コナコーヒー農園便り 2015年9月号
常夏のハワイは日本の夏より涼しいが、今年はハワイも猛暑。各地で史上最高気温を更新。なんと33度。普段は東北東からの涼しい貿易風の恩恵を受けているハワイには耐え難い。うちは標高600mなので、さほどではないが、29度にはなった。コーヒーの成長には24度が適温で、気温が1度上昇するごとに成長が10%阻害されるといわれる。29度だと半分しか成長できず、大きなストレス。ストレスを受けると子孫を残そうと早く熟す。例年よりも早く、コナ全体で8月には本格的な収穫が始まった。
今年は太平洋の海水温が高いらしい。だから台風が多い。8月は4個もハワイ沖を通過した。コーヒーは冬の乾季の水不足のストレスを耐え、春の雨で体力を回復して開花する。今年は猛暑のストレスに加え、連日の大雨で季節はずれの花が咲いた。この時期に咲いても収穫期間に間に合わず、未熟のまま摘んで捨てるので無駄だ。
8月は天候だけでなく、株式市場も大荒れ。20日(木)の夕方、コーヒー摘みの最中に嫌な予感がした。NYとは時差が6時間なので、既に市場はクローズしている。翌21日(金)の夜明け前に保有株の一部を売った。株を売るなんて9年ぶりだ。すると、その日はダウ平均が531ドルも下落した。週末を挟み24日(月)の相場も大荒れ。私のポートフォリオも、どっぷり浸水。夜明け前からNYと連絡を取り、市場が下がるのを呆然と見つめた。その日ダウ平均は、さらに588ドル下落した。
テレビやネットで株価を見ていると精神的に辛い。日の出とともに畑へ出てコーヒー摘みを始めた。これまで、成功した投資のアイデアは不思議とコーヒー摘みの最中に生まれた。コーヒー事業は赤字だが、そういう効果を考慮するとまんざらでもない。行き詰ったらコーヒーを摘みながら思考の整理だ。
その日はハワイ島の南の海上を台風が通過中。摘み始めてすぐに大雨が降り出した。数時間も雷雨が続いた。光と音の時差から推測するに、4km以上は離れているので摘み続けた。夕方には精製所を予約してあるので、摘まざるを得ない。それに、連日の雨で実が過熟し始めた。通常コーヒー産地の収穫時期は乾季。収穫時の大雨は要注意。過熟実に、雨が降ると、カビや発酵の恐れがあるので、早く摘みたい。
全身びしょ濡れでの収穫。投資アイデアどころではない。ただ寒くて悲しい。ふと見ると、七面鳥が雨の中で餌を探し回っている。動物は雨でも平気なんだ。先祖のクロマニヨン人も雨の中で寝起きしたはず。現代人も、雨の中で投資戦略を練るのは無理でも、雨の中でコーヒーを摘むくらいの能力は受け継いでいるに違いないと自分を励ました。体が冷えて震えが止まらない。でも、家に帰って株式市場を見て震え上がるのは、もっと御免だ。5時間ほど大雨の中で摘んだ。しまいには手の感覚もなくなり、上手く摘めなくなった。これでは品質に影響する。ついに断念。家で株式市場と格闘をすることとなった。
夕方、約束の時間に精製所へ収穫分を持っていくと閉まっていた。今日は町中に雷が落ちて、あちこちが停電。沖合いには水竜巻まで起きて大騒ぎ。町中でコーヒー摘みをした人は誰もいないと言われた。普通の人はこの雷雨では休むでしょう、日本人は変わってるねと呆れられた。せっかくずぶ濡れで摘んだのに、精製は翌日に回された。
株は翌25日(火)も続落。でも、実は26日(水)に歯を食いしばって株を買い増した。アメリカの相場の格言に Don’t catch a falling knifeとあるが、真剣白刃取りじゃ。