではCBBは確認されていない。生豆を日本へ空輸する場合にはオアフ島のホノルル空港を経由するので、麻袋は二重にビニール袋の中に梱包する義務が課された。

 

第4章 コナの問題点

 これらの努力にもかかわらず、コナのCBB被害は甚大で、他の産地以上にこれを制圧することが困難。それにはいくつかの要因が考えられる。

1.最大の要因は農薬の規制。アメリカはコーヒー産出国の中で、最も厳しい農薬の使用規制がある。よって、コナでは他の産地で使用されている農薬は使えない。

2.専業農家の欠如。19世紀末に日本人移民が発展させたコナコーヒーも、今では日系4世・5世。彼らは他に仕事を持ち、週末だけの農業。また、70年代に米本土から渡り、担い手となったヒッピーたちも今は高齢。この新たな害虫と闘う気力のある農家は少ない。コーヒーを諦める農家が続出し、放棄された農園はCBBの楽園と化す。隣の畑がそうなるとCBBがどんどん飛んでくる。ますます諦める農家が増える。

3.統一的な統制の困難さ。コナには600軒以上のコーヒー農家があるといわれる。うち、何軒が既にコーヒー栽培を諦めたかは不明。放棄された畑はCBBが野放しとなり、真剣に取り組む農家には迷惑だが、個人の権利の強いアメリカでは、放棄する側にも放棄する権利はある。それをがんばり続ける側や市政府がとやかく介入することは法的に不可能だ。よって、町全体が協力して対応することは困難である。

4.労働者確保の問題。コーヒーの農作業は重労働だ。アメリカ人は失業してもウォール街を占拠して抗議するのには熱中するが、農作業は誰もやりたがらない。よって、中米などからの移民に頼るが、近年の移民規制強化で、その数が絶対的に不足している。しかも、近年の不動産開発ブームで労働者が建設現場に奪われ、益々人材不足。力関係で労働者の方が農園主より強く、めんどうな作業が求められるIPMの強要は困難。実を地面に落とすななどと要求すると、うるさいこと言わない隣の農園へ労働者が流れる。

5.収穫時に地面に実を落とさないことが翌年の被害を抑える要であるが、コナでは、これが他の産地よりも難しい。第一に地面は溶岩だらけ。実を落とすと溶岩の隙間に入って拾えない。さらに、コナの品種はティピカ。最高級品種だが背が高い。コナはコーヒーに最適の気候なので、ティピカが他の産地よりも驚くべき速さで成長する。収穫はフックで高い幹を手繰り寄せて、たわませて実を摘む。その際にどうしても実が地面に落ちる。品種改良された矮小種を育てる他国にはない悩みである。

6.コナのCBBは他の産地のCBBよりも繁殖力が強い印象を私は持つ。ここ数年、他国の専門家と話したり、他の産地に視察に行った経験から、他国での対策をそのままコナで行っても、コナのCBBには到底太刀打ちできないと感じる。コナは、他国では栽培が困難な原種に近いティピカでさえ驚異的なスピードで生育する最高の気候・テロワールを持っている。その気候は太古からコーヒーとともに進化してきたCBBにとっても最高の気候と感じられる。その繁殖力は尋常ではない。

 

第5章 山岸農園での取り組み

さて、こうした逆境のなか、山岸コーヒー農園では様々な試行錯誤を重ねながら以下に述べるような対応を行ってきた。その甲斐あって、山岸コーヒー農園はCBBの被害率は被害が始まった最初の年を除き、5年連続で1%以下に抑えることに成功した。コナコーヒー農家600軒の中で、被害率はダントツに低い水準である。

1.精鋭部隊の結成

 農園主が収穫作業やその他農作業を行う農園は少ないが、山岸農園では我々夫婦が中心になって行う。5エーカー(7,000坪)と小規模であるが、2人では手が回らないので、一組のメキシコ人夫婦を年間を通して雇っている。パートナーとして利益を配分する約束なので、彼らがまじめに働いて害虫の被害を最小限に抑えれば、彼らの収入も増える。固定給や時給で雇うのとは、品質に対する責任感が違ってくる。

