農園便り

コーヒーの酸味

SCA (Specialty Coffee Association) のコーヒー評価基準では、酸味が重要視される。逆に苦味は減点要因。コーヒーの木を健康に育て、丁寧に収穫すれば、酸味のきれいなコーヒーができる。逆に、木が不健康で、収穫も乱暴だと、苦く雑味の多いコーヒーとなる。だから、生産者としては、SCA基準には一定の納得感がある。

きれいな酸味は質の良いコーヒーの証拠なのに、日本のコーヒー党には酸味を嫌う人が割と多い。味覚は好みの問題だから、とやかく言う事ではない。しかし、海外生活が長い私には、我々日本人は酸味を愛でる習慣と表現が乏しいと思える。欧米や東南アジアの食文化は酸味が多彩だし、酸味をより肯定的に捉える感じがする。

昨年NHKで帝国ホテルのフランス人シェフが日本の米を探求する番組があって、様々な種類の米を食べては、酸味が素晴らしいと力説していた。この感性には驚いた。私には理解できない。米といえば甘味やうま味だろう。しかし、彼には酸味らしい。

昔はおおむね、温帯地方は酢(酢酸)、熱帯地方は果物(クエン酸、リンゴ酸)、中央アジアはヨーグルト(乳酸)による酸味を用いたが、現代は影響し合い多様化した。

日本では米酢、梅干し、漬物、柑橘類などが代表。しかし、日本料理の本領はうま味だろう。一方、欧米や東南アジアは酸味を積極的に使う。タイ料理は、酢やタマリンド、ライム、レモングラスなどを用い、辛みと酸味の重層感が素晴らしい。

欧米の酢は、ワインビネガー(赤・白)、シェリービネガー、バルサミコ酢、リンゴ酢、モルトビネガーなど多彩。漬物も酢漬け(ピクルス)で種類も豊富で酸っぱい。トマトは味付けの基本だし、果物やヨーグルトを多用する。酸味が多様だ。

日本は欧米に比べ、果物の消費量が少ない。日本は古来からの果物が柿ぐらいで、種類が少なく慣れないせいか、近代以降流入した果物をどんどん甘く品種改良する。最近は梅干しまで甘い。

テニスのウィンブルドン選手権は、ストロベリー&クリームが名物で、学生時代に放送を観て憧れたものだ。実際に行ってみたら、そのイチゴは甘くなく酸っぱい。秋にロンドンで出回る小さなリンゴも酸っぱい。イギリスの果物を酸っぱくて不味いと言う日本人がいるが、大きなお世話だ。イチゴにしろリンゴにしろ、本来、果物は酸味が命。それを日本のように何でもかんでも甘味を追求するのは、少し特殊だろう。

そもそも、日本語は、なんでも「酸っぱい」と表現する。欧米人はSour(劣化した酸っぱさ)とAcidity(酸味)を区別し、Acidityは好ましい味として積極的に愛でる。

日本人は甘い酸味のワインを甘いと褒める。しかし、アメリカでワインを甘いと褒めたら、仲の良いソムリエにフルーティーとか酸味が良い (good acidity)と表現しろとたしなめられた。ワインは酸味を愛でる飲み物だ。だから、素人でさえ、このワインはBlack currant, plum, blueberry、と酸味を果物に例えてスラスラ表現する。恥ずかしながら、私には、どう考えてもブドウの味だ。

日本酒も酸味は命。酒の辛口の要因は多元的だが、酸味も要因の一つ。酸度が高いと辛口という。辛口党は酸味を好ましいと感じているが、酸味とは言わず辛いと表現するのがツウだ。たぶんSourな酢に劣化した酒と区別する意味もあろうが、あれは決して辛くない。唐辛子風味ではないし、オリーブオイルの辛味でもない。酸味(Acidity)を愛でる習慣と表現が乏しいためだ。

日本で、コーヒーの酸味をマイナスに受け取る人が多いのは、こういう背景があるのかもしれない。なら、いっそのこと、酸味とは呼ばず、このキリマンジャロは淡麗辛口でキレがあるねとカフェで粋がってみるのもおつだ。

2022/04/03   yamagishicoffee
山岸コーヒー農園は小規模ながら品質追求のコーヒー栽培をしています。
コナ・ルビーはクリーンな味わいのコーヒーです。
コナ・ルビーについて ネットでご注文

この記事へのコメント

コメントを送る

  ※ メールは公開されません
Loading...
 画像の文字を入力してください