農園便り

2016年1月

珈琲と文化

「珈琲と文化」に連載を始めました。
年4回発行の季刊誌です。
2016年冬号はなんと創刊100号で、25年の歴史を誇ります。
購読制なので、書店等では販売していませんが、コーヒー業界の人々には広く読まれている業界誌です。
http://homepage2.nifty.com/inahoshobo/index.html http://homepage2.nifty.com/inahoshobo/back/no100.html


 

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2016/01/24   yamagishicoffee

コナコーヒー農園便り 2016年1月号

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昔、ウェッジウッドの店で18世紀に描かれた英国の古城の絵を焼き付けた食器セットを買った。皿の種類ごとに違う建築物が描かれている。コーヒーカップはStratford-upon-Avonの町のシェークスピアの眠るHoly Trinity 教会の尖塔。もう20年近く愛用している。

数年前に、各食器に描かれた古城に行き、画家が描いたであろう同じ場所から写真を撮る旅に出た。食器の絵と同じアングルから写真を撮る。レンタカーで英国中を走り回り10数箇所を訪問した。画家の立ち位置を突き止めても、今では私有地で入れなかったり、目の前に大木が育ち、なかなか絵と同じ写真は撮れない。200年以上の歳月を感じた。 

大抵は写真を撮っては次の目的地へ向かう強行スケジュールだが、Stratford-upon-Avonの町では、目指す教会の尖塔の写真を撮るほかに、シェークスピアの故郷なので数日滞在して観光した。ロイヤル・シェークスピア劇場でSir Patrick Stewart(新スタートレックのピカード艦長役)主演の「ベニスの商人」と「マクベス」を観た。

朝食付きのB&Bに泊まった。イギリスの朝は紅茶。そこを無理してコーヒーを注文した。宿の亭主はコーヒー農園主に出すのは恥ずかしいと謙遜しながら持ってきた。

飲んでビックリ。渋みも、えぐ味も、苦味もない。私が排除したい雑味がない。一体全体、どの国のどの農場だ?品種は?乾燥方法は?

かといって、私が求める華やかな酸味も甘みも感じられない。つまり、大きな欠点はないが、心浮き立つ長所もない。不思議なコーヒーだ。

妻と二人で「こんなの初めて。何だろうね?」と首を傾げた。これは珍しいコーヒーと、亭主に尋ねたら、厨房から悪戯っぽい目で戻り、N社のインスタントコーヒーの瓶を差し出した。「インスタントは飲んだことがないもので。。。」と、しどろもどろになってしまった。


せっかく「マクベス」を観たので、スコットランドまで足を伸ばしてネス湖のそばのコーダー城へも行った。主人公スコットランド王マクベスのお城だ。現在でもコーダー伯爵家がクリスマス期間などに実際に住む城で、不在中は一般公開している。森の中の広大な敷地で、城の回りには素晴らしい英国庭園。城内は立派な調度、家具、装飾品が並び、歴史を感じる。ところが、売店で出すコーヒーがN社のインスタント。日本の喫茶店ならこっそり出すだろうが、N社のロゴ入りで堂々と宣伝して出すところが凄い。

そこで80年代のN社のテレビCMを思い出した。上空からのコーダー城の景色が映され、テーマ曲に合わせて「マクベスの家系を継ぐコーダー伯爵」がコーヒーを飲む広告だ。さすがは貴族、たとえインスタントでも、カップを持つときに小指を立てないんだなぁと妙に感心した。確かその名はロドルフ。

事務所でロドルフさんはご健在かと尋ねたところ、日本のCMに出たのは、亡くなった先代のヒューだと言われた。そんなはずはないと詰め寄った。妻は「ロドルフはドイツ系の名前でスコットランドにはないよ。恥ずかしいから止めなよ」と制止するが、私の脳裏には上空からの景色とロドルフという音声がはっきりと刻み込まれている。こんな鮮明な記憶が間違いのはずがない。「君たちは(マクベスに登場する)3人の魔女の呪文にかかっているに違いない」と食い下がった。呆れた事務員は、長――――い系図を取り出し、先祖全員の名前を確認。「当家の歴史上ロドルフなる人物は存在しない」と厳粛な声で答えた。

帰ってYouTubeで調べたら、とんでもない勘違い。当時、N社のコマーシャルには、コーダー伯爵の他にもベルギー王室のロドルフ殿下のバージョンがあって、それを混同していた。
最近、自信たっぷりに間違えることが多い。老化現象か。

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2016/01/01   yamagishicoffee