農園便り

2020年8月1日

火山灰土壌 その4

ホノルル(オアフ島)とコナ(ハワイ島)では、土の色が違う。ハワイ島は黒土だがオアフ島は赤土。ハワイ諸島は太平洋プレートに乗って西へ移動しているので、西に行くほど古い。土壌もその順に古い。若いハワイ島には黒い火山灰土壌が豊富だが、オアフ島やカウアイ島は既にミネラル分は流出して火山灰土壌は消えている。ハワイ島は数十万年、オアフ島は3~4百万年、一番古いカウアイ島は約5百万年を経ているが、数億年は経ているアフリカ大陸やブラジルの台地に比べれば、はるかに若い。それでも、火山灰土壌は風化し消失する。火山灰土壌の命は儚い。

ハワイ島・コナはフアラライ山とマウナロア山の山麓。標高200m~800mの地域に縦3km、横35kmの帯状のコーヒー産地(コーヒーベルト)が広がる。火山から流出した溶岩の上に粘土と腐植が溜まった火山灰土壌。この細長いコーヒーベルト地帯では、畑によって土壌は微妙に違う。

溶岩は火口から10mや100mの幅の溶岩流になって斜面を下へ流れる。コナの溶岩流は一番新しいのが220年前で、古いのは1万5千年前。異なった年代の溶岩が帯状に重なっている。図では、色が濃いほど年代が古い。丁度バーコードの様な模様で、村を水平方向へ移動するたびに土壌の年代が異なる。

土壌は新しいと未熟である。図の白い部分は500年以内の溶岩流の跡でコーヒーは育たない。時が経つにつれ溶岩の上に、粘土(溶岩が水に溶けて結晶化した物)と腐植(動植物の遺体がある程度分解した物)が堆積して火山灰土壌が成熟する。しかし、古すぎたり雨が多すぎるとミネラルは流出してしまう。

このような事情から、コナは畑によって土壌の質が微妙に異なる。あるいは同じ畑の中でも異なる場合がある。ワインのブドウ畑では道を挟んで隣同士の畑でもワインの質に差ができることから、テロワールとかマイクロ・マイクロクライメットという単語が用いられる。スペシャルティーコーヒー業界もワインを真似して好んで用いる。

コナの場合は標高によって雨量や気温や日照量が違うので、コーヒーの質に差が出る。それに加え、同じ標高でも横に移動すると目まぐるしく土壌の年代が変化するので、やはりコーヒーに微妙な差が出る。おまけに、土壌中にコーヒーの木の大敵である線虫の多い地域と少ない地域があるので、もうごちゃごちゃだ。

確かに地域で差はある。しかし、土壌に関し長々と語っておきながらなんだが、わずかな土壌の違いよりも、コーヒーを健康に育て、きれいに収穫するか否かの方が桁違いに重要だ。大きくコーヒーの香味に差が出る。それに比べれば、コナの土壌の差など微々たるものである。テロワールよりも人だ。だって、他の産地ではあの不毛の赤土のオキシソル土壌や強風化赤黄土でも立派なコーヒーを生産する農家はあるんだから。

4回に渡り、コーヒーの土壌について書いた。最後に、どんな作物にせよ、農家が土壌の種類を自慢したら、話半分に聞いた方が良い。実は、農家はどれだけ土を手入れしているかを自慢したいのだ。それを抜きに、ことさら土の種類だけを自慢する人がいたなら、それは怪しい。そもそも、フカフカな土が必要な根菜類を除き、スーパーで火山灰土壌を売りにした野菜や果物など見たことない。土なしの水耕栽培を売りにする農家はあっても、○○土壌だから美味しいと、まるで常識のように宣伝される農産物はコーヒー以外にない。植物はそんなに単純ではない。生産者としては、日本のコーヒー業界の「肥沃な火山灰土壌」の常套文句は不思議。生産者から遠すぎて、受け売りの受け売りのそのまた受け売りで言いたい放題か。

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2020/08/01   yamagishicoffee