コナコーヒー農園便り 2014年6月号
5月に日本へ行った。目的の一つはポール・マッカートニーのコンサート。しかし、彼の体調不良で中止となった。当日、会場の国立競技場の回りは唖然とする中高年でごった返した。わざわざ北海道や九州から来たという声の中、ハワイは一番遠かった。
コナに住むとドタキャンや遅刻には慣れてくる。そんなことでいちいち目くじらを立てては暮らせない。農園で人を雇っても、約束の日時に来ないことは日常茶飯事。様々な言い訳があるが、本人あるいは家族の体調が悪いというのが多い。マッカートニーの体長は心配になるが、彼らの場合は、毎度、度重なると、ずいぶん病弱なご家族ですねと心の中でつぶやいてしまう。しかし、怒ってはいけない。来ないばかりか、何の連絡も無いこともある。携帯電話を畑に失くしたそうだ。あなた、それは今年5回目でしょうと突っ込みたくなるが、それを言っては負けだ。
朝起きたら雨が降っていたからというのも多い。こっちは快晴なのに現れない。コナのコーヒーベルトは標高200m~800mに縦3km、横35kmの帯状の狭い地域で、その中でも天候は随分異なる。ある地域が土砂降りでも、他の地域では快晴ということがよくある。いわゆる、マイクロクライメットというものだ。だから、電話をかけて、こっちは晴れていると説得をしなければならない。しかし、一度、お休みモードになった人を、仕事モードに戻すのは、割と苦労する。
コナの時間はゆっくり流れる。NYや東京のように秒単位で物事が進んでいない。このコーヒー農園付きの家を買った際にお世話になった不動産屋はモーリス・キムラ氏。日系3世で86歳。コナの高校の校長を長年勤め、引退後は友人の不動産会社を手伝っている。私の尊敬する紳士だ。
彼の案内でこの家を見に来た際に、一目で気に入った。帰りに、購入に向けての質問事項をまとめ、彼に調査を頼んだ。帰宅後、妻と「もしモーリスさんが今日中に調査結果を持ってきたら、ちょっとガッカリだね」と語りあった。コナに来て半年が経ち、時間のゆったり流れる生活に馴染んできた頃だ。NYや東京の不動産屋なら、夜中だろうが何だろうが、その日のうちに電子メールで返答が来るだろう。そういう、せわしなさが嫌でコナに引越したのだ。ここ2~3日はのんびり構えたい局面。
果たして一週間経っても音沙汰が無い。段々焦れてきた。なにせ、私の人生で最も高額の買い物。人生の重大事だ。だが、ここで焦ってはコナの仲間とはいえない。修行と思い我慢。10日後に、ゴルフ会で同組になった。彼はひたすらゴルフを楽しんでいた。完全に忘れているなと思い、催促しようとしたら、帰り際に、「例の件だけど」とやっと答えを貰った。のんびりしたハワイ生活の真髄を見た瞬間だ。
ハワイに来たばかりの頃は、引越、電話、電気、水道などの業者が、約束の日に来なかったり、大幅に遅れてくるので、いらだった。忙しいNYからハワイに来たのだから、そういう時間の流れ方を楽しんだ方が良い。一日一つ用事が済めば、それはよい日だ。
こんな田舎のハワイにはマッカートニーは来ないだろう。たぶん、一生、彼を見られない。ビーチ・ボーイズなら1月にホノルルに来た。 “Two girls for every boy…”(Surf Cityの一節)と彼らが歌うと、観客席のおばあちゃんたちが総立ちになり、歌に合わせて2本の指を突き上げたのには感動した。しかし、若いビーチボーイが女の子2人をはべらすなら、様になるが、70歳を過ぎてもそれじゃあ、ただのエロジジイだろう。そこへいくと、マッカートニーは年代を超えて普遍だ。”All you need is love♪…” 何年経っても名曲だなぁ。あっ、これはジョンか。