農園便り

2014年7月

コナコーヒー農園便り 2014年7月号

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 一昨年、うちの目の前の3エーカーの土地を買い、畑の規模を2エーカーから5エーカー(約6,100坪)に拡大した。2,100本の苗木を植えたが、昨年7月の台風接近で、200本も倒れて大変苦労した。実は今年も強風で50本が倒れた。新しい畑は災難続きだ。

 土地取得に際しての、私の不動産屋は先月号にも登場したモーリス・キムラさん。NYからコナに引越してきて、右も左も分からない我々を、何かと面倒見てくれた。日系3世で86歳。コナの高校の校長を長年勤め、引退後は友人の不動産会社を手伝っている。人格者として知られ、コナのリーダーとして活躍した地元の名士だ。

 さて、2008年にハワイに引っ越して、眼下に海を眺望するこの家を気に入り購入した。たまたま、コーヒー畑が付いていて、コーヒーを育て始めた。とても楽しいので、次第に、農地を買い足すことを考え始めた。

 4年前、手ごろな農地が売りに出たのをウェブで見つけ、不動産屋のモーリスを訪ねた。畑を買い足したいと言うと、モーリスは子供の頃コーヒー畑で苦労した話を延々と語った。「せっかくリタイアして、今まで上手くやってきたのに、今さら、そんな苦労を背負い込んで人生を無駄にすることはない。規模拡大は止めなさい」と諭した。

 彼の祖父は19世紀末に移民してきて、コーヒーで成功した。70エーカーの農園を経営し、モーリスも子供の頃からコーヒー畑で働いた。明治の移民には、自分のコーヒー畑を持つのは夢のような話だったが、3世ともなるとアメリカ国籍だし、英語は流暢に話せる。モーリス世代にとって、コーヒーは、むしろ、貧困の象徴。彼ら3世たちは、そこから抜け出す為に、大学へ行き、社会進出を果たした。モーリスには、いまさら、コーヒーに熱中し、さらに規模を拡大したいという私の希望は、無謀な試みに映るようだ。結局、売り手につないでもらえず、私は購入を断念した。

 半年後、他の農地が売りに出た。彼のオフィスを訪ねると、「まあ、そこへ座りなさい」と、前回と同じ苦労話を1時間たっぷりと聞く羽目になった。半年前にしたお説教は覚えていないが、若い頃の辛い経験は、はっきり覚えているらしい。その後も、2度、物件を持ち込み、計4回も同じ苦労話を聞いた。客の私が買いたいと言っているのに、買わせてくれない不思議な不動産屋。客の為にならないと思うと、てこでも動かない人格者。さすがは日系人社会のリーダーだ。

 一昨年、うちの目の前の3エーカーの空き地が売りに出たのをウェブで発見。モーリスに連絡を取って驚いた。実は、売り手の不動産屋が、私が農地を探しているのを知っていて、その物件を売りに出す前に、私の代理人のモーリスへ打診があったらしい。もちろん、即、断ったそうだ。それはないでしょう。一言ぐらい私に連絡してよ。

 そこで一計。標高600メートルの私の家は海が180度見渡せていい眺め。夕日が美しい。しかし、目の前の空き地を他人が買って家を建てたら、この景色が台無しになる。これをモーリスに訴えた。すると、「景色を守るためならば良いだろう。今の家の価値もそれで上がり、不動産取引として正しい選択だろう」と、やっと念願のお許しが出た。

 彼の気が変わらないうちに、大急ぎでその土地の取得手続きを済ませた。間髪をいれず、彼には内緒で、土地の端から端まで、びっしりと2,100本以上もコーヒーの苗木を植えてしまった。途中でバレて、「へへへへへ~~」とごまかしたけど。

 でも、畑は災難続き。やっぱり彼の言うとおり苦労は絶えないなぁ。

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2014/07/01   yamagishicoffee