農園便り

コーヒー栽培にノーベル賞理論を応用 でも大失敗。。。

今年のノーベル経済学賞にMITのベント・ホルムストロム教授が選ばれた。私のイェール大留学時代の恩師だ。めでたしめでたし。当時イェール大学にはPrincipal-Agent理論の研究者が集まり、彼もその中心的人物だった。

経済主体をPrincipal(依頼人)とAgent(代理人)に分けて考えると、代理人は依頼人に雇われたにもかかわらず、依頼人の利益よりも自らの利益を優先することがある。例として、経営者と労働者、株主と経営者、企業と委託先、政治家と官僚、国民と政治家など、様々なケースで代理人が依頼人の利益を犠牲にする行動をとる問題が発生する。代理人が依頼人の利益に沿って行動するような仕組みを考えるのがこの分野のテーマだ。

コーヒー農園主がピッカー(コーヒー収穫する人)を雇う際にも悩ましい問題がある。私は良いコーヒーを作るのが目標。そのためにはコーヒーをきれいに摘むのが重要。一方、ピッカーの多くは米本土からこの時期3か月間のみコナに渡ってくる季節労働者で、たくさん摘んで稼ぐのが目的。丁寧に摘んでなんかはいられない。目標が違う。

年初に、あるピッカーのグループのリーダーが何故うちの畑は害虫の被害がコナで一番少ないのか尋ねて来た。丁寧に摘むことが健康な畑の秘訣と説明すると、ぜひこの畑で摘みたいと言う。品質を重視する彼女の発言が気に入り彼女のグループを雇った。シーズンが始まると彼女はアメリカ本土からの季節労働者を集めて連れて来た。

シーズンの最初は赤く熟した実が少ないので早く摘めない。そこで、時間給で払った。すると私が一日100ポンド程度摘むのに、彼女らは40ポンドぐらいしか摘まない。お喋りしながらのんびりと楽しくという感じだ。これはいかん。

次に摘んだ重さで支払った。ただし、他の農園の5割増しの賃金を出すので私と同じように丁寧に摘むよう頼んだ。ところが、日に日に人数が減り、誰も来なくなった。他の農園では丁寧さは要求されない。うちの農園の倍の量を摘めて、その方が得というのが理由。うちの農園が品質重視なのはわかるが、生活がかかっているので無理と言われた。品質を顧みない心ないピッカーとの評価はできない。彼女らだって生きていくのに必死だ。

他のグループを雇おうにも既に各農園が囲い込んでいるので今さら無理。仕方なく、私と妻の2人で夜明けから日暮れまで摘み続ける毎日だ。泣きながらの作業となった。

Principal-Agent理論では、農園主はこういう問題を解決するような雇用・契約形態を考えなければならない。もちろん私だって考えてはいる。実はこの2年間、メキシコ人のJ氏を雇った。彼をパートナーとして扱い、年間の利益を分配する約束をしていた。(実際には創業以来8年間赤字続きなので、彼の働きに応じてボーナスを支払った。)

さらに、彼の為に2ヘクタールのノニ畑を買った。床面積200㎡の立派な家付きだ。ノニは夏、コーヒーは冬が忙しい。良い組み合わせだ。彼には年間を通しての雇用を保障し、タダで家を提供し、その上、利益を分配する約束もした。生活は保障したうえで、質の良いものを作れば彼の収入も増える仕組みだ。ここに彼と私の利害は一致した。ホルムストロム教授に褒めてもらえそうなエージェンシー問題の解決方法だ。

ところが、J氏の兄が亡くなり、彼はメキシコへ帰国してしまった。兄の経営する先祖伝来の牧場を引き継ぐらしい。そこで、急遽、例のグループを雇って、そういう顛末になった。ここまで尽くしたのに彼は帰ってこない。問題解決になっていない。ノーベル賞の理論じゃないのか?まさか答えは風に吹かれているというのが今年のオチか?

ああ、新しいパートナーを探さなければ。そんなことより、とりあえずコーヒー摘まなきゃ。苦し~!  

2016/11/01   yamagishicoffee
山岸コーヒー農園は小規模ながら品質追求のコーヒー栽培をしています。
コナ・ルビーはクリーンな味わいのコーヒーです。
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