2012年に新しい農園にコーヒーを植え付けた。まず、大型ブルドーザーで整地し、次に土壌流出を防ぐために芝生の種をまき、同時に土壌検査をした。芝の芽が出ると、いよいよ苗木の植え付けのための穴を掘る。その前に、畑全体のデザインを決める。
畑の回りはトラックがぐるりと一周できるよう幅10mの道で囲んだ。次にコーヒーの木の間隔は5x11feetとした。現代の畑はコーヒーを列に植える。列と列との間が11feet(3.4cm)で、同じ列の隣どおしの木の間隔が 5feet(1.5m)である。
一方、昔の畑は列に植えていない。世界のコーヒーは一般的には20~30年程度で植え替えるが、コナのティピカ種は例外的に長生き。100年以上もつ。日系1世が19世紀末に植えた畑が今でも残る。コナの土壌には溶岩がごろごろと混ざっている。昔は、溶岩を砕き、苗を植える穴を掘れるほどの強力な掘削機がなかった。人間の手とつるはしでの作業になる。よって、大きな溶岩を避けて、穴の掘りやすい場所を選んでコーヒーを植えた。大変な苦労だ。だから、木の間隔は広く、しかも不規則。その代わり、あまり剪定せず、枝を横と縦に大きく伸ばした。現代の世界各地の品種の多くがティピカ種を品種改良し、収穫作業がしやすいよう矮小化しているが、本家のナティピカ種は剪定しないと10m位に伸びる。昔は畑の斜面にはしごを立て摘み取りの作業をした。危険な作業だ。
現代では写真のような大型の掘削機でガンガン穴を掘る。大きな岩があってもお構いなし、岩を砕くことによってコーヒーの根が岩の割れ目の間に入り込めるようにする。コーヒーはミネラル豊富な溶岩が大好きだ。
列に植えると農作業の効率が格段に向上する。トラクターや芝刈り機が自由自在に畑に入り込める。昔のように45kgのずた袋を肩に担いで坂を上り下りしたり、腰をかがめて鎌で雑草を刈る必要がなくなる。灌漑用のホースを列に沿って敷設することで、容易に水遣りができる。それに加えて、ホースに液体肥料を溶かした水を流すことで、雨の少ない年でも、木を健康に保つことが可能で、収穫量も上がる。
うちの山側の既存の畑は、6x9feet で植えてある。列と列との間が9feet(2.7cm)で、木と木の間隔が 6feet(1.8m)である。これはコナでは一般的なレイアウトだが、列の間が9feetだと、トラクターや草刈機が通るには少し狭い。よって、新しい畑は5×11 feetで列の間を11feetに広げた。単位面積当たりの木の本数が減るが、作業効率が上がる。木と木の間は5feetと通常の6feetよりは幾分狭くした。コナでは一本の木に4~5本の幹を伸ばすのが一般的だが、私の畑では3本に制限することにした。一本あたりの生産量は減るが、豆に栄養が行き渡り健康な豆ができる。その代わり、狭い間隔で木を多く植えることで生産量を補うわけだ。
実際の作業は畑の斜面を横に横断する形で11feetごとにタコ糸を張った。これが列になる。それぞれのタコ糸には5feetごとにスプレー式のカラーペインターで地面に印を付け、掘削機がガンガン穴を掘る。その後、人がつるはしで穴の深さや大きさを調節する。そこに土を入れて、コーヒーの苗木を植える。これでできあがり。縦から見ても一直線、横から見ても一直線、斜めから見ても一直線の、幾何学的に美しい畑が出来上がった。
古い畑の約1,350本は一郎・二郎・・・千三百二十五郎と名をつけたが、新しく植えた約2,100本も続けると、三千二百六十五郎などと、数が多すぎて、とっても間抜けな名前になる。名づけられたほうも、これでは可哀相だ。ここはひと工夫して、新一郎・新二郎・・・新千九百九十九郎・・と言う具合に、すっきりと名づけることとした。