農園便り

CBB害虫 指数関数との闘い

ハワイ州の外出禁止令のおかげで、このところ畑に引きこもって畑仕事ばかり。あっ!それじゃ、いつもといっしょか。山岸農園は通常通りです。

日本の新型ウィルスの感染率が低いのは不思議だったが、NHKスペシャル「“パンデミック”との闘い」を観て合点がいった。日本は感染初期から専門家チームがクラスター(集団感染)を特定し、一つ一つ潰してきたという。究極のもぐら叩きだ。こういう職人技は日本ならでは。米国には無理だろう。米国は中国式の封鎖政策を邁進中。

コナコーヒー畑にCBB(Coffee Berry Borer)という害虫が上陸して10年。コーヒーの実に50~100個の卵を産み、5週間で成虫して産卵する。5週間で何十倍にもネズミ算式に増加するコーヒー業界最強の害虫。基本的に世界各国の産地では殺虫剤で対処するが、米国は農薬規制が厳しいので、それらの殺虫剤は使えない。

そんななか、山岸農園はコナで唯一毎年CBBの被害率を1%以下に抑えてきた。指数関数的に増える害虫への我が農園の対処法は新型ウィルス対策と似たところがある。

まず第一に隣の農園からの流入を防ぐ。畑の境界にKukui nutsの並木やPlumbagoの垣根を配置してブロックする。入国規制だ。

コナコーヒーは1~5月に花が咲く。1月に咲いた花は3月頃には実が大きくなるが、まだ実の数は少ない。この時期、健康な実を求めて一斉に隣の畑から飛んで来る。全ての木の全ての枝の全ての実を目で確認して、虫食いの実は取り除く。3~4月の実が少ないうちに繰り返し行う。つまり、流入した一次感染を早期に特定して根絶する。

コナコーヒー農家はこの時期に昆虫類に取りつく種類のカビ(beauveria bassiana)の胞子を撒く。私が手で摘み取るのが最良と力説しても、そんなもぐら叩きの様な職人芸は気違い扱いされる。カビ散布するほうが科学的でスマートらしい。しかし、畑の中のCBBのうち8割が実の中にいて、外にいるのは2割。カビは外にいる2割を殺しても中にいる8割は殺せない。摘み取れば8割を殺せる。カビ胞子散布と併用すれば10割だ。

5月になると、畑の実の数は急激に増える。3~4月に虫食いを見逃すと、その木に被害が拡大する。つまり、二次感染によるクラスターの発生だ。クラスターを見つけたら、その木は徹底的にチェックする。時には一本の木に一時間以上もかける。これを怠ると三次感染になり、その木は数百・数千個の虫食いが発生する。こうなると、制御は無理。もったいないが、他の木へ広がる前に、その木は全部の実を摘み取り破棄する。

これを繰り返し、いかに0.1%以下の虫食い率で収穫時期(9~1月)を迎えるかが勝負。収穫は3週間ごとに畑を7~8ラウンドする。実が熟すとCBBは急激に増えるし、収穫が進むと畑の実の総量(分母)が減るので虫食い率が上がる。各ラウンド前に数日かけてクラスターを潰す。隣の畑は10月には100%を超え、溢れて飛んで来る。もう、取っても取っても指数関数的に拡大は加速。得体のしれない魔物との闘いに無力感を感じる。

12月には5%を超えるが、収穫前半は0.1%以下なので、全体で1%以下に抑えられる。年が明けて全体の約9割を摘み終えた頃、被害は10%を超える。こうなると3週間後には100%近くやられる。制御不能のオーバーシュートの状態。もうだめだ。収穫は終了。残った実はすべて摘み取り破棄。木を膝の高さに剪定して、そのエリアは翌シーズンは休耕する。実(CBBの棲み処)のない状態を1年以上保ちCBBを根絶する。

日本での新型ウィルスはもぐら叩き作戦では対処できない程に広がり始めた。オーバーシュートを回避できるかの重大局面。皆さん、米国みたいにならないように気を付けてね。外出禁止令は辛いよ。さあ、今日も畑仕事だ。

2020/04/01   yamagishicoffee
山岸コーヒー農園は小規模ながら品質追求のコーヒー栽培をしています。
コナ・ルビーはクリーンな味わいのコーヒーです。
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