コナにCBB(Coffee Berry Borer)という害虫が猛威を振るっている。6年前に上陸した。CBBはスペイン語ではブロカと呼ばれ、以前から世界中の産地に存在する。この害虫への対処法は第一に殺虫剤の使用。しかし、アメリカは他のコーヒー生産国に比べて農薬の規制が厳しい。他の産地で使用する強力な農薬が使えないので、コナではCBBが大量発生した。
ハワイ州ではコナ以外にも他島でコーヒーを栽培している。コナから他島へのCBB拡散を防ぐため、様々な規制がかけられた。例えば、日本へ生豆を送る場合はホノルルを経由する。ホノルルを経由するものはオアフ島へのCBBの拡散を防ぐため、生豆を燻蒸するか、あるいは、100ポンド入りの麻袋を気密性のビニール袋に2重に梱包しなければならない。しかし、既にCBBはオアフ島も席捲している。今では無意味だが、一度できた規制はなかなか解除されない。山岸農園では空輸する前にすべての麻袋を2重にビニール袋に入れる。ほんの50~60袋でも汗だくの作業だ。大量に送る大規模農園では燻蒸してからコンテナに入れて船で運ぶ。ところが、今年は燻蒸剤が日本の国境で引っかかり入国を拒否されたケースがあったそうだ。ハワイ州の規制に従わなければ出国できず、従えば今度は日本に入国できない。コナコーヒー農家は板挟みだ。
Evergreen とかPyronylというPyrethrinを主成分とする殺虫剤がある。Pyrethrinは除虫菊に含まれる成分で蚊取り線香に使用される。これら農薬は米国環境省が認可し、枝豆など広くの農産物に使用されている。コーヒーにも認められていて、コナではCBB対策として使用する人も多い。念のため付け加えるが、山岸農園では虫よけのマリゴールド(写真)を畑に植えているが、こうした殺虫剤は使用していない。
これら農薬の中に添加剤としてPiperonyl butoxideという成分が含まれ、これが日本で問題となった。日本ではコーヒーに関してこの成分の安全基準が存在しない。日本食品化学研究振興財団によると、例えば、コメ、小麦、トウモロコシの基準値は24ppm。クレソンや白菜などは8ppm。しかし、コーヒーには基準がないため、たとえ最低基準の0.01ppmでも入国できない。
他国の強力な殺虫剤はよくて、この農薬がダメなのは変な話。コナの農家らは日本政府に迅速にコーヒーに対する基準値を設定してもらいたいと願っている。
コナの大手の農園は周辺の小さな農家からコーヒーを買取り、皮むき、乾燥、脱穀などの精製をする。個々の農家がどんな殺虫剤を使っているかは不明なので、買い取りには注意が必要。しかし、注意といっても、それを発見するのは無理なので構造的な問題だろう。ある大手農園では、買取の際に使用した農薬を聞き取り、日本向けに分別して精製しているが、厳密には難しい。今年はとある農園のコンテナがこの農薬の添加剤の為に日本に入国できなかったらしい。
日本の国境では輸入農作物をサンプリング検査する。たとえ不備で無意味な規制でも、それを盾にして、鴨を見つければ狙い撃ちにして点数を稼ぐのが官僚のサガだ。ハワイからのコーヒー生豆が狙い撃ちされて検査を受けている印象を受ける。山岸農園も2年連続で検査を受けた。6kgも抜き取られた上に、検査料まで請求された。殺虫剤を使えばもっと楽なところを、使わずに苦労しているこの俺様を誰だと思っているんだ。名前見てから検査しろってんだ。
山岸農園ではCBBにとりつくカビの胞子を撒いたり、虫食いの実を手で摘み取るなど、気の遠くなるような、数多くの対策を行っているが、化学殺虫剤は使用していない。他の農園の豆が混入することもない。来年もサンプリング検査したら怒るよ。