農園便り

Take the A Train

新年を迎え、コーヒー摘みもようやく峠を越えた。今シーズンは過酷だった。収獲中に畑で倒れて動けなくなることもあった。55歳の私コナ坂55は、まるで紅白の欅坂46。

一方、コーヒー摘みは単純作業。繰り返し続けると、色々なことが頭の中を通り過ぎていく。もっと美味しいコーヒーを育てる方法とか、金利や株価の行方とか。また、過去の様々な思い出が頭に浮かんだりする。でも、NY時代の仕事の思い出は辛いことばかりで、そこにはまり込むとため息ばかりがでる。気を取り直して、コーヒーを摘んでいて幸せだと自分に言い聞かせる。

もっと、頭を空っぽにして無心にコーヒーを摘みたいものだ。瞑想のように、呼吸に意識を向けながら摘んだりするが、いつの間にか、妄想にふけっている。まるで煩悩の塊だ。

畑にラジオを持ち込み、ホノルルの日本語放送KZOOラジオを聴きながらだと、とても楽に摘める。心の奥底に溜まった煩悩と格闘しなくて済む。また、家でじっとしながらラジオを聴くとすぐ飽きるが、コーヒーを摘みながらだと、不思議と朝から晩まで聴き続けることができる。しかも、3か月間毎日。

先日もKZOOラジオを聴きながら摘んでいたら、”Take the A train”(A列車で行こう)が聞こえて来た。ジャズのど素人の私でもこの軽快なメロディーは知っている。NYのマンハッタンのWest sideを縦断する地下鉄のA trainを曲にしたものだ。この曲がかかった瞬間、私の頭の中はNY時代にフラッシュバックした。

私はダウンタウンへの通勤にEast sideの地下鉄4・5・6番Trainを使っていた。West sideのA trainは普段使わない。一度、仕事帰りに、リンカーンセンター(West 64丁目)でメトロポリタンオペラを観るためにA trainに乗った。コロンバスサークル(59丁目)を過ぎて、そろそろ降りようしたところ、次々と駅を通過。次に停まった駅はハーレムの125丁目。週末の昼間のハーレム散策は楽しいが、夜に背広姿でハーレムなんかに用事はない。アポロシアターではなくリンカーンセンターに行きたいのだ。

しかし、なるほどと思った。”Hurry, hurry, hurry~♪“の歌詞のTake the A trainは、ジャズの本場ハーレムに急ぐなら、快速のA trainに乗ると速いという内容の曲である。確かに途中駅を全部すっ飛ばして速かった。そういう曲だったのかと得心できただけに、回り道だったけれど、少し得をした感じがした。

ハーレムから慌てて引き返した。既にオペラは開演直前。地下鉄を降りて会場へ急ぐと、開演を知らせるボーンという音が鳴っている。妻と慌てて走った。妻は小学生時代に短距離走で千葉県2位。足は速い。リンカーンセンターのドアをすり抜け、赤絨毯の美しい階段を一気に駆け上がると、目の前でホールのドアがまさに閉まろうとしている。”Wait!”と叫びながら駆け寄ると、前を走っていた妻の体が宙に飛んだ。ヘッドスライディングでドアに飛び込んだ。実はドアの直前は急に下り坂になる。ハイヒールで全力疾走していた彼女は下り坂を踏み外してしまった。漫画のキャラクターのように、走っている途中で足を宙にクルクル回転させながら転倒する人を初めて見た。

こんな思い出に浸っていると、突然、妻の「ギャー」という叫び声がした。我に返ると、そこはコナのコーヒー畑。ラジオから流れるTake the A trainの曲は既に終盤に来ている。コーヒーを摘んでいた彼女はいきなり蜂に襲われ刺されたらしい。

「Take the A trainなんか聴いてるから、蜂(Bee)が怒ったんだよ」というと、彼女は涙目で「なんで?」と尋ねる。「蜂だけにB Trainじゃないと」。。。

2018/01/02   yamagishicoffee
山岸コーヒー農園は小規模ながら品質追求のコーヒー栽培をしています。
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