農園便り

2020年3月4日

リストランテヒロ

数年来、青山や丸ビルなどに店舗を展開するリストランテ・ヒロで山岸コーヒーを取り扱っていただいている。社長の山口一樹氏に気に入っていただき、お付き合いが始まった。山口氏からピノノアールのようなコーヒーと感想を頂き、我が意を得たりと感じた。

ブルゴーニュの赤ワインに代表されるピノノアールは、明るく酸味が前に出る。ボディーは軽やかで渋みは抑えめ。エレガントな感じがする。オリがでにくいのでピノノアールのビンはなで肩。まさに、明るくクリーンで苦味や渋みのないコーヒーを目指す私にとっては、「ピノノアールのようなコーヒー」は理想である。おまけに、ピノノアールのは病害に弱く生産が難しいそうだ。コナコーヒーに似ている。

東京駅の目の前の丸ビル。35階のリストランテ・ヒロに行ってみた。ディズニーランドの花火まで見通せる眺望。テーブルに座ると、当日使う食材を載せたトレーが来て、本日の牛肉は○○牧場、玉ねぎは○○農園との説明を受ける。コース料理が始まると、さっき見た厳選された食材が次々と極上の一皿となり供される。美味しい。楽しい。

最後に、山口社長が自ら、私の目の前でボウルに入れたイチゴをすり潰し、そこに液体窒素を流し込んでホイップするとイチゴアイスの出来上がり。液体窒素のひんやりした煙がテーブルを伝い床へ流れるのが美しい。着ているシャツに、ほのかなイチゴの香りが付く。味覚のみならず、視覚、嗅覚、冷気の皮膚感覚を総動員した体験だ。

山口社長によると、ここまでは他の高級レストランでもやっている所はある。ところが、最後に、その辺の一般的な苦いコーヒーが出てきて、それまでの趣向がぶち壊しとなるケースが多い。最後のコーヒーに至るまで素材にこだわって、素晴らしい余韻を残してコース料理を締めくくりたいというのが山口氏の考え。豆をお客様に見ていただいてから、テーブルの横で挽いてドリップしてくれる。

確かに、朝から舌がヒリヒリするような苦いコーヒーを飲むのも辛いが、カフェインで目が覚める代償と思えば、まだ我慢ができる。しかし、極上のコース料理の最後を酷いコーヒーで台無しにされてはたまらない。甘く香り高いコーヒーで終えたいものである。そんな風に、私どものコーヒーを扱ってもらえて、とても嬉しい。

もう一つ嬉しいことがある。私は父が早死にしたので苦学した。大学や日本育英会から奨学金をたくさん借りた。加えて、三菱信託銀行の山室記念財団(現三菱UFJ信託奨学財団)からは、ありがたくも返済義務のない奨学金を頂いた。とても感謝している。

在学中、定期的に山室財団へ学業の報告へ行く義務があった。記憶が確かなら、その事務所が丸ビルの隣の新丸ビルだった。改築前の戦前風の重厚な廊下。日本経済の中心という雰囲気。貧乏学生の私は、そこを歩くと、その威圧感からひどく緊張して心細かった。

おかげで大学を卒業できた。必死に働いた。幸運にも恵まれ、若くリタイアできた。そして、今、改築後の丸ビルの35階で私が手摘みしたコーヒーが供されている。感慨ひとしおである。

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2020/03/04   yamagishicoffee