コナコーヒー農園便り 2014年8月号
2012年に下隣の3エーカーの土地を買い増し、2,100本以上のコーヒーの苗木を植えた。目の前に他人が家を建て、私の家の景観が台無しになるリスクはなくなった。同時に、隣接する住人たちにとってもプライバシーが確保される。隣人たちに喜ばれ、いろいろと応援してもらった。
畑を作る作業は全てジョージ・ヤスダ氏に委託した。つまり、開発許可の取得、整地、畑のデザイン、灌漑施設の付設に加え、彼の畑からコーヒーの苗木を買って植えてもらった。
まず、郡政府から整地作業の許可を取得。同時に、このあたり約80軒からなる自治会からも同様の許可を得た。いよいよ、ブルドーザーで雑草だらけの土地の整地を始めた。その時、近所のある人物から苦情が入った。整地の仕方が違法だというのだ。自治会に持ち込まれ、自治会から作業の中止を命じられた。
ことの成り行きを見守っていた隣人たちが忠告してくれた。実は彼はいわく付きの人物。庭で馬を飼っており、隣の敷地に馬糞を投げ込んでいた。投げ込まれた側が文句を言うと、ハルク・ホーガンのような体格の彼は、隣人に頭突きを食らわせ病院に送り込んだことがあるらしい。
無駄に時間が過ぎてゆく。何が目的の苦情か分からない。デコボコの土地を平らにしているだけ。ジョージは何十年もこの仕事をしているが、そんな文句は受けたことはないと自治会に説明しても、作業は中止の一点張。
これは嫌がらせだ。喧嘩を売っている。こっちが頭に来て怒鳴り込んだら、得意の頭突きを喰らわせる魂胆か。そこで隣人たちに抗戦を呼びかけたが、誰も関わりたがらない。諸君らの集団的自衛権を行使せよ!と檄を飛ばしてもポカンとしている。どうやらここでは集団的自衛権は流行っていないらしい。ついに、私もキレた。「てやんでぇ、べらぼーめ。日本人だってんでなめんなよ。あっしらは元はニューヨークでヘッジファンドと弁護士をなりわいとし、人様の喧嘩に口~挟んで、おまんま食おうって~、おあ兄さんとおあ姉さんだ。お奉行所へでもどこでも出て、白黒はっきりさせようじゃねえか。」と隣人たちに(頭突きおやじには怖くて直接言えない)つたない英語で啖呵をきって、単独抗戦を決意。
まずは、ココナッツの実を頭で割る訓練を重ねた。いっこうに割れない。不安はつのる。やはり、直接対決は無理だ。裏から手を回すしかない。そこで、市役所に我々の整地方法は問題ないと再確認したうえ、役所から自治会に説明してもらった。すると、あっさりと自治体は納得し、作業再開の許可を得た。頭突きおやじもこれで静かになった。たわいも無い。ざまあみろってんだ。あっしら喧嘩にゃ、つえーんだ。
さて、話はそれ以前にさかのぼる。実はジョージと契約する前に、彼と厳しい価格交渉があった。彼はフル装備の畑を作るのが信条で値段が高い。確かに、最初に金をかけて畑をしっかり作ると、後々の作業効率も収穫量も上がり、長い目で見れば安上がり。しかし、見積もりを見てビックリ。灌漑設備など、もっと安いものにしてくれと頼んだが、中途半端な仕事はしたくないと言い張る。昔堅気の大工の棟梁みたいな人だ。
結局、最終的な契約書のサインと小切手の引渡しを彼の畑で行うことになった。癪なので、最後にもう一押し値引きをねじ込もうと意気込んで出かけた。彼と大学を出たての息子が待っていて、契約書の確認を行った。さて、ここで値引交渉をという目論みだったのだが、そこはすごい数の蚊がいた。うかつにも半袖半ズボンで行った私と妻は全身蚊に刺された。15分間で50箇所は超えている。それが強烈で、とても痒い。気がつくと、隣に立つジョージと息子は全く刺されていない。平然として、もだえ苦しむ我々を見て笑っている。虫除けは使っていないのに、なぜだ? 彼らは酒も飲まないし、ジムに毎日通う健康オタクだから?? とにかく、痒くて気が狂いそうになった我々は値下交渉どころではない。大金の小切手を手渡し、早々に退散する羽目になった。あっしら交渉には弱いのだ。