コナコーヒー農園便り 2012年8月号
44歳でリタイアし2008年にNYからハワイ島のコナに越した。目の前に青い海と水平線が広がる家を気に入り購入。たまたま、家には当時2歳のコーヒーの木が1,300本あり、趣味で世話を始めた。だんだんのめり込み、一郎、二郎、三百十四郎…千二百三十一郎…と名前までつけ、我が子のように愛情を注いだ。ところが、すぐに約200本が枯れた。NYから来たばかりの我々は、どう対処すべきか分からず、おろおろと町中を駆けずり回り助けを求めた。テレビによくある、夜中に子供を抱えて下駄のまま駆け出し遠くの診療所のドアを叩き医者を起こす、あの感じだ。それも200人。
水と肥料が足りず、根が弱っていた。なるほど、何事も根っこが基本とは、こういう意味か。友人やハワイ大学の研究所の指導に従い、実を未熟のまま摘み取り、木の負担を減らし、肥料と水を与えた。元気が出てきたところで膝の高さで剪定し、木の重量を減らした。木が高いと風でグラグラし根の負担が多い。これで半分ぐらいは助かった。
それでも100本程が死んだ。共通の問題があった。引っこ抜くと根が殆ど無い。さらに掘ると、下に大きな岩。ハワイ島は溶岩でできた島で、コーヒー畑にも溶岩がゴロゴロしている。コーヒーはミネラル豊富な溶岩土壌を好むが、岩で根が張れなければ成長できない。植え付け時には、ブルドーザーに取付けた大きな掘削機で溶岩を砕いて穴を開け、そこに苗を植えたらしいが、砕ききれずに根の下に残っていたようだ。
近代的な畑はコーヒーが一直線に並べて植えられている。このほうが堆肥、除草、収穫、剪定などの農作業の効率が上がる。現代は便利な大型掘削機があるので可能だが、古い畑では、ばらばらに植えてある。かつて、日系一世たちが、シャベルとつるはしで、大きな岩を避けて植えたために一直線にならない。大変な苦労だ。
さっそく真似してみた。死んだ木の跡を掘り、つるはしで岩を砕いた。日系人の気持ちも知りたいが、“巨人の星”世代の私は星一徹の気持ちも知りたい。たちまち全身汗まみれ。2時間が限界。ひとつの穴に数日掛かることもある。暇を見つけては、つるはしを振った。暫く続けていると、ふと気が付いた。なんと、ゴルフのドライバーの飛距離が伸びている。コアマッスルが鍛えられたようだ。レッスン料を払わずとも、ジムでトレーニングしなくても、高いクラブを買わなくても、飛距離は伸びる。夢のような話だ。こうなったら止まらない。ひたすら、つるはしを振る日々が続いた。
しかし、いくらなんでも、つるはしで穴100個は難儀。そこで、ジャックハンマー(道路工事で人が手で持ってドドドーと穴を開ける道具)を借りに行ったところ、これでは歯が立たないと言われた。先輩農家に聞いてみたが、ジャックハンマーごときの小さな機械では無理のようだ。まして、明治の日本人移民じゃあるまいし、つるはしで岩を砕いてコーヒーを植えるなど見たことがないらしい。でも、私はこのやり方が好きだ。だって、このまま続ければ300ヤードも夢ではないかもしれない。無理無理。