今年のコーヒー収穫のピークもようやく終盤。近所の農園ではもう収穫が終わって剪定作業に入っている所が多い。うちの農園はコーヒーの実がゆっくり育つために、例年、収穫が近所よりも1カ月以上長く続く。今シーズンも1月までは続きそうだ。
ところで、いつも、収穫を手伝ってくれるメキシコ人グループの中のA君。このところ、何かに取り憑かれたように、コーヒーを摘んでいる。毎日、夜明け前からやってきて、うちの門の前で待機している。まるで競馬の出走ゲートにいる馬の様だ。そして、スピーカーを畑に持ち込み大音響でラテン音楽を聴きながらコーヒーを摘む。
あまりの大音響に私は少し離れて作業をするようにしている。遠くから聴くと、低音のチューバが小気味よくリズムをきざんで、とても軽快に感じる。私も陽気なリズムに乗って収穫できるので楽しい。ラテン音楽が癖になりそうだ。
先日、うちの妻が面白いことに気が付いた。スペイン語のできる妻によると、A君は切ない恋の歌や失恋の歌ばかりをかけている。たまに、ハッピーな歌がかかると、収穫の手を止め、その曲をスキップ。そしてまた悲しげな歌がかかる。身長180センチ以上で体重は優に100キロを超えるマッチョな巨漢の割に、センチメンタルな趣味の持ち主だというのが、妻の分析だ。私には陽気なラテン音楽としか聞こえないが、悲しい曲なのか。チューバのリズムに乗って「君は僕の吐く息、吸う息、君が僕の命の全てだ」。スペイン語って不思議な表現をする。
そこのところをグループの他のメンバーに尋ねてみた。すると、「そうなんだよ。俺たちも、悲しい曲ばかりで困っているんだよ。実はA君、最近、恋人にフラれて、それ以来、こんな感じ。そんな悲しい曲ばっかり聴いていると、良くないよと、皆で忠告しているんだけど、止めないんだよ」、という事情らしい。
コーヒー畑にも色々なドラマがあるんだなぁ。傷ついた心をコーヒーにぶつけていたんだ。てっきり、快活な音楽に陽気な人々と思っていたのに。