農園便り

2018年04月

雑誌「珈琲と文化」2018年春号の原稿

雑誌「珈琲と文化」2018年春号に拙稿が掲載されたので転載します。

 

久々に株式市場が荒れた。ヘッジファンド業界にいた頃、株式市場が急落するたびに、テレビ・新聞等がヘッジファンドが売りを仕掛けたと解説をするのには閉口した。まるで悪者扱い。そもそも、ヘッジファンドは情報を公表しない。「今、売ってますよー」と言いふらしながら株を売る間抜けなヘッジファンドはない。彼らの仕業ということにしておけば、誰も検証できないので、相場を解説する際に便利なのだろう。

 私の部署では、主たるポートフォリオの他に、先物市場に投資するファンドも運用していた。為替・株・債権を始め、商品相場にも投資し、小額だがコーヒー先物市場のポジションもあった。商品相場のトレーダーからコーヒー相場に関し、隔年収穫の説明を受けた。「ブラジルでは今年は豊作だったので、来年は不作で、在庫が減って….」という具合。当時はチンプンカンプンだったが、実際に農夫になると良く分かる。コーヒーは豊作と不作が隔年で生じ易い作物で、生産者には切実な問題だ。

豊作の年は、たわわに生った実に栄養を送るので、栄養が足りなくなる。コーヒーの木は子孫を残すため、果実に優先的に栄養を使う。葉や枝は枯れる。枝葉が枯れては、翌年に果実はつかない。よって、豊作の翌年は不作。逆に不作の年は実が少なくて枝や葉に栄養が行き渡って葉が茂るので、そのまた翌年は豊作になる。

生産者は隔年性を防ぐために様々な工夫をする。肥料や水を調節したり、剪定して樹勢を強く保ったり。我々農家にとり隔年性を制御できるか否かは死活問題だ。しかし、喫茶店でコーヒーを飲むたびに隔年性に心を痛める消費者はいない。

コーヒー先物相場は変動が激しいが、隔年性は主たる変動要因ではない。先物市場でリスク回避する大手生産者や中間業者に加えて、ヘッジファンドなどの投資家が市場に参入することで市場の厚みと安定性が増し、隔年性は事前に相場に織り込まれてしまう。むしろ、相場を動かすのは天候不順などの予期せぬ出来事だ。

生産者には死活問題の隔年性だが、市場を介して価格は平準化し、消費者はそれに煩わされずに済む。投資家や投機筋が市場効率化を促し、消費者はその恩恵を受けている。ヘッジファンドだって、人様の役に立っている(かな?)。

 現役当時、隔年性を語るトレーダーの話を訳が分からずポカンと聞いていた私も、今ではNYへ遊びに行くと、「隔年性を回避するには、夏場の雨量と肥料の窒素量がね…」とか「木の剪定方法がね…」などと、もう得意になって説明して、現役連中を煙に巻く。ウォール街の若い連中なんて、目玉に$サインが書いてあるような目つきをしているが、それが?マークに変わっていく。実に愉快だ。

 

 ノーベル経済学賞を受賞したEugene Fama教授の金融理論に効率的市場仮説がある。株式などの金融市場は多くの参加者の競争により、情報がいち早く価格に反映される。過去の価格の情報(罫線・チャート分析)は既に相場に織り込み済みで、チャートをいくら分析しても、将来の相場を予想するのは困難である。また、企業が公表する情報(ファンダメンタルズ分析)も発表と同時に相場に織り込まれてしまうので、翌日の新聞を読んでからの売買では遅すぎる。市場はかくも効率的なので、相場で儲けるのは難しい。

Fama教授はさらに「強度の効率的市場」を想定した。そこではインサイダー情報(非公開情報)も、価格に織り込み済みで、インサイダー情報を用いても将来の株価を予想できないとする。ところが、現実の社会では、インサイダー情報に基づく株の売買は違法。重罪だ。そんなズルが許されたら市場は成り立たない。仮に私がインサイダー情報を持たずに株を買うとする。私が買えば、誰かが売る。その売手がインサイダー情報を持っているかもしれない。であれば私は損をするので、最初から株を買わない方が良い。つまり、インサイダー取引が許されれば、誰も株を売買しなくなり、市場は機能しなくなる。

