コーヒーの香り FragranceとAroma
SCA (Specialty Coffee Association)のコーヒー評価基準の第一項目は「香り」。しかも、その内訳としてFragranceとAromaの2つがある。二番目がFlavor(味・風味)。
香りに関し、消費財には決まりがある。香水、石鹸、シャンプーなど口に入れない商品の香りはFragranceという。一方、食品、歯磨きなど口に入れる物にはFlavorを使う。Flavorは口に入れた際のTaste(味)とAroma(香り)とMouthfeel(口当たり)を統合した感覚。日本語の風味に近い。口に入れると、香りは味と渾然一体なのでFlavor を使う。だから石鹸やシャンプーにFlavorは使わない。石鹸を食べてはいけない。
日本語には「におい」と「かおり」の2単語くらいしかないが、英語には香りを表現する単語はSmell, Incense, Scent, Aroma, Perfume, Fragrance, Odor, Stink, Stench, Reek, Rankと多い、それぞれ微妙に意味が異なる。
SCAではコーヒーを口に入れてFlavorを確かめる前に、FragranceとAromaと2種類の香りを官能する。それぞれ、定義があり、粉砕した粉の香りをFragrance、お湯を入れた後の香りをAromaとする。Dry FragranceとWet Aromaとも呼ぶ。カッピングは通常35分位かけるなかで、FragranceとAromaに15分位を費やすのでかなりの比重だ。
まずは挽いた豆のDry Fragranceを官能する。その際、生豆の中の酵素(Enzymatic)に由来する香りを中心に探していく。Flavor wheel (SCA作成の香味一覧表)の中の、花(ローズティー、コーヒーの花、ハチミツ)、果物(レモン、アプリコット、リンゴ)、ハーブ(ジャガイモ、ハーブ、キュウリ)などを参考に自分の感想を記す。もちろん、香りは個々人の経験と感性によるので、この表に限らず、人によってまちまちとなる。
次にお湯を注いで、Wet Aromaを官能する。焙煎で糖分が焦がされて生成される物質に由来する香り(Sugar Browning)などを探す。キャラメル(バター、キャラメル、ローストピーナッツ)、ナッツ(アーモンド、ヘーゼルナッツ、ウォールナッツ)、チョコ(バニラ、トースト、ダークチョコ)などが代表。その他、長くなるので説明は省くが、Dry DistillationやAromatic Taintsを感じればそれも記す。
日常ではFragranceとAromaの区別は曖昧。なぜ、SCAはその2単語をそう定義したかに興味がわき、コーヒー鑑定士仲間で議論してみた。こんな意見が出た。
まず、アル・パチーノ主演の映画「Scent of a Woman」のScentは人間や動物の体臭。一方、FragranceとAromaは花やフルーツや香料など植物によく使う。その際、両者の差はあまりない。セラピーもAroma TherapyともFragrance Therapyともいう。香水はFragranceをよく使うが、Aromaも可。色々例を挙げても、両者に違いはあまりない。
強いて違いを言えば、Fragranceは鼻から入る香りの一方向だが、Aromaは鼻から入る香りと口から鼻に抜ける香り(レトロネーザルアロマ)の2方向をカバーする。そう考えると、確かにAromaは料理に多く使う。生きた牛の臭いはScentだが、ステーキにするとAroma。Fragrantな香辛料をお湯に入れてかき回すと、素敵なAromaのスープができる。だから、コーヒーはお湯を入れる前がDry Fragranceで入れた後がWet Aromaなのだろう。確かにFragranceは乾いた感じで、Aromaは湿った感じがする。
香水をつけた女性からは素敵なFragranceがするが、少し汗ばんだ体からはAromaが立ち上るという説も出た。なんだか話が色っぽくなってきた。
ハワイも夏は暑い。畑から汗だくで帰って、妻に「どう、僕のAromaは?」と問うてみた。『うわっStinky!ゴホゴホゴホ。早くシャワー浴びて。」と答えが返ってきた。