2.きれいな収穫の励行

 まず、収穫の際には地面に実を落としてはいけない。落としたら拾う。さらに、収穫用のバスケットにジップロックの袋を付ける。摘み取った赤く完熟した健康な実はバスケットへ入れる。虫食いの実や、過熟実、過熟して黒く乾燥した実はジップロックへ入れて捨てる。過熟実や乾燥した実には、緑や赤の実よりも多くのCBBが集中している場合が多いのでこれらを確実に畑から取り去ることが重要。

 三週間で畑を一周し、同じ木を三週間毎に摘む。各回、未熟の緑の実だけを残し、赤い完熟実、過熟実、黒く乾燥した実は枝に残さない。完熟実を摘み残すと過熟後アルコール臭を発し、CBBに襲われる。三週間後に戻ってくる前に、乾燥してCBBを抱えたまま地面に落ちて、翌年のCBBの被害が広がる。よって、赤い実を摘み残してはいけない。

3.ストリッピング

収穫時期の終盤の1月に収穫量全体の10~20%程度が熟さずに枝に残っていても、それらを摘み取って捨てる(ストリッピング)。翌年の実が大きくなる3月までの間に、畑に実(CBBの棲家)が存在しない状況を作る。この期間が長いほど良い。中米やブラジルのように乾季雨季の差が明確で短期間に収穫する地域では、畑に実のない期間が5ヶ月にも及び、地面に落ちたCBBの多くが死滅する。しかし、コナでも標高の比較的高い山岸農園では自然体ではそのような期間は存在しないので、収穫量を犠牲にしても終盤に残っている実を強制的に取り除き1~2ヶ月の空白時期を作る。

また、普段はサンプリング用に使う例のエタノールとメタノールのトラップ(罠)は、この実のない期間には、かなりの捕獲効果がある。捕れるだけ捕る。

4.天敵の飼育

 昨年、CBBよりもひとまわり大きいSquare Neck Beetle がCBBのいる実に入り込み、CBBの成虫や幼虫を食べるのが発見された。発見した老人は偉い。いったい幾つの虫食いの実を開けて観察すると、こういう発見に至るのだろう。私なんか最近変な虫が多いなと呑気にプチプチ指で潰していた。発見後、家のバスルームで飼育したら、入れ物から逃げ出して、バスルーム中が虫だらけになった。

5.木を健康に保つ

健康な木には抵抗力があるので、一般的な害虫は体力の弱った木を襲う。よって、木を健康に保つことが害虫への第一の防衛策である。しかし、CBBの場合は事情が違う。CBBは不健康な木の不健康な豆は襲わない。健康な実を選んで襲う。既にCBBが取り付いた木や実が栄養不足で不健康になると、CBBは嫌がって中から出てきて近くの健康な実へ移る。したがって、不健康な木とその周りには虫食い実の数が増える。

CBBは住む実が健康だと居心地が良いので、2世代目、3世代目も同じ実の中で暮らすこともある。その3世代住宅の実が赤くなる頃には中に200匹以上ものCBBが集中する。収穫の際にその実をきちんと取り去れば、一個の実で200匹以上を退治できるので効率が良い。つまり、赤い実の方が一個当たりのCBBの数が多いから、取り残してはいけない。不健康な木だと、一個の実の中のCBBの数が少ないが、虫食いの実の数が多くなるので、より多くの虫食い実を取り除かなければならず効率が悪い。

6.カビ胞子散布の励行

 前述のBeauveria Bassianaという白カビの胞子を散布する。これはコナの自然界に存在する。胞子が直接、昆虫類に付くと、そこから体内にカビが生えて昆虫を殺す。  

 これを月に1~2度程度散布する。定期的に散布するのではなく、被害状況のほか、雨量や湿度を見ながら散布時期を決める。CBBのメスは雨が降ると実の中から出てきて、産卵のために近くの実に入り込む。そのタイミングで散布すると効果的。湿度が高ければ、実や葉の表面に付着したカビの胞子も生き延びて、CBBが歩き回ると胞子を体に巻きつける。効果が2週間以上に渡って持続する。 乾燥した日が続いている時に散布しても、CBBは実の中に潜んでいるので効果はないし、実や葉の表面に付着したカビの胞子もすぐに死んでしまうので効果が持続しない。