よって、実際の市場は、インサイダー情報までも織り込こむほど「強度の効率的市場」ではないとされる。ところが、私のYale大留学時代の恩師Stephen Ross教授が好んで用いた「強度の効率的市場」の例外的な実証例にオレンジ相場がある。オレンジジュースの元になるオレンジの相場はフロリダ州オーランドの気候に左右される。そのオレンジ相場は気象庁の天気予報よりも正確にオーランドの天気を予想するという。つまりオレンジ相場は、世間には出ていないインサイダー情報(この場合は公表されていない天気予報)すら、織り込み済みで、それに先んじて動くという驚異的な具体例だ。

 

 さて、コーヒーの話である。コナでは年が明けて収穫が終わると乾期。コーヒーの木は成長を止める。枝は乾き、葉は黄色くなる。今にも枯れそうに見える。しかし、その乾期の間に花芽を成長させて雨期の到来をじっと待つ。やがて、春になると、雨が戻ってくる。木の組織中の水分量が増えて、木は元気を取り戻したように見える。すると、いっせいに白い花が咲く。花はジャスミンの様な香りがする。満開時には畑が真っ白に見えるので、コナではコナスノー(コナの雪)と呼ばれる。2月から4月にかけて雨が降るたびに開花が数回に渡り繰り返される。

以前、日本人の先輩農園経営者から面白いことを聞いた。コナのUCC農園はコーヒーハンターとして知られるミカフェート社長の川島良彰氏が開発したのは彼の著書にある通り。一方、UCCに隣接するドトールコーヒー農園は秋山亨氏が開発した。秋山氏は22年間もその農園を管理し、数年前に退社帰国。昨年、東京の立川にBurgundyというコーヒーショップを開いた。私の師匠だ。彼の説によると、雨が降ると花が咲くのは確かだが、花が咲くと雨が降ることもある。コーヒーの木は気温や湿度の変化など様々な情報を感じ取り、もうすぐ雨が降ることを察知し準備する。時には雨に先んじて花を咲かせ、雨はその後、遅れを取り戻すように降ってくるそうだ。自然界の虫や植物には人知を超えた能力があるというのが彼の持論だ。私は彼の観察力に深く感銘した。

そこで思い出したのが前述のオレンジ相場。私の義兄にカナダの気象予報官がいる。彼にオレンジ相場の話をした。すると、オレンジ業界の人が、民間の気象学者を雇って、天気を予想しているに違いないとの答えを得た。特定の地域に注力すれば、広く全国的に天候を分析する気象庁よりも、正確に予報することは可能だそうだ。

しかし、それでは面白くない。私は人知を超えた植物の能力を持ち出し、予報官よりも先に、オレンジの木自身が気象状況を感じ取り木や実の状態を変化させて、それが先物相場に反映されているのではないかと、食い下がってみた。しかし、義兄は、農業の人はその類の話が好きだが、それはありえないと取り合わない。確かに、現在では天候を対象に取引する金融商品まで存在し、もしも、天気予報よりも正確に広範囲にわたって天気を当てるなどの芸当が可能なら、大金持ちになれる。

そういえば、アメリカには「ドングリが多い年は大雪」という迷信がある。ある年の秋、週に一度の部内投資会議で、あるアナリストが「今朝、道端にたくさんのドングリを見た。今年は厳冬だ。石油の値段が上がる。原油先物の買い持ちを増やそう」と主張した。その日、議長の私はどう反論したものか戸惑い慌てた。顧客の金を預かり運用している以上、合理性に欠けた理由を根拠に投資をしたら受託者義務違反に問われる。もちろん、彼も冗談で言っているので実行しなかったし、実際その年は驚くほど暖冬となった。大外れ。

でも、毎日、ストレスと闘いながら金融市場を追いかけていた私は、コンピューターの画面を通してしか世界を見ていなかったので、道端のドングリが目に入る精神的余裕は全くなかった。道端のドングリを愛でるアナリストの心の平穏平和を羨ましく思った。

農夫になって10年。オレンジやコーヒーの方が人より賢く、効率的な市場を構築できるというのは、ちょっとロマンのある話に思えて来た。証明したら、ノーベル賞が取れるかも。経済学賞よりも心の平和賞かな。

             2018年3月 山岸秀彰

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2018/04/27   yamagishicoffee

