コナコーヒー農園便り 2013年6月号
先月に続き剪定の話。コーヒーの収穫が終わると木を剪定する。剪定には国・地域によって様々な方法がある。コナでは主にBeaumont-Fukunaga Style(以下BF方式)とKona Style(Kona方式)が採用されている。先月、紹介した私の畑の剪定方法はBF方式。コーヒーは列になって植えてあり、3列に1列の割合で、その列の木を全て膝の高さに切る。翌年は隣の列、翌々年はさらに隣の列を剪定し、3年で一巡する。
一方、Kona方式は日系移民時代から行われている手法。一本の木に常に4本の縦の幹を保つ。しかし、それぞれの幹の年齢が異なり、1歳、2歳、3歳、4歳とする。4歳の幹の収穫が最も多いが、収穫後は樹勢が弱まるので、他の3本を残し、それを剪定する。切るとそこから新しい芽が数本出てくるので、最も元気なものを選び伸ばす。
Kona方式 は4本の幹が混み合っている中で、どの幹を切るか一本一本考えながら剪定する。他の元気な幹を傷つけないように小さなノコギリで丁寧に切る。一方、BF方式は一列全ての木の全ての幹を膝の高さで切る。何も考えずに電動ノコギリで次から次へとガンガン切る。熟練度が要求されず、10分の1の時間でできる。
剪定での典型的な間違いは剪定し足りないこと。どの木も頑張って生えているから、切るのは心が痛む。この幹はもう一年いけるかなと、手心を加えて残すと、大抵は失敗する。枯れたり、実が小さかったりする。樹勢が弱いと害虫に襲われる。もったいなくとも、思いっきり切る。心の強さが問われる。Kona方式は一本一本、もったいないという気持ちとの戦い。一方、BF方式は、元気な木も含めて一列全部切るから、実際はこっちのほうがもったいないのだが、最初に決心してしまえば、後は機械的に切るだけで、心が楽。
BF方式では剪定した列(畑の1/3)は、翌年に収穫がないので、Kona方式よりも収穫量は少ない。しかし、常にどこかの列が低く剪定され、空間が生まれるので、両隣の列は風通しが良く、適度に日も当たる。その分、木と木の間隔を狭め、単位面積あたり、より多くの木を植えることで、Kona方式と同等の収穫量も可能。熟練度が要らず、剪定した列はその後、手間も掛からないので、労働コストが下がり、生産性が向上する。
BF方式はEdward Fukunaga氏が同僚のJohn Beaumont氏と1940年代に開発した方式。当時のコナコーヒー農家の8割は日系人。Fukunaga氏は2世で、ハワイ大学の研究員としてコナに常駐し、研究面でのリーダーだった。コーヒー栽培の効率性と品質向上に多大な功績があった。当時コナは生産量は少ないものの、その効率性や品質は世界一で、研究分野では世界を圧倒していた。
ところが、彼の発明したBF方式はコナの日系人の間には、あまり受け入れられなかった。親の代から引き継いだKona方式は熟練と手間がかかるが、それを美徳とし、厭わない日本人気質のせいか、生産量を犠牲にしてまでBF方式に替える人は少なかった。そもそも、昔の畑は列に植えられていないので、BF方式はなじまない。ほとんどの産地のコーヒーの木の寿命は20~30年だが、コナティピカは100年以上も実をつけ続けるので、わざわざBF方式用に列に植え替える人もいない。
Fukunaga氏はその後、中南米に農業指導に行き、BF方式は歓迎され、中南米で広く普及した。彼はコナの仲間の日系人の向上のために研究したのに、逆に他の国の産地に貢献するという皮肉な結果となった。半世紀以上も経った今でも、そのことを根に持って、BF方式を拒絶し、ビールを飲みながら酔っては「Kona方式でなきゃ~ダメだ!」(柳家小三治の酔っ払いの小言を英語でやった感じ)と、くだを巻く日系人の頑固じじいもいる。 コーヒーの味に違いはないんだけどね。