7.カオリン

 山岸農園ではカビの胞子を散布する際にカオリンという粘土を混ぜて噴霧する。カオリンは中国の景徳鎮の磁器に使われる粘土で、有機栽培の果物の害虫対策に用いられる。よくリンゴやブドウの表面に見かける白い粉のコーティングがカオリン。胃薬や整腸剤に入っている物質で食べても問題ない。

 果実に粘土の膜を施すと、ザラザラした表面を害虫が嫌がり、果実に侵入するのを防ぐ。山岸農園では世界に先駆けてコーヒーにカオリンを使用した。CBBを抑制する効果は確実にある。ただし、収穫時期が始まると使えない。シーズン最初の収穫では、まだコーティングが残っていて、実を摘むと粉が舞い上がり、涙は出るは、くしゃみは出るは。コナでも追随する農家が数軒あるが、他国での使用実績はないと思われる。   

8.微生物群

カビ胞子を散布する際にカオリンの他に乳酸菌や酵母菌などの有用微生物群も混ぜて散布する。その効果の程は私には未だ不明で、おまじない程度かもしれない。目的は虫食い実が地面に落ちた後に、微生物がその実を早く分解して彼らの家を破壊することにある。翌年までCBBが生き残るのを防ぐ。

6年前にCBBが初上陸し、まだ対処方法を知らない頃、私はこれを考え付いた。微生物の液は比較的安価に作れる。同じ頃、これと同じ原理のものを法外な値段で販売する者が現れた。原材料は企業秘密で公開されなかったが、私には臭いでその正体が判った。CBBが発生して、誰もどう対処すべきか判らない時に、最初に登場した対処法で、すごく効果があるとの証言者が相次ぎ、一般の人々も飛びついた。かなり売れたらしい。しかし、やがて、その販売者と証言者たちがグルだと判明し、その商品は店頭から消えていった。効果は不明。混乱期にはこういう人物が現れる。商魂たくましくて感心する。  

9.ハンドピッキング 

 これまで述べてきた方法で、他の産地ではCBBを相当程度、抑制できるかもしれないが、コナでは1%以下に抑えるには不充分と感じる。コナのCBBは元気すぎる。

 山岸農園では、春から秋にかけて、畑の中の全ての木の全ての枝の全ての実を何度も見て回り、虫食いの実を取り除く。CBBは生後5週間で卵を産むので、畑を月に一周のペース回る。5エーカーの畑には3,300本の木に数千万個の実があるので、その全ての実を見て回るには、忍耐力を要する。他の農園からはクレイジーといわれるが、これなくして1%以下に抑えるのは、強力な農薬でも使わない限り無理だ。おそらく、これを行うのは、コナはおろか、世界中の農園でも、山岸農園だけだと思う。 

世間は気違い扱いするが、コツがある。3月・4月は花が咲いたばかりで、実の数が少ない。そこへ待ってましたとばかり前年に地面に落ちた実の中からCBBが出てきて襲うので、急激に虫食いが進む。畑にまだ実が少ないその時期に丁寧に虫食い実を取り除くことは比較的容易。これで自分の畑に潜んでいたCBBはあらかた退治できる。

しかし、私の畑はまわり三方を虫食いの畑に囲まれ(南と東の畑は100%、北は約20%の被害率)、ドンドン飛んでくるので、作業は続く。夏には実が多すぎて、見落としが多くなるが、9月の収穫開始時期に被害率を0.1%以下に抑えられれば、1月の収穫終了時に5%程度まで上昇しても、シーズン全体の平均で1%以下に抑えられる。   

この作業は集中力を要する。一つでも見逃すと一ヶ月後に戻って来た時には、十倍以上に増えている事がよくある。大量発生した木を1時間以上かけて摘み取っても、一ヵ月後には倍もやられる。恐ろしい害虫だ。天敵を放し、カビ撒いて、カオリン撒いて、微生物撒いて、手で取り除いても、ドンドンやってくる。無力感にさいなまれる。

