農園便り

2019年4月2日

コーヒー栽培がんばる

私のゴルフ仲間Albert Watanabeさんは1936年生まれの日系3世。現役時代は高校のカウンセラー。カウンセラーとは生徒の悩みなどの相談を受け、正しく健全な道へと若者を導く仕事。人格者ならではの職業だ。

彼は仲間と週2回ゴルフをする。リタイアした日系人中心の30人ぐらいのグループ。中には90歳代の人もて、私は最年少。ほとんどがコーヒー農家出身だが、彼ら自身は教師、医師、大学教授、消防士、会社員などの職業を務めあげ、親から引き継いだコーヒー畑は小遣い程度に続けている。とにかく元気で、よく遊び、よく笑い、日本食を食べ、コナコーヒーを飲む。ハワイの日系人が全米で最長寿なのも納得できる。

Albertはゴルフが上手い。ドローとフェードを自在に打ち分け、ホールインワンやエイジシュートも何度も達成している。コーヒー栽培にも詳しく、私の師匠。私がコーヒー畑を買ったばかりの頃、肥料の撒き方を詳しく教わった。肥料は季節や雨量や実の成長具合により、最適な成分をタイミングよく施す必要があり、なかなか奥が深い。彼の経験と知識に基づくアドバイスは実に適切。しかし、本人はその通りに実践しているのか尋ねたところ、返ってきた答えが、「冗談じゃない。肥料なんて手間がかかるし、金もかかる。さらに困ったことに、肥料をやると秋に沢山の実が生るから、コーヒーを摘むのにもっと手間隙がかかって、ゴルフの時間が減る。人生はもっと楽しまなくちゃ。」 

感銘した。こういう考え方をしたことがなかった。子供のころから与えられた課題は一所懸命にこなすのが正しい生き方だと教わってきた。その点、学校の授業は落ちこぼれだったが、その分、クラブ活動は全力で頑張った。受験勉強もそれなりにこなし、就職後は立派な企業戦士だ。才能に欠ける分、努力で補った。振り返れば、一所懸命に働いた。今ならブラックもいいとこ。気が付けば、リタイアしても、その勢いでコーヒー栽培。

日本の農業もしかり。亜熱帯原産の稲を無理やり日本に持ち込み、品種改良を重ね、手間隙をかけて育ててきたのが日本の歴史だ。野菜だってビニールハウス。なかには温室でマンゴーやパパイヤまで作っている奇特な方までいる。なんとストレスの多い農業か。

コナではマンゴーやパパイヤなんて道端にいくらでも落ちている。コナコーヒーだって放っておいても勝手に生えてくる。最適の場所で最適の作物を栽培しているだけだ。私はさらに品質を上げようと、肥料や堆肥やミネラルやバイオ炭や微生物やらを投入し、またもや一所懸命だが、期待したほどの効果が上がらないことも多い。Albertのような手抜きの方が、かえって土壌と微生物とコーヒーの木のバランスが取れるのかもしれない。

Albertらゴルフの仲間たちからは、「最近ゴルフに出てこないね」と言われる。コーヒー畑が忙しくてと、日々の工夫を得意になって自慢すると、そんなに一番になりたいのと笑われる。でも、高校時代のクラブ活動のノリのまんまサラリーマン生活を送ったから、そういう教育を受けた世代だから、なかなか変えられない。しかして、ゴルフのハンデは増えるばかり。なんのためリタイアしたんだ?

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2019/04/02   yamagishicoffee