コナコーヒー農園便り 2012年9月号
日本の夏は暑い。ハワイの人が日本に行って驚くのは、夏の猛暑と台風の多さだ。ハワイはめったに台風が来ない。夏はさほど暑くない。ハワイの風がすばらしいと人はいう。ハワイ諸島には北東から貿易風が吹く。からっと、ひんやりとした風だ。これを求めて夏に日本からハワイに避暑に来る人も多い。ところが、コーヒーにとっては貿易風は曲者。人には心地よくても、コーヒーには強風すぎて、若い木は育たない。
コナとはハワイ語で島の西側を指す。本来はオアフ島、マウイ島でも全ての島で西側はコナであるが、別名Big Islandと呼ばれる大きなハワイ島だけが長い西海岸を有しているので、現在、地名として残っているのはハワイ島コナだけ。ハワイ諸島の中で、コナは最も貿易風の影響が少ない。コナの東側にフアラライ山とマウナロア山が聳え、貿易風を遮るため。このことがコーヒー栽培に最適の気候をもたらしている。
コナは島の反対のヒロと比べて雨量が少ない。貿易風で運ばれてきた水分はヒロ側で雨となる。観光客で賑わうコナの海岸沿いは雨が少なく、通年ほぼ毎日ゴルフができる。風は穏やかで海は静か。釣りやスキューバダイビングなどのレジャーに最適。ところが、不思議なことに、コナの海岸から車で5分も山腹を上がると、全く異なった気候となる。標高200m〜800mの地域に縦3km、横35kmの帯状のコーヒー産地(コーヒーベルト)が広がる。ここは風が穏やかで、1)直射日光が少なく、2)適度な雨量で、3)雨季と乾季が分かれ、4)一日の寒暖の差があり、コーヒーに適した気候条件が揃っている。
1)コナの朝は快晴。日が昇ると地面が温められ海から穏やかな西風(コナ風)が吹く。湿った空気が山腹を駆け上がると雲が生じ、10時を過ぎると曇る。コーヒーの木は直射日光が苦手。コナコーヒーは希少なティピカ種だが、ティピカは特にその傾向が強い。一般に、コーヒー産地では日陰樹が必要だが、コナでは昼前から曇るので日陰樹が必要ない。
2)夏は午後になると、しとしと雨が降る。海岸沿いは晴天でも、車で5分先の山の中腹は雨となる。コーヒーは、春から夏に実が成長する。その間に水をたくさんやると実が大きくなる。この時期の雨で、コナではサイズ19(19/64インチ)の大きな豆ができる。火山でできているハワイ島は有機質に富んだ溶岩土壌で水はけが良く、根腐れしない。
3)冬は乾季。日中の気温が夏より低いので、水蒸気の量が減り、曇りはするものの雨には至らない。コーヒーは冬の乾季の間、冬眠状態になり春を待つ。春に気温が上がり、雨量が増えると一斉に花が咲く。乾季・雨季が分かれていることがコーヒー栽培には大切。
4)夜は、昼とは逆に、山の上で冷えた空気が、海へ向かって降りてくる。これが昼夜の寒暖の差を生む。コーヒーは実に栄養をしっかり蓄えようとして味が調う。私の住む標高600mでは昼は気温が26度位まで上がるが、夜は15度近くまで下がり肌寒い。だから、我が家にはクーラーはない。使ったことはないが暖炉がある。夜は羽毛布団だ。海岸沿いに住めばクーラーが必要だが、この標高では無用。ここの気候はコーヒーにも良いが人間の体にも良い。まったく日本の夏はお気の毒である。お見舞い申し上げます。
ちなみに、夏には甘いさっぱりした酸味のコナコーヒーが良いと思う。(冬になったらまた、冬用の理由を考えます。)