農園便り

2013年4月

コナコーヒー農園便り 番外編

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普段は月に一度しかこのブログは更新しないのですが、高校時代のテニス部のダブルスのパートナーから、私が普段どうやってコーヒーを飲んでいるかを、ここで紹介しろとのリクエストが来たので、番外編を書きます。かつては、毎日毎日、一緒に何キロも走り、泥んこになりながら、腕立てや腹筋を100回以上やった仲ですから、これくらいのリクエストにはお答えします。

 一般的に、美味しく淹れるコツは正しい分量を正しい温度で淹れることだそうです。

フレンチプレス
 率直に申し上げて、私はコーヒー農家であって、コーヒーの焙煎や淹れ方は全くの素人です。だから、素人でも間違いなく淹れられる方法を使います。それはフレンチプレス(写真左)です。紅茶を淹れる時によく使う器具です。淹れる直前に30gの豆を荒めに挽きます。挽いた豆にフッフッと息を吹きかけて、挽いた豆に混ざっているシルバースキンを吹き飛ばした後、これをフレンチプレスの容器に入れて、上から沸騰したお湯500ccを冷めないうちにゴボゴボと注ぎます。注ぐ前に、容器は温めておきます。4分後に、上からふたを下に押し込み、すぐに全てのコーヒーをカップに注ぎます。マグカップ2杯分です。

 シルバースキンは雑味の原因となるので、フレンチプレスに関わらず、どの淹れ方の場合にも、常に吹き飛ばしたほうがよいと思います。シルバースキンとは生豆の周りを覆っている薄い皮で、農家が精製する際にほとんどを取り除くようにします。僅かに残ったものも、焙煎業者が焙煎する際に、ほとんどが焼かれ落ちて、取り除かれます。ただし、焙煎後でも、コーヒー豆の真ん中の縦の割れ目の中に、僅かに残っています。これが、豆を挽いた際に出てきます。だから、挽いた豆に息を吹きかけて飛ばします。ヒラヒラと飛び散ります。

 さて、淹れたコーヒーは熱いと味が良く分からないので、ちびちびと飲み、冷めてからの味も確かめます。音を立ててすすって、空気とコーヒーを混ぜて口の中に入れると味が分かりやすくなります。アメリカでは食事中にズルズルと音を立ててすするのはマナー違反なので、ワインのテイスティングの際には上品にほとんど音がしないようにすすります。しかし、コーヒーのカッピング競技では審査員たちは、江戸っ子が蕎麦をすする時の3倍ぐらいの音を立ててすすります。一度、タブーを破ると、歯止めが利かないのか。渋谷ハチ公前でカッピング競技をやったら、審査員がすする度に、騒音表示のパネルの数値が跳ね上がることでしょう。ところで、今でも、あの表示盤はあるのかなあ?

 フレンチプレスの特徴は
1)温度が常に一定で、簡単なので当たり外れがない。
2)豆の全ての香味がでるので、その豆の実力を知るのによい。
3)紙や布のフィルターを通していないので、豆の粉が底に残り、舌にザラザラとした感じが残る欠点がある。容器の底に溜まったものはカップには注がないようにする。

ペーパーフィルター 
 フレンチプレスは全ての味を出しますが、フィルターで淹れると上澄みだけの、いいとこ取りができると言われています。私もペーパーフィルター(写真中央)で淹れることもあります。ところが、下手なので、毎回味が違ってしまいます。20秒蒸らした後に、チョロチョロと熱湯を注いでいくわけですが、私がやると、温度が一定にならないので、当たり外れがあります。
 
 お湯を注ぐとブクブクと泡が浮いてきますが、あくのもとなので、これがろ過されないように注意します。お湯を注ぐ場所を、真ん中に集中させて泡が端へ静かに押し出されるようにします。のの字にお湯をかけて、せっかく端へ押し出された泡をわざわざ潰すのはいけません。こんなことを注意しながら、フィルターの中のお湯の温度が常に95度に保たれるようにするには、かなりコツがいります。漫画タッチの浅倉南のお父さんみたいな人がやれば、美味しいコーヒーができるはずです。上杉達也の淹れたコーヒーは飲みたくありません。南ちゃんのだったら、不味くても飲みたいけど。 

コーヒーメーカー
 パーティーでは大量に淹れるので、コーヒーメーカー(写真右)を使います。機械が全部自動でやるので、技量が問われず、安定して淹れる事ができる長所があります。しかし、機械だと、お湯の温度が90度以上にならないので、最適な味とはならないそうです。非最適な味を安定的に作ることになります。不味くはないので、それはそれで良いと思います。

