農園便り

2015年8月2日

コナコーヒー農園便り 2015年8月号

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 最近はコーヒー業界でも、ワイン業界の用語を借りて、テロワールやマイクロクライメットなどの言葉が使われる。同じ品種を同じ産地で生産しても、畑によって土壌、斜面、風向き、日の当たり方などが違うため香味が異なる。畑それぞれに個性があり、良い畑からのコーヒーを選ぶ必要があるという考えだ。

 ある丘があったとする。一般論として、その丘の麓の平らな畑(1日中太陽が当たる)と、丘の東向き斜面(午前中に太陽が当たる)と西向き(午後に太陽が当たる)では成長具合が違う。品質としては、午後の太陽、午前の太陽、一日中の順番と言われる。日差しの柔らかな順だ。余談だが、コナはハワイ島西海岸の山の中腹に位置するため、すべて西向き斜面で午後の太陽。しかも、午後は曇り。コーヒーに最高の環境だ。

 ワインのことはよく知らないが、確かにボルドーやバーガンディーなど、畑によって等級があり、その等級が変更されることはほとんどない。テロワールが重要なのだろう。

 なぜかは分からないが、うちのコーヒーは他のコナよりも甘い。テロワールに感謝だ。しかし、私が目標とするクリーンなコーヒーを生産するには、テロワールは決定的要因ではない。むしろ、農園主と従業員が、どれだけ真剣に働くかが、質の良し悪しを分ける。

 クリーンカップには、完熟した健康な実だけを摘むことが最も重要だが、きれいに摘もうと決意しても課題が残る。コーヒーは全ての実が健康で育つものではない。幾ら金と時間をかけても畑の実が全て健康に熟すことはない。そういう種類の植物なんだ。だから、コーヒー摘みは不健康な実を選り分けながらの作業となる。過度に不健康な畑では、たとえきれいに摘もうとしても、健康な実だけを選んで摘んでいくことは不可能だ。結局、とりあえず収穫して、乾燥後にサイズ選別機、比重選別機、色選別機など、機械による欠陥豆の除去に頼ることになるが、機械では限界がある。     

 不健康になる要因は、病害虫被害、栄養不足、水不足、気温、過度の直射日光などさまざま。一番上の写真は、今年の7月中旬の近所の畑の様子。すぐ隣なので、うちと同じテロワール。畑全体が黄色く見える。収穫時期前なのに、実も黄色や赤に変色している。十分に完熟する前に、栄養不足と害虫被害により本来よりも早く変色したものだ。中央の写真はよりアップで撮ったもの。葉は死にかけ、実はオレンジ色に干からびている。ティピカ種はひ弱なので、コナでは大多数の畑がこんな感じで、一般的な光景だ。これほど弱っているのに、他の産地よりも上品な味わいを出すのだから、ティピカ種の力は計り知れない。いろいろ工夫して、もっと健康な割合を多くできれば、比類なき絶品になる。

 一番下の写真は同じ日の私どもの畑。葉も実も濃い緑色で健康である。ティピカの畑をここまで緑に健康に保つのは難しい。肥料を多くやれば良いというものでもない。過度な施肥は悪影響。私の畑でも通路沿いの風と日差しの強い場所などは黄色く木が弱る。しかし、それを最小限に留めようと工夫している。手間がかかるので、ティピカ種を育てる産地は年々減少し、今ではコナとブルーマウンテンぐらいだ。 

 確かにテロワールは大切だ。テロワールの概念を強調し、その違いによる香味の特徴をアピールできる。楽しくて病み付きになりそう。しかし、私はクリーンカップ至上主義。クリーンさを他の評価基準よりも優先する。クリーンカップのためには、畑を健康に育て、完熟した健康な実だけを摘む。その観点からは、自然環境の優劣より、人の努力の方が重要となる。

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2015/08/02   yamagishicoffee