農地を2エーカーから5エーカーに拡張したので、今年は近所の17歳のJ君をアルバイトで雇った。メキシコ人移民の子。5年前、この家を買った時にメキシコ人グループに収穫を手伝ってもらった際、父親に連れられて小さな子が働いていた。その子が今では185cm。高いところの実が楽に摘めて羨ましい。高校の成績がオールAで、飛び級して1年早く卒業した。1年間働いて大学へ行く資金を貯めたいというので、雇うことにした。
私の知人のKaneko氏は80歳近い日系3世。10人兄弟の3番目。上の2人は大学へ行かなかった。彼も高校卒業後、父や兄と一緒にコーヒー畑で働いた。弟や妹たちも手伝い、お金を貯め、3年遅れで大学へ行った。家族全員で働き、お金が貯まると順番に次の子を大学へ送り、上の2人の兄たち以外は全員大学へ行ったそうだ。昔の日系人はコーヒーを足がかりに、そうやって世代を経て社会進出を果たした。
かつて(1932年~1969年)、コナの小中高校は、コーヒーの収穫に合わせて、9月から11月を夏休みとしていた。これをコナ休暇と呼び、子供は大人に混じりコーヒー畑で働いた。現代のアメリカでは児童労働法により16歳以下の児童の労働には規制がある。やがて、コナ休暇の制度は廃止され、児童の労働も表立ってはなくなった。
そもそも、アメリカの法体系は複雑。旧フランス領のルイジアナ州を除く49州(ハワイを含む)ではイギリス型のコモンローが基本となる。裁判による判例の積み上げによって成り立っている。そのほかに連邦政府や州政府が制定する法律がある。州法は州によって異なる。ある州では合法でも他の州では違法になることがよくある。また、州法で合法でも連邦法で違法ということもある。矛盾だらけの法体系。弁護士が儲かるわけだ。
フロリダ州には妻が皿を1日に3枚以上割ったら、夫は妻を離婚することができるという州法が残っている。昔のアメリカでは皿が妻よりも貴重だったのだろうか。落語の厩火事(うまやかじ)では、麹町のさる亭主が女房よりも皿を大切にしたために女房から離縁されたが、アメリカでは夫は偉いのだ。ただし、今でもこのフロリダの法律は存在するものの、これをたてに離婚の申し立てをしても、裁判所は離婚を認めないだろう。
子供のコーヒー摘みに関し、連邦法とハワイ州法では扱いが異なる。連邦法では児童の労働は原則禁止だが、ハワイ州法では数ある農産物の中で、コーヒーの収穫のみは、例外として認可をとれば可能との条文が残っている。昔の日系コーヒー農家の必死さがうかがえる。
先日、コーヒー農家を集めて、労働法のセミナーが開かれた。ハワイ州の役人がコーヒーの例外扱いの説明をした。例えば、10歳から14歳の児童は、保護者の監督の下、休校日に限り朝6時から夕方6時までの間、2時間毎に15分の休憩と1時間の昼食時間を取る条件で認可される。一日6時間、週5日以内で、危険な環境下に置かないことが求められる。彼女は、この認証はオンラインで手軽に取得できますと聴衆に呼びかけた。
次に、連邦政府の役人が登場。彼曰く、連邦政府は16歳以下の労働は認めない。ハワイ州法のコーヒーの例外処置も認めないとたたみかける。面白いから、昔の日系人の文化や、それに根ざした州法も尊重してほしいと食い下がってみた。すると、こんな昔の州法を根拠に、町ぐるみで児童の労働を行なえば、連邦政府はハワイ島からのコーヒーの他州や外国への輸送を禁止できるんだ。そうすれば、新聞の一面に取上げられ、児童虐待としてコナコーヒーの名声は地に落ちるだろう。我々、連邦政府にはそれだけの力があるのだ。なめんなよという具合に、にらみを効かせていた。
怖わー。いまさら、誰もやってないよ、そんなこと。でも、コナ以外の世界中のコーヒーは、すべて例外なく子供が過酷な条件下で働いているんだよなあ。ところで、J君は17歳。連邦の労働法では大人扱い。頑張って大学に行ってね。