コナコーヒー農園便り 2014年9月号
2012年に下隣の3エーカーの土地を買い増しコーヒーの苗木を植えた。敷地は縦170m横75mで、上と下では25mの高低差がある縦長の斜面だ。まずは、アメリカならではの巨大ブルドーザーで雑草だらけの土地の整地から始まった。雑草や、キアベ、シルバーオークなどの大木も根こそぎなぎ倒す。
しかし、妻はジャカランダの木は残したいという。春から夏にかけて青紫色の花を咲かせる。桜のように満開になるが、咲いている時期が長い。世界三大花木の一つに称される。ハワイアンでブルドーザーの運転主のカウウはパンの木を倒すのは心が張り裂けるという。ハワイアンにとって、パンの木は昔からの大切な食料。パンの木はマンゴー位の大きさの実をつけ、焼いたり蒸かすとサツマイモのような食感がする。それにハワイ自生のオヒアを加え、3種類は残すことにした。
それら以外の樹木と雑草を取り除くと、下から溶岩と土の混ざった土地が出てきた。コーヒーの木はミネラル豊富な溶岩が大好き。ここからが、カウウの腕の見せ所。あの大きなブルドーザーを自在に操り、敷地内を行ったり来たりを一週間も続けると、あちこちに直径20cmから1mの溶岩を積み上げた山と土の山ができた。次は敷地内の窪んだ場所に溶岩を埋めていく。次第に凹凸のない一枚板の斜面になる。その上から、集めておいた土をかぶせると、きれいな畑のできあがり。他の業者にはちょっと真似できない技。NHKの「超絶 凄ワザ!」に出演してもらいたいものだ。
コナは普段はさらさらと優しい雨が降るが、数年おきに集中豪雨がある。畑全体が坂なので、土壌の流出を防ぐ工夫を施す。まず、埋める溶岩の大きさは、敷地の下へ行くほど大きく、水はけがよい。また、畑の左下の部分に直径20m位の緩やかなすり鉢状の窪みを作る(その窪みにもコーヒーは植える)。豪雨で土砂が流れてもその窪みにたまり、敷地外への土砂の流出を防ぐ仕組みだ。
こうした作業では溶岩トンネル(Lava tube)に出くわすことがある。ハワイ島は島全体が巨大火山だ。玄武岩質の溶岩で粘り気が少ないので、火口から噴出すると川のように流れて海へ達する。その流れる溶岩の表面は空気にさらされて、冷えて早く固まる。その下の溶岩は固まらずに流れ続け、溶岩がすべて流れていってしまうと、地中に空洞のトンネルが残る。これが溶岩トンネルだ。わざわざ富士山の風穴・氷穴(天然記念物)を見に行かなくても、ハワイ島にはごく普通にあちこちにある。
溶岩トンネルは大きさもまちまち。直径10m以上もあれば1m以下もある。大きなトンネルが地下にあるのを知らずに大型のブルドーザーで上を整地すると、重さで崩落し、トンネルの中にブルドーザーがすっぽり入ることさえあるらしい。
今回、うちの畑にもトンネルを発見。直径2m程度で上の既存の畑から続いて、新しい畑に入ってほんの数メートルで消滅している。そういえばその既存の畑の右下端一帯は木の成長が悪くて不思議だった。そのすぐ外側、すなわち我々の敷地の隣は、昔のハワイアンの遺跡が出土した場所なので、呪われているのかと気味が悪かったが、なるほど、地面の下は空洞で根が張れなかったわけだ。
新しい畑のトンネルの尻尾の部分にはコーヒーではなく、ライチーの苗木を植えた。大木だからその程度の穴はものともせず育ってほしい。ライチーは楊貴妃が好んだという甘い果物で、私も妻も大好物。玄宗皇帝は楊貴妃のためにライチーを600kmもの距離を運ばせたそうだが、私は家から60mだ。妻は自分も楊貴妃のように美しくなるかなあと喜んでいる。「ん~。。。。。。」