 家庭用のエスプレッソ器(Moka Pot)を使ったこともありますが、空焚きして、あっという間に壊しました。捨てたので写真なし。

 色々書きましたが、コーヒーなんて、所詮、嗜好品ですから、自分の好きな淹れ方で好きな様に飲むことが肝要です。好みの問題ですから、各々が満足していれば、それでいいのです。
 

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2013/04/21   yamagishicoffee

コナコーヒー農園便り 2013年4月号

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気候が穏やかなハワイ島の暮らしには大満足だが、桜の季節だけは、日本が羨ましい。ハワイには沖縄から来た寒緋桜はあるが、ソメイヨシノはない。その代わり、昔の日系移民はコーヒーの花が咲くと、畑に出て弁当を使い、酒を飲み、歌い、花見をしたそうだ。コナでは乾季を過ぎて、雨が降り始める2月頃からコーヒーの花が咲く。花は2〜3日で萎むが、雨が降ると、また咲く。これが5月頃まで続く。満開に咲くと、コーヒー畑が白く見える。これをコナスノー(コナの雪)と呼ぶ。

 コナスノーになると、どこから来るのか、たくさんのミツバチが現れて蜜を取る。ミツバチのブーンという羽音が、家の中にまで聞こえ、朝、その音で目が覚めるほどだ。一つ一つは小さな羽音でも、それが何万と重なり、コーヒーの葉に反響する。まるでコーヒー畑全体が鳴り響いている感じがする。こういう日は、花を傷めないように、また、ミツバチの邪魔をしないように、農作業は控える。ゴルフに行く良い口実だ     

 コナコーヒー(アラビカ種)は、同じ花の中で自家受粉するので、必ずしもミツバチは必要ない。しかし、多くの作物は蜂が作柄を左右する。たとえばアーモンド。カリフォルニアが世界の大半を生産している。2月の開花時期に、ハワイを除く全米49州から養蜂業者が集まり、受粉を請け負う。ミツバチは気温が13℃以上、風が時速25km以下で、雨が降っていないという条件が揃うと、蜜を取りに来る。この条件が揃っている時間をBee Hours(蜂時間)という。開花の週、特にピークの3日間にどれだけ蜂時間があったかが勝負で、それによりアーモンド市況が変動する。

 ハワイは海を隔ているため、アーモンド受粉に関係のない唯一の州だが、実は養蜂業はとても盛ん。ハワイ島コナといえば、コーヒーやマカデミアナッツが有名だが、世界有数の女王蜂の産地でもあり、各地に女王蜂を輸出している。コナは温暖で、様々な果物がある。1年中、花が咲き乱れる。マウナロア山とフアラライ山が貿易風を遮るので風が穏やか。蜂には住みよい環境だ。

 ところが、今年はコーヒー畑に来るミツバチの数が少ないように思われる。世界的なミツバチ減少(蜂群崩壊症候群)の波がハワイ島にも押し寄せている。数年前までは、ハワイは被害のない、世界でも数少ない地域の一つだったが、遂に、減少要因の一つとされるダニとそれに寄生するウィルスのハワイ島への上陸が3年前に確認された。

 うちのコーヒー畑の隅にはカボチャが勝手に生えてくる。沢山できると友人に配る。日系人の友人達の間で人気で、山岸農園といえば、コーヒーよりもカボチャだ。コーヒー労働の中心的な担い手のメキシコ人達もこれが好きで、コンデンスミルクで煮詰めて甘いデザートとして食べる。うちは今年も沢山のカボチャが生った。しかし、隣町のワイコロアのカボチャ畑では、ミツバチが来なくて、実が生らなかったそうだ。ウリ科は雄花と雌花があり、受粉には昆虫が必要。そこで、カボチャを育てるために、畑の一角に養蜂箱を置き、まずミツバチを育てることから始めたそうだ。

 世界の食料品の8割はミツバチなどの昆虫により受粉されているといわれ、ミツバチの減少は人類文明を覆しかねない由々しき問題。今やミツバチは大切な資源なので、心あるコーヒー農家はそれを守るために、花が咲く直前には、棒を持って畑を歩き回り、くもの巣を取り除く。

 今年は、日系移民の真似をしてコナスノーで花見をしてみた。満開の花を眺めながら、暖めたワインに蜂蜜を入れて、雪見酒ならぬ花見酒と洒落込んでいたら、ミツバチが寄ってきて困ったことになった。チクッ。やっぱ、ハチ嫌い。

 

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2013/04/01   yamagishicoffee