農園便り

コナコーヒー農園便り 2015年5月号

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 ウォール街で働いていた頃、ヨーダとあだ名された。映画スターウォーズのキャラクターで年齢800歳を超えるジェダイの親玉だ。なんでも、小さい体で、変な英語を喋り、いつも顔色が悪く緑色だから。そのうえ、私が育てた後輩や弟子たちの多くが、その後、業界のスタープレーヤーになったので、ヨーダだそうだ。

 しかし、昨年は労働者探しに難儀した。品質にこだわるあまり、うるさい事を言いすぎかも。ヨーダを真似て”Try not.  Do or do not.  There is no try”(頑張りますではダメ。結果が全てだ)と言えば、ウォール街の若者はしびれるが、コナでは単にうるさいオヤジだ。

 昨季はコナ全体で大豊作。先月号のように、収穫作業をするピッカーが村全体で不足した。私のところもピッカーが集まらず難儀した。最後の手段で、モーリス木村さんに助けを求めた。かつて、彼には農園拡大を反対されたので、いまさらお願いするのはためらわれたが、もう、全ての人に断られて、彼が唯一の希望だった。(You are my only hope)

 彼はコーヒー農園で育った日系三世が中心のゴルフ会のメンバー。平均年齢80歳以上だが、週2回のラウンドをこなす。皆、すこぶる健康。コーヒーで散々苦労してきた彼らは、もう、二度とコーヒー摘みだけは御免だと日頃から笑い飛ばしている。その彼らにコーヒー摘みを手伝ってくれと声を掛けたが、あっさり断られた。  

 そこで、一計。2袋(約90kg)を摘んだら、私の所属するプライベートコースでゴルフとランチとビール飲み放題の条件で募集したところ、たちまち10数人が集まった。 

 約束の朝、薄暗いうちから彼らは来た。だが、畑への階段を下りてくるのを見て、嫌な予感がした。その年齢で、転倒すると一大事なので、彼らは普段から階段を下りる際は、少し斜めに構え、片足ずつ、慎重に下りる。やっぱり無理だ。危険すぎる。こんな岩だらけの斜面の畑に連れ出したのは間違いだったと後悔した。

 アンティーク物の収穫用バスケットを腰に付け、よたよた坂を下りてきた。しかし、コーヒーの木に向かった途端、人が変わったように生き生きと摘みだした。しかも速い。彼らこそヨーダだ。普段は杖を突いてよたよた歩くのに、ライトセーバーを手にした途端に、10回連続で宙返りし、敵と戦うヨーダそのものだ。なんたって、10数人の平均年齢は80歳以上。合計経験年数は800年を超える。ヨーダに引けを取らない。

 速いうえにきれいに摘む。きれいというのは、摘んだバスケットの中は赤く熟した実だけで未熟・過熟の実はなく、摘み終わった木には赤い実は残っていなく、地面には実が落ちていない状態。クリーンカップの秘訣だ。これまで、フィリピン人・メキシコ人など何人ものピッカーを見てきたが、これほどきれいに摘む人々を見たことがない。

 中には、「コーヒー摘みは大学卒業以来だから65年ぶりだ」という人がいる。それでもきれいに摘む。昔はコナの小中高校は、コーヒーの収穫に合わせて、9月から11月を夏休みとしていた。子供たちは5歳になるとコーヒー摘みを手伝った。さわやかな酸味を誇るコナコーヒーの名声は彼らのきれいな摘み方によって築かれたのだ。

 自転車や水泳と同じで、子供の頃に覚えたことは、体が覚えている。実際に、5歳から30歳までコーヒー摘みをして、その後40年摘んでいない人のほうが、30歳から始めて40年間摘み続けている人よりも、きれいに摘むのだ。  

 「この頃、神経痛に悩まされていたけど、久々にコーヒーを摘むと、体調もいいなあ。ワハハハハー」と言いながらビール片手に帰っていった。お陰で、収穫はいっきに進み、何とか苦難の4週間は乗り切れた。この村には、まだまだ才能が眠っている。

”May the picking force be with you” 

2015/05/01   yamagishicoffee
山岸コーヒー農園は小規模ながら品質追求のコーヒー栽培をしています。
コナ・ルビーはクリーンな味わいのコーヒーです。
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