アースデイにビーチクリーンアップ

今日はアースデイ。有志が集まって、ビーチクリーンアップ。Kohanaiki海岸を皆でお掃除。

ハワイではビーチに私有権はない。プライベート・ビーチなるものは存在しない。ビーチは皆の物。

ビール瓶の細かな破片が結構あるが、さすがアメリカ、たばこの吸い殻はなかった。

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2018/04/23   yamagishicoffee

2桁リターンの投資物件のご案内

山椒魚は悲しんだ。彼は彼の棲家である岩屋から外に出てみようとしたのであるが、頭が出口につかえて外に出ることはできなかったのである。今はもはや、彼にとっては永遠の棲家である岩屋は、出入口のところがそんなに狭かった。そして、ほの暗かった。強いて出て行こうとこころみると、彼の頭は出入り口を塞ぐコロップの栓となるにすぎなくて、それはまる二年の間に彼の体が発育した証拠にこそなったが、彼を狼狽させ且つ悲しませるには十分であったのだ。「なんたる失策であることか!」(井伏鱒二著 山椒魚)

井伏鱒二の小説「山椒魚」はまるで現在の日本銀行。異次元の金融緩和で、日銀の資産は膨れ上がり、もはや出口がない。金融政策を正常化しようにも、資産規模がデカすぎて市場に壊滅的な打撃を与えずには出られない。なんたる失策であることか!

日銀による指数連動型上場投資信託の大規模買い付けにより、日銀は実質的に日本の企業の大株主となった。株式市場を中央銀行が買い支えるなんて、まさに禁じ手。また、日銀は日本の国債発行残高の4割以上を保有し、日本国の最大の債権者である。毎年発行される国債の8割近くを買い支えている。財政赤字を中央銀行が補填する事(財政ファイナンス)は国家経済破綻への第一歩である。

人口減少と低い生産性の罠にかかって日本の経済成長は見込めない。その上、政府日銀の政策は危機的状況。我々個人は自分の資産を防衛するために、慎重に投資先を選ばねばならない。もし、財政、あるいは日銀が破綻して、市場の日本政府・日銀への信認が失墜したら物価や金利は上がるし、円は暴落する。もはや現金とて安全とは言えない。

日本は特殊だから大丈夫とする論調もあるが、バブルの時もそうだったけど、日本は特殊という正当化で大丈夫だったことはあまりない。

仮に、そういう危機が到来すれば、外貨建ての資産を保有することは有効なヘッジ手段となる。自分の資産を守るために、外貨投資を真剣に検討する時期に来ているのではなかろうか。ちなみに、外貨資産への分散投資の効果については、私の昔の論文だが、証券アナリストジャーナル92年12月号「債券における国際分散投資―為替ヘッジすべきか否か」(山岸秀彰 上條修共著)をご参照いただきたい。

さて、お陰様で、山岸農園も創業10年を迎えた。採算度外視で高品質のコーヒーを作ることに情熱を傾けたために、10年で黒字はたったの一度。コナで最高の品質と褒められると嬉しいが、昨年などは笑っちゃうくらいの大赤字だった。日本経済の状況を憂いている場合ではない。自分の事業を何とかするのが先決である。

実は、少し前に農地を買い足した。今後は、そこにウェットミルや干し棚などの精製設備を作り、コーヒーの精製にもこだわり、さらなる品質向上を図る計画である。

増設には資金が必要。投資家を募集したいところだ。そこで、ドル資産への投資をご検討の方には耳よりの情報。私たちと一緒に最高級品コーヒーを作るために投資しませんか。ここだけの話ですが、私どものコーヒーを日頃からご愛顧いただいているお客様の中で、今回、出資していただける方には特別に毎年2桁のリターンを保証します。

通常なら2桁の利回りの保証などは、決して口にしてはいけない。怪しすぎる。私も厳しい倫理規範が要求されるCFA(米国の公認ファイナンシャル・アナリスト)の端くれ、そんなことは百も承知。ましてや、うちの妻は弁護士。しかし、今回に限って大丈夫。お任せください。自信を持って2桁のリターンをお約束するのでご安心いただきたい。ただし、2桁の数字の左隣に横棒が一本付きます。つまり2桁のマイナス。私と一緒にスカッと損してくれる人いますか?ハハハ!

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2018/04/02   yamagishicoffee