アメリカで運送業で成功した日本人に、成功の秘訣を尋ねた。日本から輸入された自動車のタイヤは、西海岸から陸揚げ後、目的地へ運ぶ途中で積み替えが必要な箇所があって、誰も効率的な積み替え方法を思いつかなかった。彼は人間がタイヤを手で転がして運ぶのが一番効率的なことに気が付き、それで成功したそうだ。こういう人力に頼る解決策はアメリカ人には発想しにくい。
コロナ対応での日本の保健所の役割も人手がかかる。保健所は感染者が出たら、入院を手配するうえに、一人一人濃厚接触者を追跡しそれを潰している。気の遠くなるような手作業で、人手の足りない中での、ご苦労には頭が下がる。日本が欧米各国よりも感染率が低かった理由は諸説あるが、保健所の頑張りもその一つだろう。
その反面、それが厚労省のコロナ対策の要なので、追跡できないほど感染が拡大すると、厚労省にとっては、それイコール、医療体制崩壊の危機、緊急事態ということになる。日本が欧米よりも桁違いに感染者が少ないのに、緊急事態宣言に陥る理由の一つに思える。逆に、保健所のもぐら叩きのような職人芸はアメリカ人には無理だし、職員の頑張りや残業に頼る政策を欧米は採らない。都市封鎖とかワクチンで対応という発想になる。
先月号で記した通り、コナでCBBというコーヒーの害虫が流行しているなか、当農園は被害を抑制してきたが、他の農園で、私のやり方に追随した農園はない。
CBBはコーヒーの実に50~100個の卵を産み、それが5週間で成虫する。実効再生産数は10以上。しかも、たとえ自分の畑をきれいに管理しても、隣の畑からドンドン飛んで来る。とても厄介な害虫である。
色々試行錯誤しながら編み出した私の方法は、要は、毎月、コーヒーの木の全ての枝の全ての実を目で見て、虫食いの実を取り除くというもの。そして、大胆に剪定して、自分が管理できる範囲内に生産量を抑えることにある。
コナも含めて世界の産地で推奨される対処方法は、定期的に虫食いの被害率をサンプル調査して、被害率が目標値を超えたら農薬を散布すること。コナでは海外で使われる農薬が認可されないので、昆虫類に取りつくカビの胞子(生物農薬)を散布する。その手法は研究者により科学的に効果が検証され、マニュアルに従えば誰でも簡単にできる。しかし、畑のCBBの8割は実の中にいるので、農薬散布では、外をウロウロする2割は退治できても、実の中にいる8割には効かない。年間の被害率を5%に抑えるのがやっと。
一方、私の手法はサンプル調査どころか、すべての実を確認するので、確実に8割を退治する。その上、カビも散布する。確かに、瞬時に虫食いの実を判別するのはかなりの職人芸だし、それを身に着けるには忍耐力と集中力が必要だ。だが、習得すれば、これに勝る方法はない。年間被害率を1%に抑えられる。しかも、感染爆発前に抑え込むと決意し一つ一つ潰せば、実は世間が思うほどには、作業は大変ではない。
残念ながら、私が他の農園主に熱弁をふるっても、こいつ馬鹿じゃないのという様な顔をされる。とても非科学的なアプローチに感じるらしい。自らそんな「馬鹿げた作業」をしようとは思わないし、それを労働者にやらせるのは、非人道的とすら感じるのかもしれない。だから私のきわめて日本人的な解決方法が、コナで採用されることはなかろう。もし、それができれば、収穫もきれいに摘む職人芸が身に付き、二重に効果があるのになあ。
先般、私の手法をまとめた文書を全農家に配布した。いよいよ、今年のコナコーヒーの収穫シーズンも始まった。どうなることやら。