コナコーヒー農園便り 2013年4月号
気候が穏やかなハワイ島の暮らしには大満足だが、桜の季節だけは、日本が羨ましい。ハワイには沖縄から来た寒緋桜はあるが、ソメイヨシノはない。その代わり、昔の日系移民はコーヒーの花が咲くと、畑に出て弁当を使い、酒を飲み、歌い、花見をしたそうだ。コナでは乾季を過ぎて、雨が降り始める2月頃からコーヒーの花が咲く。花は2〜3日で萎むが、雨が降ると、また咲く。これが5月頃まで続く。満開に咲くと、コーヒー畑が白く見える。これをコナスノー(コナの雪)と呼ぶ。
コナスノーになると、どこから来るのか、たくさんのミツバチが現れて蜜を取る。ミツバチのブーンという羽音が、家の中にまで聞こえ、朝、その音で目が覚めるほどだ。一つ一つは小さな羽音でも、それが何万と重なり、コーヒーの葉に反響する。まるでコーヒー畑全体が鳴り響いている感じがする。こういう日は、花を傷めないように、また、ミツバチの邪魔をしないように、農作業は控える。ゴルフに行く良い口実だ
コナコーヒー(アラビカ種)は、同じ花の中で自家受粉するので、必ずしもミツバチは必要ない。しかし、多くの作物は蜂が作柄を左右する。たとえばアーモンド。カリフォルニアが世界の大半を生産している。2月の開花時期に、ハワイを除く全米49州から養蜂業者が集まり、受粉を請け負う。ミツバチは気温が13℃以上、風が時速25km以下で、雨が降っていないという条件が揃うと、蜜を取りに来る。この条件が揃っている時間をBee Hours(蜂時間)という。開花の週、特にピークの3日間にどれだけ蜂時間があったかが勝負で、それによりアーモンド市況が変動する。
ハワイは海を隔ているため、アーモンド受粉に関係のない唯一の州だが、実は養蜂業はとても盛ん。ハワイ島コナといえば、コーヒーやマカデミアナッツが有名だが、世界有数の女王蜂の産地でもあり、各地に女王蜂を輸出している。コナは温暖で、様々な果物がある。1年中、花が咲き乱れる。マウナロア山とフアラライ山が貿易風を遮るので風が穏やか。蜂には住みよい環境だ。
ところが、今年はコーヒー畑に来るミツバチの数が少ないように思われる。世界的なミツバチ減少(蜂群崩壊症候群)の波がハワイ島にも押し寄せている。数年前までは、ハワイは被害のない、世界でも数少ない地域の一つだったが、遂に、減少要因の一つとされるダニとそれに寄生するウィルスのハワイ島への上陸が3年前に確認された。
うちのコーヒー畑の隅にはカボチャが勝手に生えてくる。沢山できると友人に配る。日系人の友人達の間で人気で、山岸農園といえば、コーヒーよりもカボチャだ。コーヒー労働の中心的な担い手のメキシコ人達もこれが好きで、コンデンスミルクで煮詰めて甘いデザートとして食べる。うちは今年も沢山のカボチャが生った。しかし、隣町のワイコロアのカボチャ畑では、ミツバチが来なくて、実が生らなかったそうだ。ウリ科は雄花と雌花があり、受粉には昆虫が必要。そこで、カボチャを育てるために、畑の一角に養蜂箱を置き、まずミツバチを育てることから始めたそうだ。
世界の食料品の8割はミツバチなどの昆虫により受粉されているといわれ、ミツバチの減少は人類文明を覆しかねない由々しき問題。今やミツバチは大切な資源なので、心あるコーヒー農家はそれを守るために、花が咲く直前には、棒を持って畑を歩き回り、くもの巣を取り除く。
今年は、日系移民の真似をしてコナスノーで花見をしてみた。満開の花を眺めながら、暖めたワインに蜂蜜を入れて、雪見酒ならぬ花見酒と洒落込んでいたら、ミツバチが寄ってきて困ったことになった。チクッ。やっぱ、ハチ嫌い。