増える前に押さえ込む。最初のひとつを見逃してはいけない。集中力を要するので、3時間以上は続けられない。我々4人では人手が足りない。春から夏は閑散期だが、近所のピッカーを雇おうにも、「あんなクレージーなことは出来ない」と断られる。幸いにも、コナには日本人女性が随分と住んでいる。彼女らは早朝に子供を学校に送ると昼まで時間があるので、彼女らに手伝ってもらう。都合の良い日時に来てもらう完全フレックス制。根気と注意力の要る作業だが、彼女ら日本人の特殊能力が発揮される。  

10.ブロック(区画)剪定

 山岸農園では以前は3列に1列の割合で膝の高さに剪定する方式を採ってきたが、数年前からCBB対策の一環として、ブロック剪定に変更した。これは畑を3つの区画に分けて、1月末に1区画の木をすべて膝の高さに剪定(カットバック)する。(コロンビアでは5~6区画に分けて、5~6年毎に剪定するが、コナは成長が早いので、3年毎の剪定。)  

 剪定した区画には一年以上実が成らないので、その区画からはCBBは消える。よって、上述のCBB対策はまったく必要ない。  

 前年に剪定した区画は、まだ木が小さく収穫量は一本あたり5~10kg程度と少ないが、前の年にCBBを一掃しているので、被害率は少ない。よって、対応も軽くて済む。木も低いので、収穫の際に実を落とすリスクも少ない。

 前々年に剪定した区画は木が大きく収穫量は一本あたり20~50kgと大量に採れる。畑全体の収穫量のほとんどがこの3分の1の区画に集中するので、CBB対策もこの区画に集中する。ここは木が高いので収穫の際に、どうしても実が地面に落ちるが、シーズン終了後はすべて剪定してしまうので、翌年にCBBが繰り越される心配がない。    

 この方法を採ると、CBB対策を畑全体の3分の1に集中できて、随分と楽になる。にもかかわらず、コナでこの方法を採用したのは数軒のみ。追随者が出ないのは、収穫量が減るのを恐れてのことか。  

11.ミル

 収穫後はウェットミルで水に浮かぶ虫食い豆を除去する。ドライミルで比重選別機で更なる選別を行う。コナではこのほかに色選別機を用る農園もあるが、山岸農園では既に1%以下なので色選別機は用いない。

 

第6章 終わりに

 一般には生豆のCBBの虫食い率が5%以下であれば、カップに影響しないといわれる。よって、一般的なCBB対策プログラムは5%以下に抑えることを目標として組まれる。

一方、昔から日本への輸出はほとんど最上級の等級のエクストラファンシー。日本人はコナというとエクストラファンシーしか買わない。今般、虫食い率が5%だと、カップには影響しなくとも欠点豆の基準からエクストラファンシーを名乗れない。よって、日本中からハワイコナは消滅した。今年は大手農園が色選別機で選別に選別を重ねて、随分とエクストラファンシーを作ったそうだ。日本にも少しは行くのだろうか。現状に合わない等級制度を続けているコナにも問題はあるが、別にエクストラファンシーにこだわらなくとも、味に変わりはないのだから、どうにかならないものかと思う。

 さて、山岸農園は畑の三方を虫食いの畑に囲まれる逆境の中、5年連続で虫食い率を1%以下に押さえた。しかも、1%以下の農園はコナには他に存在しない。まあ、その必要もない。山岸農園でも今後とも1%以下に抑える必要もない。実際に虫食い率を10%から5%に半分にするより、2%から1%へ半分にする方が遥かに難しい。かなりの時間と労力と費用を使った。

なぜ、そこまでむきになってやっているのか。5%を目標にすると、何かあったときに10%になってカップに影響してしまうが、1%が目標ならば2%で済む。また、限界までやってみたら、こうなりましたと、モデルケースとして他の農園の参考になる。いや、そんな高邁な理由よりも、ただ、世界に数あるコーヒー農園の中で、一番厳しい努力をして、誰もやっていないことをやってみたかっただけかもしれない。今後のことは判らない。

2016年2月

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2016/03/09   yamagishicoffee